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ベゾス氏の米ブルーオリジン、大型ロケット打ち上げ成功

2025-01-16 20:42:34 | 宇宙・地球・航空宇宙ビジネス・星座神話・

【ニューヨーク=川原聡史、シリコンバレー=山田遼太郎】

アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏が率いる宇宙開発会社ブルーオリジンは16日、大型ロケット「ニューグレン」を初めて打ち上げて、宇宙空間の目標軌道に到達させた。

実用化に向けて前進した。ロケットの打ち上げで大きく先行する米スペースXを追う。

 

米東部時間16日午前2時3分(日本時間16日午後4時3分)、フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げた。

1段目と2段目を切り離し、打ち上げから約13分後に2段目を目標の軌道に到達させた。同社は「2段目とペイロード(積み荷)が軌道に入った」と発表した。

 

 

 


再使用を見据え、海上の回収船に1段目の着地を試みる計画もあったが、地球に降下中に通信が途絶えた。1段目を失い、回収に失敗した。

ニューグレンの全長は98メートルで、起業家イーロン・マスク氏が率いるスペースXの主力ロケット「ファルコン9」を上回る。

 

打ち上げコストは1回あたり6000万〜7000万ドル(約95億〜110億円)程度とファルコン9とほぼ同じで、宇宙空間に投入できる重さは約2倍になるとみられる。

アマゾンの通信事業向け衛星や、米航空宇宙局(NASA)の探査機などを宇宙空間に運ぶ用途を想定する。ニューグレンはロケットの1段目を再使用できる設計になっている。実用化に向けて、1段目の回収技術を確立する必要がある。

 

現在、同様の再使用型ロケットを実用化しているのは世界でスペースXだけだ。使い捨てのロケットに比べて製造や運用にかかるコストの低減が期待でき、頻繁な打ち上げも可能になる。

ブルーオリジンはニューグレンでファルコン9に対抗する。マスク氏は16日、自身のX(旧ツイッター)アカウントで「最初の試みで軌道に到達できておめでとう」と打ち上げ成功をたたえた。ベゾス氏は「ありがとう」と応じた。

 

足元のロケット打ち上げ市場は、世界の約半分のシェアをスペースXが占める。ニューグレンが実用化すれば、ロケットの選択肢が増え、世界の官民が宇宙開発を進めやすくなる。

再使用型ロケットの打ち上げ成功はベゾス氏の悲願だ。ベゾス氏は米アポロ計画による有人月面着陸をテレビ中継で目にした子どもの頃から宇宙に憧れを抱いていた。

 

アマゾンの成功で手にした資金を元にブルーオリジンを2000年に設立した。当初から再使用可能なロケットの開発を目標にしていた。

 

 

15年には再使用可能な有人宇宙船「ニューシェパード」で、宇宙空間への到達に成功した。

宇宙空間に短時間滞在できる「弾道(サブオービタル)飛行」という方式で飛行するものの、人工衛星を宇宙空間の軌道に投入する用途には向かない。

 

衛星を投入できる再使用型ロケットをいち早く実用化したのは、ブルーオリジンより2年遅れで設立されたスペースXだった。

同社は10年に大型ロケット「ファルコン9」の打ち上げに成功し、17年に機体の一部再使用を実現した。

 

ブルーオリジンは16年、ニューグレンの構想を発表した。当初は19年ごろの初打ち上げを目指していたが開発は難航し、初飛行はスペースXから15年遅れた。

2社の差がついた背景には、両社の開発姿勢の違いがある。スペースXは失敗を重ね試行錯誤する一方、ブルーオリジンは慎重に物事を進める傾向がある。

 

加えてスペースXは00年代からNASAの開発支援制度を利用して、国の宇宙機関と一体となって大型ロケットの開発に取り組んだ。こうした戦略をブルーオリジンは採らなかった。

今回のニューグレンの成功で一矢報いたが、ロケットを年間約100回打ち上げるスペースXとの差は依然大きい。

 

ブルーオリジンがスペースXに並ぶ宇宙企業になるにはニューグレンを安定的に打ち上げ、信頼性を確立する必要がある。

従業員数は24年時点で1万人超とスペースXと遜色ない規模になった。

 

新技術の開発も不可欠となる。ニューグレンは、機体の一部を再使用するのにとどまる。スペースXが現在開発中のロケット「スターシップ」はコストを最小化できる機体の完全再使用にメドを付けた。

米政権との距離感も課題となる。マスク氏はトランプ次期大統領の盟友として台頭した。NASAの次期長官に起用されるのは、スペースXの計画で宇宙飛行を経験した起業家のジャレッド・アイザックマン氏だ。

 

ベゾス氏は次期政権への接近を急ぐ。自身が保有する米紙ワシントン・ポストは24年の米大統領選で民主党のハリス副大統領への支持を表明するのを止めた。

トランプ氏の勝利後、次期政権の規制緩和などの取り組みについて「楽観的だ」と述べ、協力する姿勢を示した。24年12月中旬にはフロリダ州の私邸「マール・ア・ラーゴ」にトランプ氏を訪問した。

 

スペースXが市場をほぼ独占する状態が続けば、宇宙産業の健全な発展に影響を及ぼしかねない。価格を固定化したり、打ち上げ計画を自由に決めたりできる。

宇宙開発は安全保障にも直結する。打ち上げ手段の選択肢を増やして、独占状態の緩和につなげられるのか。マスク氏と同様に世界有数の富豪ベゾス氏の手腕が試される。

 

 



 
 

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

 

 

 

小玉祥司のアバター
小玉祥司
日本経済新聞社 編集委員
ひとこと解説

ロケットの供給が不足する中で新たな選択肢が加わることは宇宙ビジネス全体にとっても朗報です。

マスク氏のスペースXとよく対比されますが、人工衛星を打ちあげて宇宙からの通信ネットワークを構築する点は一緒でも、そこから電気自動車(EV)を軸にビジネスを組み立てるマスク氏と、クラウドサービスのAWSとの連携を軸にするベゾス氏では、戦略が異なります。

通信ネットワークのサービスは年内に開始する予定ですが、衛星の打ち上げが遅れていることは懸念材料です。

マスク氏がトランプ政権に影響力を発揮する中で、マスク氏とは違う戦略をとるベゾス氏がどうビジネスを進めるのか注目されます。

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宇宙開発

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が手掛ける大型ロケット「H2A」や新型ロケット「H3」、イーロン・マスク氏が率いるスペースXなど、世界中で官民が宇宙開発競争を繰り広げています。

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日経記事2025.1.16より引用

 

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