「エクスペディアは日本人の旅行予約方法を変えるか? ワールドワイド新プレジデント スコット・ダーチスラグ氏に聞く」
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20110309-00000002-trendy-ind
米エクスペディアの2月10日の発表によれば、同社の2010年12月期の総取り扱い高は前期比19%増の259億ドル(約2兆1600億円)。現在20カ国に予約サイトを展開し、グローバルでは月間で7400万人のユニークユーザー数を獲得。取り扱い件数としては月間で6400万件に達しているという。
グローバルでこうした支持を得ているのは圧倒的な「数」と「安さ」「手軽さ」にあるだろう。世界3万都市、13万軒以上のホテルを提供し、利用者はラグジュアリーな5つ星ホテルからリーズナブルなエコノミーホテルまでの選択肢を持つことになる。エアラインにしても200社以上の提携航空会社が選択肢に含まれていることになる。「こうしたスケールメリットに加え、より良いものが提供できると思えばこそ、エクスペディアの意味がある」(スコット・ダーチスラグ氏)。
もちろん、「最低価格保証」も重要だ。「エクスペディアのメディア等への露出度の高さが、ホテルや航空会社などにとってのメリットとなり、結果、安価にて顧客にサービスを提供できている」(スコット氏)という。
最近では日本のCMやホームページでも「簡単・安心の予約サービス」「最低価格保証などの高いメリット」「世界最大の旅行予約サイト」を強く打ち出している。
にもかかわらず、日本ではエクスペディアの旅行予約サイトを実際に利用した例が必ずしも多くない。エクスペディア ジャパン自体は、2006年に日本でのサイト(http://www.expedia.co.jp/)をオープンさせているが、5年を経た今でも、日本での認知度は必ずしも高いとはいえない。
その理由として、エクスペディアでは「日本では国内独自の旅行サイトが数多く展開されていることと、日本人の旅行(個人・ビジネス含む)におけるオンライン予約利用率が低いこと」を挙げている。
そして新プレジデントの来日は、このような日本市場へ、より積極的に参入するためと感じさせるものだった。また、新たなポストとして日本に特別に「代表取締役兼ゼネラルマネジャー」として元eBay JAPANの三島健氏を迎え入れ、エクスペディアが日本におけるローカルビジネスにより注力していくことも強調された。
24時間、年中無休で、日本語でのカスタマーサポートを開始
それでは日本に「オンライン予約」を浸透させるために、具体的にどんな計画があるのか。
まず競合他社がまだ行っていないという「24時間、年中無休で、日本語でのカスタマサポート」。これは3月8日の記者発表会時点から開始した。これはある意味、「オンライン予約=価格競争優先でサービスに対する比重は高くない」という大方の予想を覆すものだ。いつ、どこにいても、電話をかければ日本語で答えてくれるというサービスが、フリーダイヤルで提供されるという。
また、2月2日に発表があったとおり、「ダイナミック海外ツアー」と海外航空券の提供も開始。「ダイナミック海外ツアー」とは、「航空券」「ホテル」「(空港)送迎」のオプションを自由に組み合わせて一括予約することができるツアーだ。特に、航空券やホテルの種類のみならず飛行機の発着時間や座席、6万軒のホテルと部屋タイプまで、細かく指定することができる。
それにしてもなぜそこまで日本の市場を重視しようとしているのか。また、今後海外旅行に関してオンライン予約が日本で浸透していくに違いないとする自信の裏づけはどこにあるのか。
以下、スコット・ダーチスラグ氏に詳しく話を聞いた。
日本オンライン予約は世界標準から20年ほど遅れている
まず、現状のアジア戦略としては、中国を最大の市場としているのではないかと考えられるが、その点については中国にはグループ会社が設立されているため、エクスペディアでは中国以外のアジアに注力する考えだという。
「日本を含めたアジア地域での旅行産業は過去2年間と比べて53%の成長率を遂げている。よってインド、東南アジア、ベトナム、台湾、韓国、インドネシアについて、事業を展開していく。そのなかで日本の市場は大きいと考えている。オンラインでの旅行予約に関しては非常に大きな潜在的市場を抱えているはずだ。英米においては約50%がオンライン予約を利用しているのに対し、現状では日本の旅行予約の中で、オンライン予約はわずか24%しかない。よって、日本のオンライン予約市場は、十分拡大する可能性が高いと考えている」(スコット氏/以下同)。
なぜ日本でのオンライン旅行予約市場の拡充にこだわるのか。
「そもそも、日本の大手旅行代理店等は、世界標準からすると20年ほど遅れている感がある」。おそらく、日本の市場において、海外旅行者数に占めるオンライン旅行予約者数のアンバランス感が見受けられるのだろう。もっと簡単に、もっと得な旅行ができるのに、なぜ利用しないのか。そうした思いもあるに違いない。
