木曜日はとくに何にも予定のない日。
ハイキングに行こうかとも考えたんですが、準備と覚悟と体調万全が要求されるので億劫に。
のんびりと過ごすことにしました。
朝は曇りがちだったんですが、しばらくすると陽が出てきたので、洗濯をしようと。
その前からさっちゃんの様子がちょっと変にはなっていたんです。
どう変かと言うと、あの「帰りたいモード」みたいになりつつあったんです。
でも、いつもの「帰りたいモード」とは微妙に違っていて、
さっちゃんが思う「帰るべき家」へのコメントがほとんど出て来ません。
「帰りたい」よりも、むしろ「行きたい」ような言葉が出てるように思えます。
さっちゃんは玄関のドアを開けようと一生懸命です。
さっちゃんはチェーンを外せません。
いろいろガチャガチャやってます。
フラストレーションが溜まったんでしょう、ドアをドンドン叩いたりもします。
隣りの住人が「何事?」と思って、見に来るんじゃないかと心配なくらいでした。
僕に「●×▼※へ行くよ」「一緒に来い!」みたいな言葉を混ぜながら、僕を圧迫します。
僕は洗濯の準備をしていました。
洗濯ものを洗濯用の袋に分けて入れていきます。
その何が気に喰わなかったのか、さっちゃんはその袋がたくさん入った紙袋を僕から奪ってしまいます。
取り返そうとしても、さっちゃんが強硬に抵抗するので、洗濯の準備を諦めざるを得ません。
さっちゃんがドアを開けようと、ずうっと玄関にいるものですから、
僕は雰囲気を変えようと、電気を消して暗くしたり、
僕自身がベランダに出て、さっちゃんから身を隠したり、いろいろしてみました。
それでも、さっちゃんの様子は変わりません。
玄関の靴箱の上に置いてある飾り物、竹炭、貝殻、書道の作品、・・・・、さっちゃんはその一部をばら撒いたりもしました。
このままだともっとエスカレートしそうですから、僕もついに妥協することに。
さっちゃんの要求を受け入れて玄関ドアを開けることにしたんです。
でも、最初から「僕は行かないよ」と言い続けてましたから、一緒には行きません。
僕は外出着に着替え、財布と携帯電話とザックを持ちます。
そして、サンダルを履いていたさっちゃんに運動靴を履かせます。
さっちゃんを着替えさせるのは無理でしょうから、さっちゃんは部屋着のまま。
手に持っていた書道の作品は手放してくれました。
タオルも手放してくれました。
でも、何でなんでしょうね? 紙袋だけは手放してくれません。
ドアのチェーンを外し、ドアを開けてあげます。
さっちゃんがドアをガチャガチャやり始めてから、1時間はたったでしょうか。
さっちゃん、ドアの外に出ても、僕の様子を見ています。
僕は「行かないよ。一人で行ってきな」と冷たく突き放します。
二度三度こんなことを繰り返して、さっちゃんは意を決して一人で出かけることとなりました。
さっちゃんの後を僕は見つからないように、尾行します。
団地のすぐ外で、団地の住人の二人のご婦人とちょっとだけ話してるようです。
さっちゃんは意外と大胆に知らない人にでも話しかけるんですよね。
認知症になる前は、そんなタイプじゃあなかったんですけど。
タクシーが来て、その二人のご婦人はそれに乗って行ってしまいましたけれど、
さっちゃんが同乗するかもと、一瞬ヒヤリとしましたね。
乗りそうになったら猛ダッシュする心の準備だけはしていました。
いつものように、さっちゃんは後ろを振り返ったり、分かれ道では長い時間迷ったり、どこに行ったらいいのか分かりません。
それは当然ですよね、行きたい場所自体が定まっていないのですから。
団地の中を、と言うより僕たちの棟の周囲をさ迷った挙句、バス停前のベンチに座り込んでしまいました。
バスが来て、さっちゃんがバスに乗り込んだりしたら厄介ですから、僕の尾行はそこで終了。
座ってるさっちゃんの背後からさっちゃんの肩をポンポンと。
さっちゃんは驚く風もなく、僕の顔を見ます。
何も言わずに歩き始める僕の後から、当たり前のようにさっちゃんは付いて来ます。
少しだけ寄り道をして、僕たちの部屋に戻って来ました。
僕の方が拍子抜けするように、さっちゃんの雰囲気はすでに普段同様に戻っていました。
* * * * * * * * * *
今日はこのことがあって以降はさっちゃんの様子はいつも通りでした。
むしろ、いつもよりも朗らかだったかもしれません。
夕方、久し振りに湯船にお湯をためて入浴しました。
さっちゃんは僕が体を洗ってあげ、洗髪するのを素直に受け入れてくれました。
その後で、夕食準備に取り掛かった際に、何かと手伝おうとする結果、邪魔になってしまうさっちゃんを
僕が何とか台所から離そうとするんですが、それが気に喰わなかったんでしょうね、
僕に猛烈に突っかかって来たりしました。
「押しくら饅頭だぞ、相撲だぞ」と、突っかかってきたさっちゃんをふざける様にしながら台所から離したんですが、
さっちゃんにそんな冗談は通じず、怒ってブスッとした表情のままでしたね。
