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隣に座った男女のほうにちらと目をやったら、何だか見慣れた文字が目に飛び込んできた。
相手に気づかれてもいいと思って凝視したら、カタカナと認識。
これはちょっと話しかけてもいいかな、と普段は引っ込み思案な私が行動に出たくらいなのだから、このタトゥーは衝撃的。
読み上げて「これはあなたのお名前ですか?」と言ったら大喝采だった。
機嫌をよくした二人がいろいろ尋ねてきた。どのくらいここにいるのか、何をしているのか、在住外国人に対するお決まりの質問だ。私も日本在住時は周囲の外国人にそう尋ねた。
私を日本人と知った男のほうは(このタトゥーが何語かもあまり認識していない様子だった)こう尋ねた。
「ドイツの生活はいかがですか」これも定番の質問のようで必ず尋ねられる。
もちろん、本音がどうであれ、住まわせてもらっている以上、あまりその国を悪く言うのは遠慮しなければならない。
「最初の数年は大変でしたが、最近は慣れました」無難でしょ。
すると彼は「ドイツはいろいろ細かくて大変でしょう」と・・・
はぁ?
声を上げずに驚くや否や、私は全力で否定しようと勇みこんだ。おそらく、ここに多くいるほかのアジアの国々の人々の意見を知っているのだろう。
「全く逆です!日本の方が日常生活の隅々まで細かくて大変です」
私は興奮すると、日本語で話すのさえ困難になる。ましてや外国語だ。つっかえつっかえ「日本の電車は2,3分の遅延でも盛大に謝罪の放送が入る」とか、路上に散らばるタバコの吸殻を指して「こんな風に散らかっていない、ここは喫煙者ばかりだ」とか、言ったのだが、彼らはちゃんと聞いていなかった様子。
アジアはドイツよりのんびりしていて極楽、というイメージを壊したくないので無意識に聞かないようにしていたのかもしれない。
男性はトヨタ車に12年乗っているのだそう。
「一度も不具合が起こったことが無い」と自慢して、「日本の製品は素晴らしい」と褒め上げた。
そうか、わかっているじゃあないか、良い製品を造るためには厳密な製造管理が必要と想像できないかい?
子供の頃からよくトレーニングされた労働力、手先の器用さ、時間に遅れないという観念の強さ、指示に忠実に行動できることなどが求められ、普段の生活もここよりずーっと細かいんだぞ、と演説したかった私。
そうだ、「日本の勝ち」って本があったな、ドイツ語版をここで出版したら売れるかもしれないぞ。
ワールドカップ開幕戦の日本人審判が異様に小さい反則(日本人以外にとって?)を指摘して話題になっていたらしいではないか。あれが日本人だぞ、誇りに思うぞ。
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南米の僻地を旅行したとき、泊まったボロホテルのオーナーと少々会話した。
「ドイツの生活ががんじがらめで嫌になって、ここに移住したのさ」
タトゥー男女との会話で、この経験を思い出した。
日本が大好きなドイツ人もたくさんいる。日本に住みたがっているのは狂っているのかも、ね。
あ、ウチの夫もそうなんだけれど!
あの、整った快適さはやはり、病み付きになるのかもしれない。