ローカル線の旅の話。今回は岩手県。
春に三陸鉄道が全線復旧したのは嬉しかったけれど、その陰で岩泉線が廃止になった。災害で休止していたのが復旧させる予算とメドがつかなかった。
もっとも岩泉線は人里離れた山奥の森と深い谷を往く線だから大金かけて復旧させるのは難しかったとは思う。
深い谷の中腹を走り、途中の駅はいわゆる秘境駅ばかり。森の中にポツンとホームだけあったある駅なんて、すぐ横に廃屋があった。とにかく人家の少ない所を走る岩泉線。
しかし、終点の岩泉は小さいながらも町がある。日が暮れそうな秋から冬にかかった日の夕方、駅前を歩いた。
町に向かって歩いているのは自分と、孫の手を引いて歩くおじいさんだけ。そんな二人の後ろ姿を見ながら薄暗く道だけ立派な駅前通りを歩く。向こうに灯りが見える。そこが町らしい。
日が完全に暮れた頃、岩泉の町に入った。それほど店がある訳ではないが、山奥を通ってきた身には立派な通りに思えた。
折り返しの列車の時間が気になるので駅に戻る。
駅舎かと思って入った建物はバス乗り場のための待合室だった。岩泉駅は鉄道よりバスが主役なようだ。
がらんとした待合室には小さなストーブがポツンと置かれ、その前に小さなおばあちゃんが一人座っていた。物音しない待合室で時間まで過ごした。
岩泉線の起点茂市(もいち)駅に戻り、夜は三陸を代表する港町宮古に泊まった。町のなんてことのない構えの寿司屋に入って、旬を見繕って握ってもらって食べた寿司はとても美味しかった。今でも私にとって日本一の美味しかった寿司は宮古の寿司だ。