箱根駅伝を目指す若者たちを描いた、三浦しをんの『風が強く吹いている』を読む。
2007年の本屋大賞第3位となっているが、直木賞にはノミネートすらされていない。
つくづく直木賞はあてにならないと、今回は痛烈に感じた。
寛政大学4年の清瀬灰二は、行きつけの銭湯「鶴の湯」へ行った帰り夜道で、コンビニの店員に追われて目の前を走り去っていく若い男を見てつぶやく。
「あいつだ。俺がずっと探していたのは、あいつなんだ」
年明けで人に会うと、「今年の箱根駅伝は・・・」と熱く語る人にたまに会う。
私はというと、正月に二日間に渡ってずっと実況中継が放送され続けているこの箱根駅伝を、チャンネルを変える度にチラッと目に入る映像だけで、ただ「ああ、まだやってるんだ」というぐらいの印象しかなかった。
申し訳ないが正直ほとんど興味がなくて、見ていなかった。すぐに本屋大賞で見つけた本作も、その箱根駅伝の話っていうこともあって、たくさんの絶賛のレビューを目にしていたが、あまり読む気になれなかったのだが、「神去なあなあ日常」を読んで、この作家さんの他の作品を読みたくなり、軽い気持ちで読み始めた。
偶然出会った走(かける)の、美しいフォームで駆け抜けた姿に魅了された清瀬は、住む場所もまだ決まっていない走を、自分が住む竹青荘というぼろアパートになかば強引に誘い込むんだけど、物語はここからこの竹青荘に住む住人10人で、箱根駅伝を目指していくという展開をみせる。
ハイジと走以外ほとんど未経験の住人達が、1年もたたずに箱根に出れるわけはないという、かなり無理のある設定に、まあ小説だからいいか、なんて読み進めていったが、途中でそんなことはどうでもよくなってしまった。
それはこの物語が、できるかできないかを描いているものではないからということが、すぐに分かったから。
ただひたむきに、それぞれが自分の心に語りかけていく、走ることに対する気持ちや、仲間に対する想いを胸に、力強く走りだして行く姿、そして限界を超えてなおその先にある何かを求めて、懸命に走り続ける若者たちの姿は、ただそれだけで素晴らしく、一つのことに打ち込む人間の輝きは、ただそれだけで感動的だ。
そして集った個性豊かな10人の住人たち総てが愛おしくなり、気が付けば手に汗握って応援してる自分がいる。
読み始めてすぐに、ラストシーンをなんとなく予感させて、なお最後までずっと読者の心を引きずり回して疾走していく作家の才筆に、ただただ感服する。
クライマックスでは涙で文字が見えなくなるという嬉し恥ずかしの初体験も、また楽しかった。
ただ一点、この住人たちのエピソードが、後半の走っている最中にいきなり語られるところに、その唐突感と若干の違和感を感じた。
まあ読み終わった今となっては、もう一度読むときに新たな発見があるんじゃないかという、期待感の方が大きいけどね。
そしてこの小説の一番素晴らしいところは、まるで自分が箱根を走っているような、目に映る景色はもちろん、たかまる高揚感と呼吸困難を起こしそうなほどの息苦しさを感じさせる、リアルな走るということの描写だ。
あとがきにも書いてあったが、この作品を書くにあたって、大学への取材を積み重ね、実際にランナーが受ける風を感じるために、自転車をこいだり、自動車の窓から顔を出してみたりと、綿密な準備の上に完成された作品だということがわかり、その情景が浮かんできてなんだか楽しくなった。
こんなに爽やかで清々しい読後感を与えてくれたこの作品に出会えたことがなによりうれしい。
ふとこれだけ素晴らしい小説を、なんでまだ映画化してないんだろうかと思っていたら、まさかの既に映画化されていたことを、さっき調べて発見しビックリした。
へえ~、こういうキャスティングだったんだ。
写真だけだけど、なんかそれぞれがらしくて嬉しくなってくる。
ただムサだけは、イメージ違うかなあ~(^^)機会があったらぜひ見てみたいね。
次も三浦しをんさんの作品を読もうかなあ(^^)