バイデン米大統領は13日、安全保障担当者と対応を協議した=写真はX(旧ツイッター)から
【ワシントン=坂口幸裕】
米政府は14日、13日のイランによるイスラエル攻撃について「99%を撃墜した」と明かした。
被害に比例してイスラエルの報復攻撃の規模も大きくなると想定し、中東地域での紛争拡大のきっかけにならないよう防衛態勢の構築を周到に準備した。
【関連記事】米大統領、イランへの反撃に反対 イスラエル首相に
13日夜、米ホワイトハウスのシチュエーションルーム(作戦司令室)。バイデン米大統領と安全保障担当の高官はイランがイスラエルに向けて発射したドローン(無人機)やミサイルをイスラエル軍と米軍が迎撃する映像をリアルタイムでみていた。
イスラエルまでの弾道ミサイルの飛来時間は数分間ほど。米政府高官は14日、記者団に「緊迫した瞬間だった」と振り返った。迎撃の成功を確認するとシチュエーションルームに「安堵感が広がった」と明かした。
同高官によると、イランは100発以上の中距離弾道ミサイル、30発以上の巡航ミサイル、150機以上の攻撃型ドローンなどを発射。計300以上におよんだ。
米軍の戦闘機が70以上の無人機と巡航ミサイルを、東地中海に展開する米駆逐艦が4〜6発の弾道ミサイルをそれぞれ撃ち落とした。イラクの地対空ミサイルシステム「パトリオット」も弾道ミサイルを撃墜した。残りはイスラエルが迎撃したとみられる。
バイデン氏は12日までに米軍に航空機とミサイル防衛システムを搭載した駆逐艦を周辺に配備するよう指示していた。「イランの攻撃が成功すれば制御不能な海外紛争のエスカレートを引き起こしかねない」(米高官)。米政府内で緊張が高まっていた。
岸田文雄首相が国賓待遇で訪米中にも中東対応に心を砕いた。オースティン米国防長官らが駆逐艦を追加配備する案を提示し、バイデン氏が即座に了承した。
きっかけは1日のシリアのイラン大使館周辺への空爆だった。イラン指導部はイスラエルの攻撃だと断定し、保守強硬派を中心に報復を求める声が強まった。
イランの最高指導者ハメネイ師は10日、イスラエルについて「罰せられなければならない」と明言した。
米国はイランの攻撃は避けられないとの判断に傾く。一方で「最大の関心は中東の危機をパレスチナ自治区ガザに封じ込めること」(米高官)にあった。
2023年10月7日にイスラム組織ハマスがイスラエルを奇襲攻撃して以降、バイデン政権は衝突が他の中東地域に拡散しないことに重きを置いてきた。イスラエルとイランが直接戦う事態に発展すれば、戦火が一気に広がりかねない。
イランとの報復の連鎖に歯止めがかからなくなり、イスラエルの最大の後ろ盾になってきた米国も紛争に引きずり込まれるリスクが高まる。
中東政策への反発が強まる世論に神経をとがらせるバイデン氏は、11月に控える大統領選を前に鎮静化を急ぐ。
バイデン氏は13日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話協議した際、「エスカレートのリスクを慎重かつ戦略的に考える必要がある」と明言。イランへの反撃を思いとどまるよう迫った。
迎撃でイスラエル国内の被害を最小限に抑えられたため、イランへの過剰な報復は必要ないとの立場を伝達したとみられる。米国は仮にイスラエルがイランへの報復に踏み切る場合でも米軍が加わることはないともクギを刺した。
米ホワイトハウスのカービー大統領補佐官は14日、米CNN番組で「米国はこの地域で紛争を拡大するつもりはない。イランとの戦争を望んでいない」と述べた。
イランとイスラエルの紛争に発展するかと聞かれても「そうは思っていないし、そうなる必要もない」と指摘した。
イラン側も緊張が高まるのを避けたい思いがうかがえる。同国のバゲリ軍参謀総長は14日、イスラエルへの報復について「限定的に実施された」と主張。
米高官はスイスを通じてイラン側からイスラエル攻撃に関する「メッセージを受け取った」と明かした。米国への一定の配慮が透ける。