西の勇者

「Pallas and the Centaur(パラスとケンタウロス)」ボッティチェリ作
ルネサンスの花形画家ボッティチェリが残した寓意画である。画面の主役は優雅な姿態のミネルウァ(異名パラス)。この知と戦の女神は、傍らのケンタウロスの髪を引っ掴んでいる。これは「野蛮な獣性に対する理性の勝利・支配」を表しているとされる。この絵が制作された1480年代は《春》や《ヴィーナスの誕生》など有名な傑作が続々と生み出された画家の最盛期である。「テオポリタン・ミュージアム」より引用、多謝
地方公演を終えて劇団湖笛が出雲へ帰ったという知らせが古賀所長から届きました。それは私にとって嬉しい知らせでした。大成功だったということでした。特に初めて出かけた関東地方で好評だったということでした。劇団の総力を結集した舞台、具体的には、古典的な要素と前衛的な発想を融合させた試みが歓迎されたという説明でした。佐久良の超人的な演技が大きな話題となったそうです。対して麗華、笙子の古典的な演技が却って引き立って観客を魅了したそうです。この3名は勿論、華龍の夫の鈴木琢磨などの劇団の代表的な役者が新阿国座の正式なメンバーとして理事会から推薦されました。・・・その話を私は所長から聞きながら自身の身分のことを思い、長柄さんのことも一緒に尋ねました。すると、オーナーは貴方の息子さんでしょ、直接聞いてください、それより貴方は自分の健康のことを考えてください、今のところ何にも話はありません、と言いました。古賀所長からの電話を切ると、今度は三朗からかかってきました。
ああ、お義父さん、失礼ばかりですみません。今、どういう具合ですか。まだ・・・。
うん、真っ暗だ。今度は長いようだ。先が短くなったような感じがする。
そんな・・・。千恵子、来ましたでしょうか。
いや、電話してきたけど、断った。
そうですか。
湖笛大成功でよかった。
ええ、私も、ほっとしています。
新劇団はいよいよメンバーが充実してきて、頼もしい。
お陰様で大劇団になりました。・・・ああっ、今日電話しましたのは、ビッグニュースが入ったからです。お義父さん、九州ですよ、九州。
九州がどうしたんだ。
卑弥呼が来ました。
卑弥呼 ?
そうです。卑弥呼です。劇団卑弥呼が新しく加わりました。
私は初めて聞くけれど・・・。
性格的には佐久良がいた生野劇団と似てますけど、もっとダイナミックな演技が売りですね。
そうか。それはよかった。
佐久良が縁を結んでくれました。佐久良が生野音楽学校時代の友達が看板役者なんです。佐久良といい勝負をしてくれそうです。アクションものには定評があります。佐久良の評判を聞いて座長を説得したそうです。臨時の理事会で承認されました。
へえー、すごい女だね。
そうなんです。お義父さん、それから、近く、メイン劇場の竣工式とこけら落しを行います。いよいよこの出雲が舞台演劇の中心地となります。
そうか、そうか・・・。
お義父さん、元気になってください。ずっと、ずっと見守ってください。コーディネーターとかそういう立場ではなく、もっともっと高い立場から・・・。
ありがとう。・・・そうしたい。・・・しかし、私は、魂だけで生きているような気がする。魄の方はあの京都のお母さんが死んだとき、一緒にどこかへ消えてしまったような気がしてならない。
ど、どういうことですか。
いや、簡単に言うと私は現世的に言うと既に死んでいるということだ。
分かりません、お義父さんの仰ること・・・。
だから、最後のお願いだ。私の墓を建ててくれ。それから、墓には櫻の苗を、そうだ、紅枝垂れ櫻がいい。佐久良を、劇団を、家族を、この出雲を、あの世から支えたい。
ええっ、何を仰るんですか。
妻にもそう頼むつもりだ。・・・それから、生きて、生きて、生きて、・・・みんなを見守りたい。ああ、思い出した。観音山から雲に乗って観音さんが劇場の上に移り、建物の中に消えていった。・・・これから観音さんも見守ってくださる。
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「Pallas and the Centaur(パラスとケンタウロス)」ボッティチェリ作
