ある暮れ方、六地像さんが私に告げました。「今日、白いものがお前の足元から登ってくる。それを怖がって追い払ったりしないように」。私はどういうことが起こるかさっぱり分からないので、ただじっと待ち続けていました。「白いもの ? 何だそれは」そう呟いた途端、足元に絡み付いて登ってくる気配を感じたので、下を見ました。蛇だ !! 私は、ぞくっとしました。「おい、止めてくれ。私を何だと思っているのだ !!」
「まさか、お忘れではないでしょうね」
「誰だ !!」
「ほほっ、私です。・・・京子です」
「京子 ?」
「そうです」
「えっ、じゃ、姿を見せてくれ」そう言うと、蛇は次第に女に変身しました。
「ああっ、京子 !!」
「あの女に苦しめられているのを地下から見ていました。・・・私は子どもを殺したりしません。あの女の子ども、・・・そう、貴方の子ども。私は殺したりしません。病気で死にそうになったから、そのとき、子どものそばに私の幻を見た。・・・そうに違いありません」
「私もそう思いたい」
「思いたい ?・・・まだ疑っている」
「いや、・・・つまり、・・・私も苦しいのだ」
「苦しい ?」
「苦しい」
「ほほっ、それほどあの女が好きだった」
「いや、別れたかった」
「別れたかった ?」
「そうだ」
「子どもを産ませておいて、よくそんなことが・・・」
「・・・」
「あなたは電信柱、私は蛇。ほほっ、どっちもどっちですね。ほほっ」
「何とでも言ってくれ」
私がそう言うと、辺りの景色がぐるぐると回転し始めました。そして、遠くから鳥の鳴き声が響いてきました。
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