TDK、増える貯金が迫る決断　電池集中と分散の分かれ道小西夕香（日経記事2025.2.28）

TDKの現預金が8000億円を初めて超えた。スマートフォン向け電池が好調で、2024年4〜12月期の営業キャッシュフロー（CF）は同期間として最高を更新した。

一方でリチウムイオン電池事業に依存する構造も鮮明となる。好調な電池に集中投資するのか、電池に次ぐ柱を育てるのか。市場の関心は潤沢となったキャッシュの使い道に集まる。

「電池はコモディティー（汎用品）といった見方があったが、TDKは技術革新を起こした」。

斎藤昇社長は1月上旬に米ラスベガスで開かれたテクノロジー見本市「CES」で日本経済新聞の取材に対しこう強調した。

シリコン負極で容量15%増

TDKは電池の負極に使う素材をグラファイト（黒鉛）からシリコン素材に切り替えることで、蓄えられる電気の量を増やすことに成功した。

23年度に第1世代の電池の量産を始め、25年夏ごろには充電容量を15%増やした電池の量産を始める。

同じ容量であれば電池の面積を小さくすることができ、スマホ内部の電池のスペースを減らして他の部品を増やせるようになる。折りたたみ型のスマホ向けに厚みを薄くすることもできる。

スマホ大手がTDKの電池をこぞって採用するもようだ。TDKによると世界シェアは足元で約5~6割を占めているという。

電池事業がけん引し、2024年4〜12月期の連結純利益は前年同期比35%増の1608億円となった。すでに25年3月期見通しを超え、同期間として最高益となった。

営業CFは前年同期比11%増の3689億円と過去最高となり、キャッシュも積み上がる。24年12月末の現預金は8183億円と、3月末から26%増えた。

業績は好調だが、株価は振るわない。27日の終値は1676円と、昨年末から19%安の水準で推移している。シンガポールの調査会社カナリスが1月中旬、米アップルの中国向けのiPhoneの出荷台数が24年10〜12月に前年同期比で25%減少したとのデータを発表したことが逆風となった。

データセンター向けの積層セラミックコンデンサー（MLCC）が伸びる村田製作所は3%高だった。スマホ電池に依存する収益構造のリスクが意識された形だ。

電池事業の4〜12月期の営業利益は前年同期比27%増の1966億円だった。前期の通期実績を超え、全体の営業利益（調整前）の8割を占める。

MLCCを中心とした受動部品は19%減の408億円、角度を測る磁気センサーなどのセンサー事業は45%減の53億円と苦戦。全体に占める割合はそれぞれ17%、2%にとどまった。

SMBC日興証券の桂竜輔シニアアナリストはリポートで「地政学リスクが高止まりする中、中長期的に次の収益柱となる事業の育成に期待したい」とコメントした。

手元資金が積み上がり、M&A（合併・買収）をする余力も増える。ただ、ゴールドマン・サックス証券の高山大樹アナリストは「まずは電池事業以外の利益改善を加速することが必要だ」と指摘する。

TDKは16〜18年にセンサー事業の強化に向けて、米インベンセンスやベルギーのICセンスなどのセンサー企業を買収した。

ただ、歩留まりの改善などに苦戦し、同事業（セグメント組み替え前）は21年3月期まで通期での赤字が続いていた。拙速なM&Aは利益率が下がる結果を招き、「かえってネガティブな評価になる」（外国証券）と警戒する。

一方、大和証券の佐渡拓実チーフアナリストは「電池の大容量化の需要は常にある。この分野で圧倒的に強いTDKは電池にある程度依存してもいいのではないか」と語る。

スマホやパソコンに人工知能（AI）が搭載されると消費電力が増える。端末側でAIを動かすエッジAIの普及に伴い、大容量の電池需要は拡大する。

同社は24年5月に発表した中期経営計画で、25〜27年3月期の3年間で営業CFを1兆円稼ぎ、電池事業の設備投資に3200億円、MLCCなど受動部品には2000億円を振り分ける方針を示した。

25年1月時点の25年3月期の営業CF見通しは4400億円と、4月時点の2700億円から引き上げている。投資の原資となる営業CFが増えるなか、分野別の振り分けを見直す可能性がある。

25年3月期の売上高見通しを4〜12月の期中平均の現預金額で割って算出した「現預金回転率」は3.0回と、24年3月期実績の3.6回から低下した。放置すると資金効率が低下しているとの指摘を受けかねない。

総資産利益率（ROA）は24年3月期に3.8%と、一般的な優良企業の目安とされる5〜6%には届かない。潤沢に積み上がった資産をどう活用するのか。成長分野を見定める目利き力が試される。

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日経記事2025.2.28より引用

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