米ロ首脳は相互訪問をすることでも合意した
(2018年7月、フィンランドで開いた会談で握手するトランプ氏㊧とプーチン氏)=AP
【ウィーン=田中孝幸】
トランプ米大統領がロシアが侵略するウクライナでの戦争終結に向け、ロシアのプーチン大統領との直接交渉に乗り出した。
12日には電話協議を開き、即座に戦争終結に向けた交渉を開始することで合意した。両首脳による相互訪問を含め緊密に協力し、関係正常化を目指す方針でも一致した。
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米国はバイデン前政権時にはウクライナ抜きの協議に反対してきたが、今回の電話で融和路線への転換を鮮明にした。
トランプ政権内ではウクライナに厳しい案が浮上しており、今後の交渉ではプーチン氏が目指すウクライナの属国化の試みを米側がどれだけ阻むかが焦点になる。
「プーチン大統領がこの電話に要した時間と努力を感謝したい」。トランプ大統領は12日、SNSへの長文の投稿でプーチン氏との「極めて生産的な電話」の後の興奮をあらわにした。
ロシアのペスコフ大統領報道官の発表によると協議は1時間半にわたり、プーチン氏は「両国が協力すべき時が来たという米大統領の主張」を支持する意向を示した。トランプ氏の訪ロも招請した。
トランプ氏とプーチン氏、まずサウジアラビアで会談へ
両首脳が会談を含め、直接協議を継続することでも合意した。
トランプ氏は12日、記者団にプーチン氏とまず第三国のサウジアラビアで会談するとの見通しを示した。約3年にわたるロシアのウクライナへの侵略や残虐行為の責任問題を棚上げして関係正常化を目指すことで合意した格好だ。
トランプ氏はこの直後、ウクライナのゼレンスキー大統領と約1時間電話し、プーチン氏との電話協議の内容を伝えた。同国への一定の配慮を示す狙いがあったとみられるが、ゼレンスキー氏が負った政治的な打撃は大きい。同氏はXにトランプ氏と「有意義な会話をした」と投稿した。
プーチン氏は第2次トランプ政権の発足後、対米協議の実現に向け、トランプ氏への賛辞を繰り返すなど秋波を送ってきた。
トランプ氏と有利な戦争終結案で合意すれば、欧州やウクライナに押しつけられると判断しているためだ。
米政府の11日の発表によると、ロシアは21年から拘束していた米国人男性の解放に踏み切った。トランプ氏は男性の解放がウクライナ停戦に向けて「非常に重要な要素になり得る」と評価し、プーチン氏への謝意を表明していた。
一方、プーチン氏は2日公開のロシア国営テレビのインタビューで欧州の指導層について「すぐにトランプ氏が秩序をもたらし、彼らは主人の足元に立って尻尾を振るだろう」と語った。
米国の軍事援助に深く依存しているウクライナも米国の属国とみなしてきた。
プーチン政権の工作が奏功しているのは否定できない。これまでロシアの侵略に厳しい姿勢で臨んできた欧州の一部でも対ロ融和論が勢いを増しており、トランプ政権がロシアに大幅な譲歩をした場合に阻むのは難しくなっている。
トランプ政権内では交渉開始前の現段階ですでに、ロシアに配慮した戦争終結案が浮上している。
ウクライナに譲歩求める圧力も
訪欧中のヘグセス米国防長官が12日、戦争終結に向けた方針を発表した。
①ロシアが反対してきたウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟の断念
②停戦ラインへの米軍抜きの欧州平和維持部隊の配備
③ウクライナによる領土面の譲歩
④欧州によるウクライナ防衛の枠組みの構築、を柱とする。
いずれも将来の再侵略を抑止するための米国の関与を求めてきたゼレンスキー氏が反対する内容だが、トランプ政権には同氏への配慮はみられない。
ヘグセス氏はウクライナの全土奪回について「非現実的な目標だ」との認識も示した。
こうしたロシアに融和的な戦争終結案が交渉の出発点になれば、さらにウクライナに譲歩を求める圧力が高まることも想定される。
ペスコフ氏によると電話協議でプーチン氏は「紛争の根本原因を取り除く必要性を強調し、和平交渉を通じて長期的な解決が達成できる」と語った。目標としてきたウクライナの事実上の属国化を引き続き求める立場を示したものだ。
ウクライナは東部でロシア軍の昨夏以来の攻勢を受けて徐々に支配地域を失いつつある。米戦争研究所によると24年の1年間でロシア軍は新たにウクライナの4168平方キロメートルの領土を支配下に置いた。
これは面積で東京23区の約7倍に相当するが、ウクライナの国土全体の0.7%に過ぎない。プーチン氏が目標に掲げるウクライナ東部4州の制圧完了のメドは立たない。米英の情報機関によるとロシア軍は人海戦術によって1日1千人を超える死傷者を出し、兵員不足も深刻になっている。
ロシア国内では戦時下の高インフレや国庫の準備金の払底などで、経済面の苦境も深まっている。将来の属国化の可能性を残す条件を勝ち取れれば、プーチン氏も何らかの譲歩を演出して軍や経済の立て直しのために戦争終結に応じる可能性がある。
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