でも、その時一回だけでした。
ハイキングに行こうかとも考えたんですが、準備と覚悟と体調万全が要求されるので億劫に。
のんびりと過ごすことにしました。
朝は曇りがちだったんですが、しばらくすると陽が出てきたので、洗濯をしようと。
その前からさっちゃんの様子がちょっと変にはなっていたんです。
どう変かと言うと、あの「帰りたいモード」みたいになりつつあったんです。
でも、いつもの「帰りたいモード」とは微妙に違っていて、
さっちゃんが思う「帰るべき家」へのコメントがほとんど出て来ません。
「帰りたい」よりも、むしろ「行きたい」ような言葉が出てるように思えます。
さっちゃんは玄関のドアを開けようと一生懸命です。
さっちゃんはチェーンを外せません。
いろいろガチャガチャやってます。
フラストレーションが溜まったんでしょう、ドアをドンドン叩いたりもします。
隣りの住人が「何事?」と思って、見に来るんじゃないかと心配なくらいでした。
僕に「●×▼※へ行くよ」「一緒に来い!」みたいな言葉を混ぜながら、僕を圧迫します。
僕は洗濯の準備をしていました。
洗濯ものを洗濯用の袋に分けて入れていきます。
その何が気に喰わなかったのか、さっちゃんはその袋がたくさん入った紙袋を僕から奪ってしまいます。
取り返そうとしても、さっちゃんが強硬に抵抗するので、洗濯の準備を諦めざるを得ません。
さっちゃんがドアを開けようと、ずうっと玄関にいるものですから、
僕は雰囲気を変えようと、電気を消して暗くしたり、
僕自身がベランダに出て、さっちゃんから身を隠したり、いろいろしてみました。
それでも、さっちゃんの様子は変わりません。
玄関の靴箱の上に置いてある飾り物、竹炭、貝殻、書道の作品、・・・・、さっちゃんはその一部をばら撒いたりもしました。
このままだともっとエスカレートしそうですから、僕もついに妥協することに。
さっちゃんの要求を受け入れて玄関ドアを開けることにしたんです。
でも、最初から「僕は行かないよ」と言い続けてましたから、一緒には行きません。
僕は外出着に着替え、財布と携帯電話とザックを持ちます。
そして、サンダルを履いていたさっちゃんに運動靴を履かせます。
さっちゃんを着替えさせるのは無理でしょうから、さっちゃんは部屋着のまま。
手に持っていた書道の作品は手放してくれました。
タオルも手放してくれました。
でも、何でなんでしょうね? 紙袋だけは手放してくれません。
ドアのチェーンを外し、ドアを開けてあげます。
さっちゃんがドアをガチャガチャやり始めてから、1時間はたったでしょうか。
さっちゃん、ドアの外に出ても、僕の様子を見ています。
僕は「行かないよ。一人で行ってきな」と冷たく突き放します。
二度三度こんなことを繰り返して、さっちゃんは意を決して一人で出かけることとなりました。
さっちゃんの後を僕は見つからないように、尾行します。
団地のすぐ外で、団地の住人の二人のご婦人とちょっとだけ話してるようです。
さっちゃんは意外と大胆に知らない人にでも話しかけるんですよね。
認知症になる前は、そんなタイプじゃあなかったんですけど。
タクシーが来て、その二人のご婦人はそれに乗って行ってしまいましたけれど、
さっちゃんが同乗するかもと、一瞬ヒヤリとしましたね。
乗りそうになったら猛ダッシュする心の準備だけはしていました。
いつものように、さっちゃんは後ろを振り返ったり、分かれ道では長い時間迷ったり、どこに行ったらいいのか分かりません。
それは当然ですよね、行きたい場所自体が定まっていないのですから。
団地の中を、と言うより僕たちの棟の周囲をさ迷った挙句、バス停前のベンチに座り込んでしまいました。
バスが来て、さっちゃんがバスに乗り込んだりしたら厄介ですから、僕の尾行はそこで終了。
座ってるさっちゃんの背後からさっちゃんの肩をポンポンと。
さっちゃんは驚く風もなく、僕の顔を見ます。
何も言わずに歩き始める僕の後から、当たり前のようにさっちゃんは付いて来ます。
少しだけ寄り道をして、僕たちの部屋に戻って来ました。
僕の方が拍子抜けするように、さっちゃんの雰囲気はすでに普段同様に戻っていました。
* * * * * * * * * *
今日はこのことがあって以降はさっちゃんの様子はいつも通りでした。
むしろ、いつもよりも朗らかだったかもしれません。
夕方、久し振りに湯船にお湯をためて入浴しました。
さっちゃんは僕が体を洗ってあげ、洗髪するのを素直に受け入れてくれました。
その後で、夕食準備に取り掛かった際に、何かと手伝おうとする結果、邪魔になってしまうさっちゃんを
僕が何とか台所から離そうとするんですが、それが気に喰わなかったんでしょうね、
僕に猛烈に突っかかって来たりしました。
「押しくら饅頭だぞ、相撲だぞ」と、突っかかってきたさっちゃんをふざける様にしながら台所から離したんですが、
さっちゃんにそんな冗談は通じず、怒ってブスッとした表情のままでしたね。
でも、その時一回だけでした。