第117回の直木賞を受賞した、浅田次郎の大ベストセラー『鉄道員(ぽっぽや)』を読む。
それまで短編集というのも知らなかったけど、まさかこんな話だとは驚いた。
これはまさかのファンタジーである。
“ぽっぽや”といえば、実際に映画は見てないんだけど、予告編などで雪が降り積もるホームに立つ、健さんのイメージが焼き付いているが、読後のイメージとかなり違っている。
健さんが出てる作品と思って読むと、いい意味で裏切られるだろう。
それにまさか彼がファンタジー作品に出てるとは思ってもいなかったので、今猛烈に映画も見てみたい。
日に3本しか走らない北海道幌舞線の終着駅になる幌舞駅で、長年駅長を務めた乙松は定年を迎えようとしていた。国鉄時代を共に過ごし、今は美寄中央駅の駅長となった仙次は、一昨年妻を亡くした乙松と一緒に新年を迎えるために、最終便で幌舞駅へとやってきていた。
乙松は仙次の定年後の身の振り方を持ちかけるが、頑なに遠慮するばかり。
やがて二人は昔話に酒を酌み交わし、いつしか眠ってしまうが、真夜中仙次は人の気配を感じ目を覚ます。
「駅長さん」という声にひかれて起き上がると、出札口に赤いマフラーを巻いた女の子が一人立っていた・・・。
短編8作品からなる本書、テーマ性といい、過去にさかのぼって想いを馳せるところといい、先に読んだ「降霊会の夜」とほとんど同じ感じだったが、より読みやすくそして遥かに情に溢れ、短編ということでより洗練された強烈な印象を残す。
読者それぞれの、過去に抱えるデリケートな部分が見透かされるように、泣きのツボを的確に突いてくるシチュエーションを作り出す上手さ。
そしてそれぞれの主人公に訪れる奇跡は、泣きたくなるほどの切なさと温もりを感じさせ、何度も読み返してしまう中毒性を生む。
あとがきで北上次郎氏が、“本書はリトマス試験紙のような作品集だ。”
といっている。
8作品どれも面白いんだけど、特に「鉄道員」「ラブ・レター」「角筈にて」「うらぼんえ」はやはり印象的で、この4作品について、それぞれ支持する読者がいて、女性は「ラブ・レター」派で、男性は「鉄道員」派と、それぞれの派があり、日々激論が繰り広げられているらしい(笑)
そんな中、私は断然「うらぼんえ」だなあ。
奇跡も作りすぎの所がなく、主人公の窮地にさっそうと現れる痛快さと、希望という光が差し当てられるラストも素敵だ。
結構切ないまんまで終わっちゃうパターンが多いんだよねえ。
よし、次は「椿山課長の七日間」いっちゃおうかなあ。
ただこの作品も既に映画化されていて、観てはないけど主人公が西田敏行ということだけ知ってるので、読んでる時に彼にイメージが固定されなけりゃあいいけど、心配だ・・・。