トランプ次期米大統領は2日、日本製鉄によるUSスチール買収計画を阻止する考えを表明した。買収阻止を表明するのは、大統領選に勝利してから初めて。
日鉄はバイデン米政権中に買収計画の承認を得ることを目指すが、仮に承認されてもトランプ氏が大統領権限を使って阻止を模索する可能性が出てきた。
「かつて偉大で力強かったUSスチールが外国企業に買収されることは、私は完全に反対だ」。
トランプ氏は米東部時間の午後9時20分過ぎに、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で唐突に考えを表明した。
トランプ氏は「税優遇措置や関税政策によって、我々はUSスチールを再び強く、偉大にする。速やかにやる」として、USスチール単独での自力再生を支援する考えを示した。
日鉄は現在、買収計画が米国の安全保障を損なわないかどうかを巡り対米外国投資委員会(CFIUS)による審査を受けており、年内にも結論が出る見通しだ。日鉄はバイデン米政権中の審査終了を目指している。
バイデン政権が承認をしても、トランプ氏が何らかの手法で結論を覆そうと試みる恐れもある。第2次政権の閣僚人事や中国などへの関税引き上げ表明を踏まえると、自身の考えを本気で実行に移す可能性が高い。
トランプ氏は「私は買収計画を阻止する。買収者は注意することだ」とし、審査が大詰めを迎えるなかで日鉄をけん制した格好だ。
安全保障で強い大統領権限
トランプ氏は買収計画発表から間もない24年1月に反対表明をした。選挙戦で同じ考えを何度も表明してきたが、次期大統領としての発言となると重みは格段に増す。
国の安全保障に関する米大統領の権限は極めて大きい。例えばCFIUSの制度でも、大統領が安全保障の観点から下した決断内容については、裁判所の司法権すら及ばないと規定している。
第2次トランプ政権は大統領職と上下両院の多数派を共和党が占める「トリプルレッド」の状態になる。法改正もしやすく、トランプ氏の考えを実現する環境が整う。
日鉄「米国の安全保障を強化」
日鉄は3日、「買収は米国の国家安全保障を強化するもの」とする声明を出した。日鉄は「27億ドル(約4000億円)以上の投資を行う予定で、雇用を守ると約束している」と改めて強調した。
声明では、日鉄が持つ最先端の技術をUSスチールに供与することで「米国の顧客に最先端の鉄鋼製品を提供する」と説明。買収は「USスチールを支え、成長させるとともに米国産業界を強靱(きょうじん)化する」とした。トランプ氏の反対表明についての直接的な言及はしなかった。
石破茂首相は3日の衆院本会議で「コメントは差し控える」としたうえで、「日米相互の投資の拡大を含めた経済関係の一層の強化、経済安全保障分野における協力は互いにとって不可欠だ」と述べた。
経団連の十倉雅和会長は同日、徳島市での記者会見でトランプ氏の発信をめぐり「いろんな臆測や不安が増すかもしれないが、まずはいまの(審査)手続きを見定めたい」と述べた。「引き続き重大な関心をもって見守っていきたい」と話した。
日鉄、ロビー活動の強化も
日鉄で買収計画を担う森高弘副会長兼副社長は11月の大統領選後の記者会見で、トランプ氏が買収支持にまわることへの期待感を示していた。
ペンシルベニア州を遊説したトランプ氏にUSスチールの従業員が買収賛成を訴える機会があったといい、森氏は「それ以降トランプ氏からは一切否定的なコメントは出ていない」と述べていた。
森氏はトランプ氏が反対に回った場合には「話しに行く。本件は外国から投資を誘致して雇用を生むトランプ氏の方針に極めて近い」と強調していた。日鉄はトランプ前政権で中枢を担ったマイク・ポンペオ氏をアドバイザーに起用しており買収計画へのロビー活動を一層強めるとみられる。
トランプ氏が大統領権限などで買収を止めた場合、日鉄は買収を中止する法的根拠などを巡り法廷闘争に臨む可能性がある。USスチールを軸とした成長戦略も変更が必要になる。
日本市場が縮小するなか海外拡大が急務なのは変わらず、新たな枠組みで米国市場の開拓を目指すことになりそうだ。
25年6月までに買収計画が成立しない場合には、日鉄は違約金としてUSスチールに対して5億6500万ドルの支払いが生じる可能性がある。
(ワシントン=八十島綾平、東京=大平祐嗣)
2023年12月18日、日本製鉄が米鉄鋼大手USスチールを買収すると発表しました。買収額は約2兆円で実現すれば日米企業の大型再編となりますが、大統領選挙を控えた米国で政治問題となり、先行きが注目されています。最新ニュースと解説をまとめました。
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日経記事2024.12.03より引用