とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

美神の密約

2013-12-19 23:19:22 | 日記
美神の密約



 金閣寺

 「鹿苑寺は、京都市北区にある臨済宗相国寺派の寺。建物の内外に金箔を貼った3層の楼閣建築である舎利殿は金閣、舎利殿を含めた寺院全体は金閣寺として知られる。相国寺の山外塔頭寺院である」(「Wiki」)たったこれだけの説明でも恥ずかしながらいくつか初めて知ったことがある。相国寺の塔頭だったのだ。何度も訪れたがそういう知識は全くなかった。そして、私たちが金閣寺と呼んでいるこの写真の建物は正式には金閣と呼ぶことも初めて知った。


 えっ、佐久良に会いたい!! 私は綾乃さんから電話を受けてとまどってしまいました。どうして私に電話したのですか。私が尋ねると、三朗さんからその後の事をきっと聞いていらっしゃると思ったからです、という返事。いや、何も知りません。そう私は何度も言いましたが、諦めようともしませんでした。じゃ、どういう用件ですか、と尋ねると、代役として出演するからには直接細かく伺いたいことがたくさんあるんです、という答え。私は参ってしまって、古賀所長に電話しました。すると、やっぱりそうですか、貴方なら何か情報を掴んでいるはずだと思ってました、と疑うような言葉が返ってきました。いや、私は何も知りません、ただ、仲立ちくらいは出来ると思います、三朗に問い合わせます。私は苦しまぎれにそう答えました。すると、所長は、それもコーディネーターの大事な仕事です、じゃ、尾辻綾乃さんの付き添いで出張してください、その方が彼女も心強いと思います、と言いました。思わぬ方向へ話が展開しました。・・・かくして私は三朗と連絡を取って、京都に出かけることになりました。


 もしもし、あっ、三朗?

 そうです。お義父さん、どういう用事でしょうか。

 ひとつお願いしたいことがあるんだけど・・・。あの代役の綾乃さんが佐久良にぜひ会いたいと言うんだよ。

 どうしてでしょう。打ち合わせなら電話でも出来ると思いますが・・・。

 いや、そこのところがよく分からない。何か芸の上での秘策があるのかも知れない。

 秘策ですか。・・・ええ、分かりました。それじゃ、こちらで段取りをしておきます。お義父さん、この前も言いましたように極秘で行動してください。こちらでこの度の事件の対応策として打ち出した統一行動のことは伝わっていると思います。まだその統一行動は全く動き出していません。向こうさんも出方を密かに伺っていると思います。ちょっとした躓きが大きな火種になることもありますから。

 うん、それはよく分かっている。それじゃ、明日の午前の飛行機で、・・・ああ、そうか、俺は飛行機だめなんだよ。・・・じゃ、八雲で。

 分かりました。二人で事務所に直行してください。絶対に他には立ち寄らないようにしてください。

 うん、分かった分かった。・・・そういう遣り取りをして、いよいよ二人は出かけることになりました。特急八雲で岡山まで行き、そこから新幹線に乗り換えて京都で下車。二人はすぐタクシーに乗りました。その間、二人はあま言葉を交わしませんでした。綾乃さんの表情がかたくて、入り込む隙がありませんでした。何かを思いつめているようでした。金閣寺の近くの事務所に着きました。三朗が奥の方から出てきました。

 じゃ、早速行きましょう。すぐ私の車を出します。・・・まもなく紺色の大型の外車が
玄関に着きました。ドアを開けて二人を乗せると大通りに出ました。

 そうですね、十五分くらいはかかります。・・・車は急に小さな道に入りました。私は、突然降りたくなりました。

 ちょっとここで降ろしてくれないか。

 どうしてですか。

 いや、私はただの付き添い、秘密の場所に行くことはちょっと・・・。

 口の堅いお義父さんですから、信じています。

 いや、いや、ほんとに・・・私は・・・行くべきではない。あの、金閣寺の池の辺りで待ってる。何時間でも待つからゆっくり話してきてくれ。

 遠慮なさらなくてもいいですよ。

 遠慮じゃない。行くべきではない。とんでもないことになるかもしれない。

 そうですか。では・・・。・・・そう言うと三朗は車を停めて、私を降ろしました。私は車を見送ってから、ゆっくりと金閣寺まで引き返しました。久しぶりに金閣寺の建物を間近に見ました。そして池の周りをゆっくり歩き、池に映った黄金の建物を見つめました。しばらく佇んでいると池の面にさまざまな姿が映りました。死んでいった家族の顔、私の命を支えてくれた医者たち、妻、娘とその家族、長柄さん、その他ご縁市場のたくさんの人たち、劇団のたくさんの役者たち・・・。

 今までありがとう。このまま池に飛び込んでもいい。・・・私は呟きました。そう呟くと、俄かに佐久良のあの事件のときのひきつった顔が浮かび上がりました。そして、綾乃の顔も。

 佐久良には翼がよく似合う。・・・そうだ、綾乃の話はそのことと深い繋がりがあるに違いない。・・・私は、その場にいるように、二人の会話が聞こえてくるような気がしました。
 
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