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著作者:Jun Takeuchi
おやっ。私は嵐の翌朝、母親と連れ立って玄関から出てきたあの女性を見つけました。外に出られるようになったのか。よかった。私は、二人の話をじっと聞いていました。
「お父さんのお墓参りだなんて、・・・歩いて大丈夫なの」
「大丈夫。お墓までくらいなら」
「まだ無理だと思うけど・・・」
「ついて来ないで。一人で行くから」
「ほんとにまだ無理だよ。よした方がいいよ」
「ゆうべ急に力が出てきた感じ。だから、大丈夫。ついて来ないで」
「何だか別人になったみたい。・・・じゃ、お花とお線香・・・」
「ありがとう」
私は息を殺して二人の会話に聞き入っていました。娘は覚束ない足取りで裏山の入り口の坂道を登りはじめました。私の高さから姿が見えたのはほんの二三分でした。娘は曲がり角で母親を振り返って、ぶっと山の陰に消えてしまいました。母親が家の前でじっと行方を見守っていました。
父親はいないのか。それから、あの娘は長らく家で病いと闘っていた。何の病気なのか。他にこの家には家族はいないのか。・・・私はその美しい娘の姿を日差しの中で見つめながらあれこれと想像していました。
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