バンス米副大統領はAIの過度な規制に強い反対を示した(11日、パリ)=ロイター
パリで11日まで開いた「人工知能(AI)アクションサミット」で、米欧がAI規制を巡り火花を散らした。
欧州主導でAIの持続可能な発展に向けた国際ルールを探ったが、最終的に米国と英国が署名を拒んだ。米国のバンス副大統領は「過度な規制は革新的な産業を殺しうる」と欧州連合(EU)を暗に批判し、路線対立が目立った。
フランスとインドが共催した2日間のサミットにはおよそ100カ国から政府首脳や企業幹部が集まり、AIへの関心の高さを映した。
バンス氏の発言に対し、EUのフォンデアライエン欧州委員長は「AIは人々の信頼を得る安全なものでなければならない」と述べて応酬した。
サミットでは誰でも利用可能なオープンソースの推進などAIの公共性向上を目指す新基金「カレントAI」の設立が決まった。
「包括的で持続可能なAI」を支持する共同声明には欧州の国々や中国、日本を含む60カ国・地域が署名した。
一方でAIの推進と規制を巡り、米国とEUの温度差が表面化する場面も多かった。共同声明に関する交渉はギリギリまで続いたもようだが、米国と英国は署名しなかった。
DeepSeek(ディープシーク)などの中国発のAIへの警戒感は共通するものの、技術革新と安全性のバランスの取り方には明確な差がある。
向性の違いが際だったのが、2日目の各国首脳による基調講演だ。
パリ訪問が就任後初の外遊となったバンス氏は「開かれた規制が比類ない試みと研究開発を可能にした」と自国の起業環境を誇示し、「一部の国が我々のテック企業に対する締め付けを厳しくしようとしていることを憂慮する」と述べた。EUの厳しいデジタル規制を念頭に置いた発言とみられる。
米国のトランプ大統領はリスク管理や国際協調より、中国とのAI覇権争いに重点を置くとみられる。1月の就任直後にはバイデン前政権が出した大統領令を撤回した。
高性能AIの開発企業に対し、安全対策を政府に報告するよう義務付ける内容だった。
トランプ氏は新たに「AIにおける米国のリーダーシップへの障壁を取り除く」と題した大統領令に署名した。産業競争力や安全保障の観点から、米国のAI覇権に資する行動計画をつくるよう各省庁に命じた。
政府との取引拡大などを狙い、企業の間ではAI軍事利用の容認に転じる例も目立ちはじめた。米グーグルは「人を負傷させる兵器その他の技術」にAIを応用しないと掲げていたが、2月に入り取り下げた。米オープンAIも当初は禁じていた軍のAI活用への協力を現在は一部で認めている。
バンス氏に続いて登壇したフォンデアライエン氏はEU域内で2000億ユーロ(約31兆円)の投資を推進すると表明した。同時にEUのAI規制は「安全のための統一ルールを提供するのが目的だ」と説明。
「AIは優れた目的のための力であってほしい。これが欧州の道だ」と、米国とは異なる方針を強調した。
EUは2024年5月に世界初のAI包括規制を成立させた。本格適用は26年8月からだが、企業によるAIを使った従業員の感情追跡禁止など一部は25年2月から適用している。
EU内でAIシステムを提供していれば、日本など域外企業も規制の対象となる。
サミットでは「(AIに対する)ガバナンスとは特にグローバルサウス(新興・途上国)において、すべての人々のアクセスを保証することだ」(インドのモディ首相)との声も上がった。
社会の形を大きく変えうる新技術をいかに育てて多くの人々に届けるのか、国際社会の合意形成はまだ道半ばだ。
(パリ=北松円香、シリコンバレー=山田遼太郎、ブリュッセル=辻隆史)