勝敗のカギを握る激戦州を次々と制し、返り咲きを果たしたトランプ氏。
事前の世論調査では大接戦が伝えられていた選挙は、なぜトランプ氏の“圧勝”となったのか。そして、“もしトラ”が現実になった世界は今後、どうなるのか。
アメリカの政治と安全保障に詳しい明海大学の小谷哲男教授の解説です。
(キャッチ!きょうの世界キャスター 望月麻美)
トランプ氏 予想よりも強かった?
今回の大統領選挙の得票総数を見た場合、トランプ氏は今のところハリス氏よりも500万票、多く取っています。
また、2020年の結果と比べると、バイデン氏がとった数よりもハリス氏が取った数が1400万票減っています。
これは、トランプ氏が強かったというよりはハリス氏が弱かったということを表してるのだと思います。
また、2020年の結果と比べると、バイデン氏がとった数よりもハリス氏が取った数が1400万票減っています。
これは、トランプ氏が強かったというよりはハリス氏が弱かったということを表してるのだと思います。
アメリカの人口動態を考えると、今後、白人がマイノリティーになる一方で、ヒスパニック系の人口が増えていきます。
そうなった時に、より多様性を重視する民主党のほうが、長期的には強くなると言われていたんですが、今回の選挙結果を見ると、必ずしもそうではありませんでした。
そうなった時に、より多様性を重視する民主党のほうが、長期的には強くなると言われていたんですが、今回の選挙結果を見ると、必ずしもそうではありませんでした。
民主党としては戦略を立て直していかないと、これから先の選挙でも勝てないということが言えるかもしれません。
激戦州での勝因敗因はどこに?
“青い壁”と呼ばれている州は、いわゆるラストベルトと呼ばれているところで、かつては製造業などが盛んでしたが、産業構造の変化によって衰退しています。
2016年の選挙では、トランプ氏がそこに目をつけて製造業でなかなかうまくいってない票を掘り起こして勝ちました。
2016年の選挙では、トランプ氏がそこに目をつけて製造業でなかなかうまくいってない票を掘り起こして勝ちました。
今回もトランプ氏が再びその票を掘り起こしたということですが、一番大きかったのは経済政策の分かりやすさだったと思います。
トランプ氏は「チップの収入を非課税にする」とか、「残業代とか社会保障についても非課税にする」という非常に分かりやすい、すぐに利益が出そうな経済政策を打ち出していました。
これに対して、ハリス氏のほうは「希望の経済」と言いながら、具体的に何をするのかよく分からなかったという点があります。
また、バイデン政権は大学の奨学金を免除するということに力を入れてきましたが、ラストベルトの労働者の多くは大学に行っておらず、そうした有権者には響かない政策でした。そのあたりが大きく影響を与えたのだと思います。
このあたりは白人の労働者が多かったのですが、いまは黒人やヒスパニックの労働者も増えていて、このあたりに対してもハリス氏がアピールできなかったというのが敗因ではないかと思います。
このあたりは白人の労働者が多かったのですが、いまは黒人やヒスパニックの労働者も増えていて、このあたりに対してもハリス氏がアピールできなかったというのが敗因ではないかと思います。
ハリス氏 女性の支持伸びなかった?
(※激戦州ミシガン州の出口調査について)
特に人工妊娠中絶をめぐって、女性票がハリス氏に流れるとみられていましたが、そうはなっていません。
もう1つの問題はおそらく、今回、ハリス氏が多様性というものを重視して、例えば、女子スポーツにトランスジェンダーの選手を受け入れることを促進しようとしましたが、親世代からするとそこに抵抗感を感じている人たちが多かったというふうに思います。
特に人工妊娠中絶をめぐって、女性票がハリス氏に流れるとみられていましたが、そうはなっていません。
もう1つの問題はおそらく、今回、ハリス氏が多様性というものを重視して、例えば、女子スポーツにトランスジェンダーの選手を受け入れることを促進しようとしましたが、親世代からするとそこに抵抗感を感じている人たちが多かったというふうに思います。
また、不法移民の問題が今回、かなり重視されましたが、不法移民が増えたことによって、コミュニティーが不安定化した、犯罪が増えた、ドラッグが増えたということで、子どもの安全を考えたときにハリス氏を支持できなかった女性が多かったのではないかと考えられます。
若者も過半数がトランプ氏支持?
