15時10分ころ、I老健へ着くと、まずは洗濯した衣類を渡し、洗濯する衣類を受け取ります。
続いて、あの嫌な抗原検査をするものと思っていたのですが、S田さんが僕を面談室へ導くのです。
S田さんは僕に2度電話したんだそうです。
履歴を確認すると、13時38分と14時57分に電話がありました。
この日の介護トレーニングが中止になったことを連絡するためだったのですね。
もし電話を受けても、洗濯物のことがありますから、どうせ来なくてはならなかったのですけどね。
さっちゃんは金曜日ころから痰がからむことが多くなったんだそうです。
それで、月曜日に検査をすると、肺炎になっていることが分かったそうです。
とは言え、体調にはさほど問題はないようですね。
ひと通りの説明を受け、さっちゃんが下に降りて来て面会を行なうことになりました。
僕は玄関ロビーの端に置かれた椅子に座って待ちます。
玄関ロビーと老健館内との間は広いガラスで仕切られています。
10分ほど待ったでしょうか?
さっちゃんがリクライニングの車椅子に乗ってガラスの向こう側に来ました。
この日のさっちゃんはずうっと喋り続けていました。
もちろん意味不明ですし、偶然でも意味ある単語は出て来ませんでした。
ただ、これは僕の欲目だとは思うのですが、意味のない音声の羅列の中に、心の動きが隠れているような気がします。
そんなさっちゃんの心の動きを想像し、それに合わせて僕はさっちゃんに話しかけ続けました。
「さっちゃん、早く家に帰ろうね」
「コロナだから、会えなくて嫌だよね~ぇ」
「さっちゃん、元気にしてる?」
「もうすぐ一緒に家で暮らせるからね」
等々。
僕は同じような内容の言葉をさっちゃんに掛け続けます。
さっちゃんも意味不明ではあっても、僕の言葉の後に何かを喋って返してくれます。
▲15:31。ガラス越しにさっちゃんと向き合っています。言葉だけが交流の手段なのですが、言葉を失っているさっちゃんとはもどかしさしかありません。せめて、さっちゃんの手を握ることが出来ればと、どれほど願ったことか。
10分ちょっとの面会時間でした。
さっちゃんも僕も喋り続けました。
さっちゃんの記憶や心の片隅でいいので、僕の姿や声が残ってくれればと願うばかりです。