ルネサンスの花形画家ボッティチェリが残した寓意画である。画面の主役は優雅な姿態のミネルウァ(異名パラス)。この知と戦の女神は、傍らのケンタウロスの髪を引っ掴んでいる。これは「野蛮な獣性に対する理性の勝利・支配」を表しているとされる。この絵が制作された1480年代は《春》や《ヴィーナスの誕生》など有名な傑作が続々と生み出された画家の最盛期である。「テオポリタン・ミュージアム」より引用、多謝
地方公演を終えて劇団湖笛が出雲へ帰ったという知らせが古賀所長から届きました。それは私にとって嬉しい知らせでした。大成功だったということでした。特に初めて出かけた関東地方で好評だったということでした。劇団の総力を結集した舞台、具体的には、古典的な要素と前衛的な発想を融合させた試みが歓迎されたという説明でした。佐久良の超人的な演技が大きな話題となったそうです。対して麗華、笙子の古典的な演技が却って引き立って観客を魅了したそうです。この3名は勿論、華龍の夫の鈴木琢磨などの劇団の代表的な役者が新阿国座の正式なメンバーとして理事会から推薦されました。・・・その話を私は所長から聞きながら自身の身分のことを思い、長柄さんのことも一緒に尋ねました。すると、オーナーは貴方の息子さんでしょ、直接聞いてください、それより貴方は自分の健康のことを考えてください、今のところ何にも話はありません、と言いました。古賀所長からの電話を切ると、今度は三朗からかかってきました。
ああ、お義父さん、失礼ばかりですみません。今、どういう具合ですか。まだ・・・。
うん、真っ暗だ。今度は長いようだ。先が短くなったような感じがする。
そんな・・・。千恵子、来ましたでしょうか。
いや、電話してきたけど、断った。
そうですか。
湖笛大成功でよかった。
ええ、私も、ほっとしています。
新劇団はいよいよメンバーが充実してきて、頼もしい。
お陰様で大劇団になりました。・・・ああっ、今日電話しましたのは、ビッグニュースが入ったからです。お義父さん、九州ですよ、九州。
九州がどうしたんだ。
卑弥呼が来ました。
卑弥呼 ?
そうです。卑弥呼です。劇団卑弥呼が新しく加わりました。
私は初めて聞くけれど・・・。
性格的には佐久良がいた生野劇団と似てますけど、もっとダイナミックな演技が売りですね。
そうか。それはよかった。
佐久良が縁を結んでくれました。佐久良が生野音楽学校時代の友達が看板役者なんです。佐久良といい勝負をしてくれそうです。アクションものには定評があります。佐久良の評判を聞いて座長を説得したそうです。臨時の理事会で承認されました。
へえー、すごい女だね。
そうなんです。お義父さん、それから、近く、メイン劇場の竣工式とこけら落しを行います。いよいよこの出雲が舞台演劇の中心地となります。
そうか、そうか・・・。
お義父さん、元気になってください。ずっと、ずっと見守ってください。コーディネーターとかそういう立場ではなく、もっともっと高い立場から・・・。
ありがとう。・・・そうしたい。・・・しかし、私は、魂だけで生きているような気がする。魄の方はあの京都のお母さんが死んだとき、一緒にどこかへ消えてしまったような気がしてならない。
ど、どういうことですか。
いや、簡単に言うと私は現世的に言うと既に死んでいるということだ。
分かりません、お義父さんの仰ること・・・。
だから、最後のお願いだ。私の墓を建ててくれ。それから、墓には櫻の苗を、そうだ、紅枝垂れ櫻がいい。佐久良を、劇団を、家族を、この出雲を、あの世から支えたい。
ええっ、何を仰るんですか。
妻にもそう頼むつもりだ。・・・それから、生きて、生きて、生きて、・・・みんなを見守りたい。ああ、思い出した。観音山から雲に乗って観音さんが劇場の上に移り、建物の中に消えていった。・・・これから観音さんも見守ってくださる。
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