ローカル線の旅の話 第四回。今回は宮崎県です。
ある年、初めて宮崎県を訪れた私はそのまま鹿児島に向かうつもりでいたけれど、宮崎県南部の町都城から先は台風の影響で不通となっていた。予定変更を余儀なくされた私は宮崎市まで戻り日南線に乗ることにした。今夜は日南線の終点志布志(しぶし)に泊まろうと決めた。
南宮崎で日南線に乗り換え車内に入ると、夏休み最後の日に宮崎で買い物をしてきた中高生で満員だった。海が見える進行方向左側は埋まり、仕方なくドアの近くのロングシートで向かいの人の頭越しに海を眺めた。
青島を過ぎて日南市に入ると青々とした海が広がる。車内の女の子はみんな色黒で瞳パッチリ。
日南市は港町の油津、お寺が多い小京都な飫肥(おび)など駅ごとに良さげな町が現れる。市内のはずれの南郷まででほとんどの乗客が降り、ようやく海側の席に移ったら景色は海岸から峠の山村の景色に変わってきた。
海と山の景色を両方持つ日南線。人家の少ない農村に夕日が当たり景色が鄙びてくる。宮崎県の南端の町である串間を過ぎると今度は平地に雄大に広がる畑の景色に変わった。その広い眺めは北海道の道北あたりを思わせ、ここも南の果てなんだと心がゾクゾクした。
福島高松という畑の中の無人駅で反対方向の列車を待つため停車。運転士がエンジンを切ると物音一つしない静かな駅になった。
終点の志布志は港町。かつては日南線の他に2つの路線が分岐していたので駅にはその跡形の空き地が広がる。
駅前の老夫婦が営む小さな旅館に泊まることにした。一階が居酒屋を兼ねていて、そこで夕食となった。ニコニコと笑顔を絶やさない無口な旅館兼居酒屋の主人のおじいさんが刺身を運んできた。港町志布志の夕食はとても美味しかった。
ほろ酔いで港を歩きたくなり、女将さんのおばあさんに出かけますと一声かけてから、海岸に散歩に出かけた。南国な志布志は8時近いのにまだ空がうっすらと明るかった。随分と遠くまでやってきたんだなと思いながら海を眺めた。