いわゆるZ世代と呼ばれる18歳から29歳の若者は、かなり民主党支持が強いだろうと言われていました。
しかし、バイデン政権のガザ政策への批判などもおそらく影響したと思います。
また、もう少し精査が必要ですが、もしかするとZ世代でハリス氏を支持しているように見えたのは、SNS上でそれを積極的に発信していた人たちであって、サイレントマジョリティーのZ世代は、実は保守化している可能性があるかもしれないということが、ここから読み解けると思います。
しかし、バイデン政権のガザ政策への批判などもおそらく影響したと思います。
また、もう少し精査が必要ですが、もしかするとZ世代でハリス氏を支持しているように見えたのは、SNS上でそれを積極的に発信していた人たちであって、サイレントマジョリティーのZ世代は、実は保守化している可能性があるかもしれないということが、ここから読み解けると思います。
ヒスパニック系でもトランプ氏支持増えた?
ヒスパニック系の人口は、白人に次いで多くなっていますが、従来であればその多様性という観点からヒスパニック系は民主党支持だと言われてきました。
しかしヒスパニック系はカトリックの人が多くて、保守的な考えを持っているということもあり、そのあたりがハリス氏よりもトランプ氏に流れた要因ではないかと思います。
しかしヒスパニック系はカトリックの人が多くて、保守的な考えを持っているということもあり、そのあたりがハリス氏よりもトランプ氏に流れた要因ではないかと思います。
また、トランプ氏が不法移民対策について、かなり強硬な政策を打ち出していて、メキシコ系の移民を排斥するような発言をしてますが、いったん正規のアメリカ市民権を取ったヒスパニック系は「これは自分たちの問題ではない」と、むしろ不法移民を排斥することはいいことだと考えているということもあったようです。
もう1つ、共和党の副大統領候補だったバンス氏が、かなりヒスパニック系の集会に出るなどアピールしたということなので、このあたりも影響したのかもしれません。
上院下院の結果についてはどう見る?
まず民主党からすれば、いわゆる“トリプルレッド”は避けたいということで、下院についてはなんとか多数派を取りたいと思っていると思います。
ただ、上院はすでに共和党が多数派になるということが決まりました。
ただ、上院はすでに共和党が多数派になるということが決まりました。
実は2016年の時も、トリプルレッドでトランプ政権が始まったのですが、そのときと比べると、下院はもともとトランプ派の議員が多かったのですが、上院でも、今回の選挙の結果、トランプ派の議員が増えたということになります。
仮にこの先、トリプルレッドになったとしても、2016年よりもさらにトランプ氏の政党としての共和党という姿が見えてくると思います。
両陣営の受け止めは?
ハリス選対の幹部の方は最後まで、“青い壁”と言われる州ではひっくり返せると言っていたようですが、そこが見事に失敗した形です。
ハリス陣営は内部分裂というような状況になっていると思います。誰が悪かったのかという責任のなすりつけあいが始まっていて、特にバイデン大統領に対する批判が強まっています。
ハリス陣営は内部分裂というような状況になっていると思います。誰が悪かったのかという責任のなすりつけあいが始まっていて、特にバイデン大統領に対する批判が強まっています。
「撤退するのが遅かった」という声もありますし、「そもそも昨年の時点で出馬するべきではなかった」という声も上がっています。なかなか総括ができていないという状況だと思います。
一方のトランプ陣営はかなり盛り上がっている状況です。すでに人事の話なども始まっています。
従来、トランプ陣営には良識派とMAGA派、トランプ寄りの人たちがいたんですが、このMAGA派の影響力がどうも強まっているようですので、このあたりが今後の人事や政策に影響しそうです。
ウクライナへの支援どうなる?
