日本株に「トランプ関税」への警戒感が広がっている。
米大統領選で勝利したトランプ前大統領は輸入関税の引き上げを公約に掲げる。実現すれば米国向け輸出の多い企業には逆風となる。既に外需株の中で資金の移動が始まっている。
「三菱電機などを買い、自動車株は投資比率を引き下げた」。農林中金全共連アセットマネジメントの中尾真也ファンドマネージャーは最近の取引を明かす。
米利下げや政治情勢の不透明感の後退で景気敏感株は買い場と見る。一方で関税引き上げとなれば対米輸出が多い銘柄への投資はリスクが大きいというのが理由だ。
トランプ氏の返り咲きを織り込む過程で、多くの投資家が声をそろえるのが「関税発動リスク」(かんぽ生命保険の空閑健一・市場運用部長)だ。
トランプ氏は米国内の産業や雇用の保護を目的に、日本も含めた全ての輸入品に10〜20%の一律関税をかけると主張している。
影響を受ける代表が自動車株の一角だ。輸出比率が8割で北米が売上収益の8割を占めるSUBARU株は、10月末比で13%安となった。
同じく輸出比率が高く米市場が主力のマツダ株は同9%安、自動車株以外では内視鏡メーカーのオリンパスも同2%安に沈む。
一方で、海外売上高で米国以外の比率が高い銘柄は上昇が目立つ。
中国を含むアジア向けが多い三菱電機株は10月末比15%高と大きく上昇した。2024年4〜9月期の連結営業利益(国際会計基準)は前年同期比30%増で、足元で苦戦する主力のファクトリーオートメーション(FA)も「トランプ関税が実現すれば、中国が景気刺激策を打ち出すと予想され市況回復が期待できる」(農林中金全共連アセットマネジメントの中尾氏)。
中国塗料株は8日まで5日連続で上場来高値を更新し10月末比では16%高となった。主力の船舶用塗料の販売が日本や韓国、欧州で好調だったとして25年3月期通期の業績予想を上方修正した。
中国の売上高が全体の5割を占めるTDK株は10月末比で11%高、同4割のヒロセ電機も株価は3%高だ。
市場では関税リスクを避けるため「外需株では現地生産・現地販売の多い銘柄を選好している」(仏系運用会社アムンディ・ジャパンの石原宏美株式運用部長)との声もある。
例えば信越化学工業は売上高の3割が米国だが需要地近くでの生産が多いことで知られる。
SBI証券の波多野紅美チーフクオンツアナリストは「投資家の関心は対米輸出比率の高いドル高・円安恩恵の銘柄から、より幅広い海外地域で成長が見込める銘柄へと移っている」と指摘する。
波多野氏の分析によると、海外売上高比率の高い銘柄の売買は活況で、相場全体に与える影響力は足元で過去最高水準。しかし、ドル円の為替感応度が強い銘柄の影響力は低下傾向という。対米輸出の多い企業はドル円の為替感応度が高い。
「目先の為替相場は方向感が見通しにくく、円安の恩恵は買い材料にならない」とSOMPOアセットマネジメントの田中英太郎シニア・インベストメントマネージャーは話す。
外需株の買いの基準は「世界的に業界内シェアが高く競争力がありながら割安で、為替と関係なく安定的に収益を伸ばせることだ」という。
野村証券によると前回のトランプ政権下では、通商法301条に基づく関税イベントが7回みられ、日本株相場の重荷となった。
東証株価指数(TOPIX)について、関税イベント発生の1営業日前を100として7回の平均的な動きを指数化したところ、発生の1カ月前から発生後1週間程度が経過するまでは下落する傾向が見られた。
野村証券の北岡智哉チーフ・エクイティ・ストラテジストは「中間決算が全体的にさえないため投資家は神経質になりやすい」と指摘する。
トランプ関税への怯(おび)えは前回以上に日本株を押し下げる要因となるかもしれない。
(河井優香)
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