そしてエクスペディアはその市場を大きく進化させていく可能性を示唆する。「エクスペディアでは顧客にベストな選択肢をサイト上でわずか10秒程度で検索してもらうことができる。エクスペディアの年間売り上げ高、契約数から考えれば、その選択肢の多さは一目瞭然だ。また、それゆえに我々の利益率も多くの利用者があればこそ上がる」。海外旅行者数の多さは、それだけオンライン予約利用者数の増加につながりやすい。だからこそ日本の市場は開拓すべきものとみなされるのだろう。
「出張が多いビジネスパーソンで、特に中小企業や個人での契約を望む人にはエクスペディアは最適だ。デスク上のPCはもちろん、今後はスマートフォンやタブレット端末での日本語アプリの提供も行う予定でいる」とビジネス利用についても自信をのぞかせる。
また個人の旅行客に関しては、「トレンドとして、個人旅行が増えているのではないか」とし、だからこそ新たなサービスである「24時間、年中無休の日本語でのカスタマーサービスの提供」は意味を持つという。
「予約サイトを利用して旅行に出ても、通常は問題は起きない。それでも、顧客がどこにいても、相談できるサービスを提供することは、予約だけでなく旅行そのものの満足度を上げるためにも重要だ。もちろん、パスポートを紛失した際にエクスペディアがパスポートの再発行の手続きをすることはできないが、どう対処したらいいか、カスタマーサービスに相談すれば答えることができるということだ。あるいはたとえば、旅先で大きな問題が起きて、旅半ばで帰国を余儀なくされた場合など、旅行自体で問題が起きた際には、速やかに帰国できるように手配をし返金し、旅を組みなおすこともできる」という。
「ダイナミック海外ツアー」は完全日本向けに
さらに「ダイナミック海外ツアー」については、日本の旅行者ならではの特別なパッケージとなっていると説明。どの航空会社を使いたいのか、いつ出発したいのか、どのホテルに泊まりたいのか…細かく設定して選択していくことができるようになっているのだ。
「他社ではツアーの申し込み時点では、ホテルや航空会社が分からないことも多いのではないか。しかしエクスペディアでは、あらかじめ自分で選ぶことができるようになっている」。実際に試してみると分かるが、日程、目的地、ホテル、航空券など設定が実に容易な上に、最低価格保証も確認できるし、オンラインでオンタイムで変わっていく条件が、すばやく反映されていることも確認できる。
なぜここまで細かく設定したのか。これには日本での「ダイナミック海外ツアー」(他国での名称は「ダイナミックパッケージ」等)が、開始までに5年もかかった理由も関わってくる。
たとえばオーストラリアではエクスペディアのサイトがオープンしてから半年後、イタリアでもサイトオープンから3年後には「ダイナミックパッケージ」がスタートしている。しかし「日本の旅行客は、他国に比べて求める水準が高い」ため、スタートまでに十分な時間をかける必要があった。
「アメリカで大ヒットしているパッケージを日本で販売したとしても、同じようにヒットするとは限らなかった」わけだ。さらにいえば、先述の通り、日本市場の遅れの問題もある。日本の航空会社と海外の航空会社の情報公開に関する対応の速度の違いもあった。そうしたバックヤードに対応するまでの時間がかかったことも、時間がかかった要因だ。
ただ時間をかけたからこそ、今回のようなサービスの提供が可能になったともいえる。また、ここまで整ったからには、今後の展開はスピードアップさせていきたいという意向もある。
ところで、こうした日本向けサービスを提供することでエクスペディア自体にメリットはあるのだろうか。
「成長を続けることによりユーザーをエクスペディアのオンライン予約に取り戻すことができる。エクスペディアは15年前の創設以来、オンライン予約のビジネスにおいて世界的にトップの地位にある。日本においても、某社と共同でオンラインでの予約サイトをスタートさせたのはエクスペディアだった。しかし、その後、日本ではさまざまな旅行予約サイトがオープンし、エクスペディアは日本では現在トップの座にはいない。それだけに、トップの地位を取り返すという意味でも成長を遂げなければならない。そうすることで、顧客に対して最善のサービスを提供することができるようにもなるということだ」。
今後の目標としては、「日本においては海外旅行だけではなく、国内旅行の展開も考えている。ウェブを見ることができるすべてのデバイスで、エクスペディアのオンライン予約ができるようにしたい。リアルタイムで、どこにいてもサービスが提供でき、高品質な選択肢を与えられ、価格面でも最大限にセーブできるようにする…先は長いながらも、日本市場におけるオンライン旅行数の向上のためにも、まずはどれほどエクスペディアがよいものか、実感してもらいたい」とした。
(文/山田真弓=日経トレンディネット)