トランプ氏は選挙中からウクライナの戦争を止めたいということを発言してきました。また、ウクライナに対する軍事支援を継続するかどうかについては、消極的な発言が続いてきました。
先ほど触れたとおり、人事がすでに動いていますが、ウクライナ支援に消極的な人の名前があがり始めているので、もしかするとウクライナ支援には消極的になるかもしれません。
先ほど触れたとおり、人事がすでに動いていますが、ウクライナ支援に消極的な人の名前があがり始めているので、もしかするとウクライナ支援には消極的になるかもしれません。
この先、下院で共和党が多数派になれば、議会が予算をつけるのでますます予算をつけてウクライナを支援することは難しくなってくると思います。
上下両院でウクライナ支援に懐疑的な議員が増え、トランプ氏周辺にも懐疑的な人が増えていますので、ウクライナにとってはかなり厳しい状況かもしれません。
上下両院でウクライナ支援に懐疑的な議員が増え、トランプ氏周辺にも懐疑的な人が増えていますので、ウクライナにとってはかなり厳しい状況かもしれません。
イスラエルとの関係は?
トランプ氏は1期目からイスラエルに対する強い支持、支援を行ってきたので、それを継続するということは考えられます。
ただ、今回の選挙でユダヤ票を減らした一方、ムスリム票が増えましたので、このあたりが政策に影響を与える可能性があります。
ただ、今回の選挙でユダヤ票を減らした一方、ムスリム票が増えましたので、このあたりが政策に影響を与える可能性があります。
トランプ氏は、勝利宣言の中でもわざわざ、ムスリムの住人たち、有権者に言及していたので、そのあたりを意識している可能性はあると思います。
1期目は、パレスチナ支援に非常に消極的でしたが、今回の選挙結果を受けて、イスラエルに対してやや圧力をかけつつ、パレスチナ支援をするという可能性も見えてきたということが言えると思います。
ヨーロッパに対しては?
ヨーロッパではかなり戦々恐々としていると思います。
例えば、NATOから離脱するというような観測もありますし、関税を高めるということへも懸念が強まっていますが、これらは基本的に交渉のための圧力、準備だと考えたほうがいいと思います。
例えば、NATOから離脱するというような観測もありますし、関税を高めるということへも懸念が強まっていますが、これらは基本的に交渉のための圧力、準備だと考えたほうがいいと思います。
安全保障面に関しては、いきなりNATOから離脱するというよりも、離脱をほのめかすことでヨーロッパにより大きな負担を分担させたいという、そういうねらいが見えてくると思います。
そして、貿易面でも、すべての輸入品に関税をかけるということなのですが、最初から関税をかけるという圧力を加えて、それによってこの先あるであろう、アメリカとヨーロッパの間の貿易交渉で、有利な立場に立ちたいということだと思います。
北朝鮮に対してはどう出る?
前回、1期目は米朝首脳会談をやって、非核化を目指しましたが失敗しました。
その後、北朝鮮が核開発をさらに進めたので、すぐに北朝鮮と再び会談を目指すということはないと思います。
その後、北朝鮮が核開発をさらに進めたので、すぐに北朝鮮と再び会談を目指すということはないと思います。
一方で、バイデン政権の間に日米韓の連携が進みました。
トランプ氏もこれについては「数少ないバイデン氏の成果だ」と言っていますので、これを引き継ぎ、維持、拡大していくということが考えられます。まずは日米韓の連携を拡大しつつ、北朝鮮の出方を見るということになると思います。
トランプ氏もこれについては「数少ないバイデン氏の成果だ」と言っていますので、これを引き継ぎ、維持、拡大していくということが考えられます。まずは日米韓の連携を拡大しつつ、北朝鮮の出方を見るということになると思います。
今の北朝鮮と無条件で話をするということは、アメリカの国内政治的にもマイナスになると思います。
トランプ氏から北朝鮮に呼びかけるということはないでしょうが、もし北朝鮮から対話を呼びかけてきた場合はこれを受ける可能性はあると思います。
対中国政策はどうなる?
