浜松ホトニクスの丸野正社長はNKTフォトニクスとのシナジーに期待を示す
浜松ホトニクスの丸野正社長は日本経済新聞の取材に応じ、デンマークのレーザー装置メーカーの全株式取得を同国政府が承認したことを受け買収完了やシナジー(相乗効果)発揮を急ぐ考えを示した。
応用製品の展開や量子コンピューターなど先端技術開発を含め、レーザー関連事業を今後10年で年間売上高400億円の規模に育てる。
浜ホトはデンマークのNKTフォトニクスを6月末までに約2億3900万ユーロ(約390億円。株式取得対価のほか有利子負債から現金を除いたネット有利子負債を含む)を投じて買収完了する予定だ。
技術開発では「自前主義」を伝統とする浜ホトのM&A(合併・買収)としては2017年以来となり、買収額も同社では過去最大という。
買収後の統合作業を指す「ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)」に向けて技術や人材、営業、資金など各機能で関係する計50人規模の社内チームをすでに立ち上げた。
丸野社長は「先方をリスペクトしながら、スムーズに当社の文化の中に溶け込んでもらう」と語り、受け入れ態勢を整える。
デンマークのNKTフォトニクスはファイバーレーザー装置を産業用や医療用などに供給(同社ホームページより)
NKTは繊維状のファイバーで光を増幅するファイバーレーザーが強み。
特に難易度の高い「フォトニック結晶ファイバー」の製造技術を持ち、医用や半導体製造、非破壊検査などに装置を供給する。
浜ホトのレーザー光源は化合物半導体を使う「レーザーダイオード」に限られて応用が進まず、事業規模は50億円どまりだった。
NKT買収により新たなレーザー光源を得る。「光検出器と組み合わせるといろんなことが考えられ、かなり成長できる」と丸野社長は強調する。
広い波長範囲にわたって強い光を出したり、出力を高めたりすることもでき、先端半導体の検査やレーザー眼科治療、バイオなど幅広く応用が見込めるという。
NKTは量子コンピューターの商用化で有力とみられる「中性原子方式」に必要なレーザーの要素技術も持つ。
浜ホトが既に保有する技術と合わせて「キーコンポーネントがすべて手に入るのは大きい」(丸野社長)。NKTに乏しい海外販売網を浜ホトが提供することもでき、シナジーを出してレーザー事業を新たな柱の一つとする。
NKT買収は2023年5月にデンマーク政府が安全保障上の理由で却下し、同年7月に再申請する異例の経過をたどった。
再申請の際は日本政府の助言も受けつつ情報を収集。外資導入を求めるデンマーク産業界も政府の却下決定に批判的だったという。逆転承認には「(同国の)世論の後押しもあったかもしれない」(丸野社長)と明かした。
(武田敏英)