さくら、桜、佐久良・・・
福島県三春町 三春滝桜のライトアップ (「Wiki」より引用)
一本桜ではこの桜が私は一番好きである。NHK大河ドラマ「八重の桜」に出てきたシンボルツリーだからである。しかもこの度の大震災から復興する東北の希望のシンボルだからである。殊に夜桜がすばらしい。この桜を眺めながら死にたいものだと思っている。
私は次の会話を暗い部屋で聞いていました。部屋といっても私が以前見つけた空き家のような誰もいない家のある広間でした。声の主は、数日前は治子夫婦、その日は千恵子と志乃でした。ああ、ずっと前には園田や長柄さん、それに古賀所長さんの声も聞こえてきました。
お爺ちゃんはここのお墓に入っているの。何時出てくるの。
もう、出て来ないかもしれない。
じゃ、ほんとに死んじゃったの。
ほんとだよ。だから、お線香あげに来たの。それから・・・。
えっ、何 ?
お母さんの病気が少しだけよくなったことを教えてあげたくて・・・。
そうだね。お爺ちゃん、喜んでくれるね。
さあ、お線香立てたから拝みましょ。ナムシャカムニブツと言って拝むんだよ。
何それ ?
おまじないの言葉だよ。さあ、一緒に・・・。
ナムシャカムニブツ、ナムシャカムニブツ、ナムシャカムニブツ・・・。
私はその言葉を聞くと、心が浮き立つようになりました。ああ、私は死んでもこうして生の力をくれる人がいる。私は、今にも墓から出ていきそうになりました。園田、園田、来てくれ、と叫びました。すると、千恵子たちの姿は消えて、園田の姿が現れました。
先生、園田参りました。何の御用でしょうか。
あ、ありがと。あの、あの向こうの窓から見える花は桜だと思うけれど、私の墓に植えた桜とは違うような気がする。短い間にあんなに大きな樹になる筈はないが・・・。
先生、間違いありません。千恵子さんが植えられた木です。
そうか、あんなに大きくなって・・・。ああっ、私を呼ぶ声がする。
先生、桜の中にお入りください。いろんなものが見え、また、いろんなことが起こると思います。
じゃ、入ってみる。
私は桜の大樹の近くに行きました。すると、夥しい花びらが散り掛かりました。その渦の中に巻き込まれて、てっぺんまですぐに辿り着きました。そこから眺めると、劇場の建物が見え、明るく輝いていました。また、その周りにも建物から光があふれていました。
そ、そ、園田、私を劇場に連れて行ってくれないか。
劇場 ? どうしてですか。
いや、舞台を見たいだけだ。
先生、おやすい御用です。さあ、私の手を握りしめてください。空を飛びます。
私たちはすぐに劇場の上につきました。二人は屋根をすり抜け、中に降り立ちました。丁度夜間公演の真っ最中でした。演目は「卑弥呼と阿国」。卑弥呼劇団の連城小百合と新阿国座の凰佐久良の競演の新作劇が演じられていました。私たち二人は誰にも気づかれることなく、二階の空席に座りました。一階座席は満員でした。舞台の二人は舞い競べをしていました。二人とも気品のある舞姿で観客は固唾を呑んで見守っていました。
園田、園田。
何でしょうか。
今に何かが起こる。
えっ、何でしょう、舞台の上ですか。
いや、違う、空だ、空だ。
出てみましょう。
二人はまた外に出ました。空に浮かんでいると、この前に見たような光の筋が東から三つ、西から三つ、それぞれ絡み合いながら中天まで伸びてきました。
次は火の鳥だ。
私がそう言うと、中天の光の渦の中からより大きな光が膨らんできました。姿を現した火の鳥は劇場の上を旋回し始めました。そして、十数回回ると光がすっと消えました。それと同時に私はまた暗い空き部屋に帰っていました。また、一人になりました。
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福島県三春町 三春滝桜のライトアップ (「Wiki」より引用)
一本桜ではこの桜が私は一番好きである。NHK大河ドラマ「八重の桜」に出てきたシンボルツリーだからである。しかもこの度の大震災から復興する東北の希望のシンボルだからである。殊に夜桜がすばらしい。この桜を眺めながら死にたいものだと思っている。
私は次の会話を暗い部屋で聞いていました。部屋といっても私が以前見つけた空き家のような誰もいない家のある広間でした。声の主は、数日前は治子夫婦、その日は千恵子と志乃でした。ああ、ずっと前には園田や長柄さん、それに古賀所長さんの声も聞こえてきました。
お爺ちゃんはここのお墓に入っているの。何時出てくるの。
もう、出て来ないかもしれない。
じゃ、ほんとに死んじゃったの。
ほんとだよ。だから、お線香あげに来たの。それから・・・。
えっ、何 ?
お母さんの病気が少しだけよくなったことを教えてあげたくて・・・。
そうだね。お爺ちゃん、喜んでくれるね。
さあ、お線香立てたから拝みましょ。ナムシャカムニブツと言って拝むんだよ。
何それ ?
おまじないの言葉だよ。さあ、一緒に・・・。
ナムシャカムニブツ、ナムシャカムニブツ、ナムシャカムニブツ・・・。
私はその言葉を聞くと、心が浮き立つようになりました。ああ、私は死んでもこうして生の力をくれる人がいる。私は、今にも墓から出ていきそうになりました。園田、園田、来てくれ、と叫びました。すると、千恵子たちの姿は消えて、園田の姿が現れました。
先生、園田参りました。何の御用でしょうか。
あ、ありがと。あの、あの向こうの窓から見える花は桜だと思うけれど、私の墓に植えた桜とは違うような気がする。短い間にあんなに大きな樹になる筈はないが・・・。
先生、間違いありません。千恵子さんが植えられた木です。
そうか、あんなに大きくなって・・・。ああっ、私を呼ぶ声がする。
先生、桜の中にお入りください。いろんなものが見え、また、いろんなことが起こると思います。
じゃ、入ってみる。
私は桜の大樹の近くに行きました。すると、夥しい花びらが散り掛かりました。その渦の中に巻き込まれて、てっぺんまですぐに辿り着きました。そこから眺めると、劇場の建物が見え、明るく輝いていました。また、その周りにも建物から光があふれていました。
そ、そ、園田、私を劇場に連れて行ってくれないか。
劇場 ? どうしてですか。
いや、舞台を見たいだけだ。
先生、おやすい御用です。さあ、私の手を握りしめてください。空を飛びます。
私たちはすぐに劇場の上につきました。二人は屋根をすり抜け、中に降り立ちました。丁度夜間公演の真っ最中でした。演目は「卑弥呼と阿国」。卑弥呼劇団の連城小百合と新阿国座の凰佐久良の競演の新作劇が演じられていました。私たち二人は誰にも気づかれることなく、二階の空席に座りました。一階座席は満員でした。舞台の二人は舞い競べをしていました。二人とも気品のある舞姿で観客は固唾を呑んで見守っていました。
園田、園田。
何でしょうか。
今に何かが起こる。
えっ、何でしょう、舞台の上ですか。
いや、違う、空だ、空だ。
出てみましょう。
二人はまた外に出ました。空に浮かんでいると、この前に見たような光の筋が東から三つ、西から三つ、それぞれ絡み合いながら中天まで伸びてきました。
次は火の鳥だ。
私がそう言うと、中天の光の渦の中からより大きな光が膨らんできました。姿を現した火の鳥は劇場の上を旋回し始めました。そして、十数回回ると光がすっと消えました。それと同時に私はまた暗い空き部屋に帰っていました。また、一人になりました。
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