停戦合意の報道を受けて喜ぶパレスチナの人々(ガザ、15日)=ロイター
【イスタンブール=渡辺夏奈】
イスラエルとイスラム組織ハマスが15日(日本時間16日未明)、パレスチナ自治区ガザでの戦闘停止で合意した。停戦協議を仲介したカタールのムハンマド首相兼外相が発表した。
ガザで4万6000人以上が犠牲になった激しい戦闘が収束に向かう可能性が出てきた。
停戦は19日に発効し、段階的に実施する。第1段階としてハマスが捕らえている人質のうち、女性や高齢者など33人を解放する。
引き換えにイスラエルはガザへの攻撃を一時停止し、パレスチナ人囚人を解放する。その後の計画については停戦発効後に交渉する。
第1段階の停戦は6週間を想定している。合意を受けて15日に記者会見した米国のバイデン大統領は「交渉に6週間以上かかれば、その間も停戦は継続する」と強調した。
次の段階では「恒久的な戦争の終了を目指す」と繰り返し、成果を誇った。
合意は24年5月にバイデン氏が公表した構想に基づいている。3段階で構成し、最終的にはイスラエル軍がガザから完全に撤退し、ガザの復興を目指す内容だった。
停戦は米国、カタール、エジプトが仲介した。12日からカタールの首都ドーハに各国の代表団が集まり、合意内容を詰めていた。
仲介国はこれまで何度も停戦を試みてきた。双方の溝は深く、23年11月に実現した1週間の戦闘休止以降は目立った成果が出ていなかった。
ここにきて交渉が急速に進んだ背景には、外交成果をあげたいトランプ米次期大統領の存在がある。
トランプ氏は15日、カタールによる合意の発表に先立ち、自身のSNSでイスラム組織ハマスが拘束する米国人などの人質解放で関係国と合意したと明らかにした。
「中東の人質取引で合意した。まもなく解放されるだろう!」と記した。
20日に大統領に返り咲くトランプ氏は就任前に人質を解放しなければ「とんでもないことになる」「地獄をみることになる」とハマスに警告していた。
トランプ氏が中東担当特使に指名した不動産投資家のウィットコフ氏は11日、イスラエルでネタニヤフ首相と会談した。
同国メディアによると、ネタニヤフ氏に対し停戦案の受け入れを強く迫ったという。ウィットコフ氏はドーハでの協議にも参加した。
ブリンケン米国務長官が14日明らかにした戦後構想によると、ガザではまず、パレスチナ自治政府やガザ住民の代表者による暫定政権が統治を担い、国際社会が支援する。
ヨルダン川西岸地区を統治する自治政府は国際的にパレスチナの代表と認められているが、ハマスとは長年対立し、統治はガザに及んでいない。
戦闘が収束に向かうかは見通せない部分も残る。停戦の発効にはイスラエル閣議での承認が必要となる。地元メディアによると、閣議は16日に開かれる。
イスラエル連立政権に参加する極右勢力は停戦に反対しており、承認を得られるかがカギとなる。
スモトリッチ財務相は15日、停戦が「危険な取引だ」と反発した。ベングビール国家治安相も停戦に応じた場合、連立を離脱するなどとしている。
ヘルツォグ大統領は15日、閣僚に対して停戦を受け入れるよう訴えた。
ガザ衝突のきっかけとなったハマスの奇襲では、約1200人が犠牲となり、251人が人質として捉えられた。
イスラエルはハマスの壊滅と人質の奪還を掲げて空爆や地上作戦を仕掛け、最高指導者のシンワール氏ら幹部や戦闘員を多数殺害した。
レバノンのシーア派民兵組織ヒズボラなど周辺の敵対組織にも戦闘は広がった。こうした組織を支援するイランとイスラエルが史上初めて直接戦火を交える事態に発展した。
人質を巡っては、現在も約100人がガザに残っている。中には既に死亡している人もいる。合意に含まれる人質の帰還には遺体の返還も含まれているもようだ。
人質の家族団体は15日、今回の停戦が「全員の安全な帰還を保証する包括的なものになることを願っている」との声明を出した。
ひとこと解説
この停戦合意は、バイデン大統領が昨年5月に提唱し国連安保理でも翌6月に支持された三段階案に基づいていると同大統領が記者会見で述べている。
第一段階での停戦はイスラエル政府の承認を経て19日(日曜日)に開始され、42日間の間に33名の女性、年寄り、負傷者の人質の釈放と多数のパレスチナ人拘束者の解放が逐次実施され、イスラエル軍の人口集中地域からの撤退、パレスチナ避難民の帰宅、大規模な人道支援の再開などが含まれる。
停戦監視のメカニズムは米、カタール、エジプトで構成され、カイロに置かれる。第二段階の交渉は16日目から開始されるが、恒久停戦やその後のガザの統治など難題は多い。
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ひとこと解説
注意しなければならないのは、これはバイデンが提唱していた3段階の停戦の第一段目ということ。
停戦合意というよりは人質交換合意というニュアンスが強く、人道支援をすることを目的とした停戦である、ということ。
これから第二段目に向けての交渉が始まらなければならないが、イスラエルの極右閣僚の二人がどのように対応するのか、ということが大きな問題。
彼らも支持者を抱える中で、容易に妥協するということを選択することは難しい。この停戦で人道的な支援がきちんとなされることを切に願う。
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2023年10月にイスラエルとパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスの衝突が始まって以降、中東情勢が大きく揺れ動いています。
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日経記事2025.1.16より引用