中国はトランプ政権にとって、経済、安全保障の両面で最大の課題と見なされています。
まず、経済の面では、ほかの国に対しては10パーセントから20パーセントの関税と言ってますが、中国の製品に対しては60パーセントの関税をかけると言っています。
まず、経済の面では、ほかの国に対しては10パーセントから20パーセントの関税と言ってますが、中国の製品に対しては60パーセントの関税をかけると言っています。
ますます米中間の経済の切り離しを進めていくでしょうし、ハイテク分野での競争を進めていくということになると思います。
一方で、台湾についてですが、基本的にはトランプ氏も台湾を守るという姿勢を維持すると思います。
しかし、経済面で中国側の譲歩を引き出すために、台湾問題と経済問題を絡めて、“ビッグディール”を目指すということにやや懸念があります。
しかし、経済面で中国側の譲歩を引き出すために、台湾問題と経済問題を絡めて、“ビッグディール”を目指すということにやや懸念があります。
つまり、アメリカの台湾への支援を減らす代わりに、貿易面で譲歩を迫るということがあるかもしれないので、このあたりは注目しておく必要があると思います。
インド・太平洋への関わりは?
中国が最大のライバルなので、中国を経済的、政治的、あるいは軍事的にけん制するためにも、バイデン政権下で拡大した日米豪印の「クアッド」という枠組みは引き続き活用していくでしょう。
また、バイデン政権がつくった「AUKUS(オーカス)」、米英豪の軍事協力ですが、これも引き継ぐ形で中国に対するけん制を強めていくということになり、少なくともアジアからアメリカが引いていくということにはならないと思います。
また、バイデン政権がつくった「AUKUS(オーカス)」、米英豪の軍事協力ですが、これも引き継ぐ形で中国に対するけん制を強めていくということになり、少なくともアジアからアメリカが引いていくということにはならないと思います。
日本はどう向き合えばよい?
経済面では、ほかの国と同じく関税をかけてくると考えられるので、日米の貿易協議を行う中で、いかに日本の利益を守るかということが必要になると思います。
安全保障面では、いま日本自身が防衛努力をしていて、トランプ氏もそれを歓迎するという発言がありますので、すぐに問題はないとは思います。
ただ、防衛費の増額が少ない、もっと増やせという圧力をかけてくる可能性は念頭に置いておく必要があると思います。
安全保障面では、いま日本自身が防衛努力をしていて、トランプ氏もそれを歓迎するという発言がありますので、すぐに問題はないとは思います。
ただ、防衛費の増額が少ない、もっと増やせという圧力をかけてくる可能性は念頭に置いておく必要があると思います。
トランプ氏は個人的な関係、個人外交を重視しますので、日本の総理としてもトランプ氏と個人的な関係を築く必要があると思います。
そのためにはトランプ氏の不規則な発言に右往左往することなく、日本の国益を説明する忍耐力が必要です。
一方で、トランプ氏は交渉相手の国内の権力基盤がどれだけ強いかということを見てきますので、その点はやや懸念が残ります。
一方で、トランプ氏は交渉相手の国内の権力基盤がどれだけ強いかということを見てきますので、その点はやや懸念が残ります。
その分、安倍総理がやったようにゴルフ外交を通じて個人的な関係を築いて日本の総理大臣、石破総理とトランプ氏の間で難しい経済の問題などを議論するということが必要になってくるだろうと思います。
日本政府は“もしトラ”に備えてかなり力を入れてきましたので、トランプ氏の周辺、側近たちとも関係を築いていますから、それを生かしつつ、首脳どうしの個人的な関係を築く必要があると思います。
(11月7日「キャッチ!世界のトップニュース」で放送)
NHKプラスの見逃し配信へ [配信期限:11/14(木) 午前10:54 まで]
キャッチ!世界のトップニュース キャスター
望月 麻美
2003年入局 ロサンゼルス支局やワシントン支局などを経て現所属
アメリカの政治や社会問題を中心に取材
望月 麻美
2003年入局 ロサンゼルス支局やワシントン支局などを経て現所属
アメリカの政治や社会問題を中心に取材
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