お父さん、助けてください。・・・闇の中からそう呼ぶ声が聞こえました。女の声、しかも炎に包まれています。おおっ、花りん !! ど、どうしたんだ !! 私はそう声を発しながら、身動きできない自分の体をもどかしく思っていました。炎はどんどん広がっていきます。
「お父さん、助けてください !! 」
「花りん、私の柱につかまりなさい。よじ登るんだ !!」
花りんは必死に私に近づこうとします。しかし、煙のような炎のような渦が巻きついてなかなか進めません。私には娘がもがく姿を見ているだけで気を失いそうになりました。
「そうだ、雨だ。雨よ、・・・どうか降ってくれ」
私には、そう叫ぶことしか苦しさから逃れる術はありませんでした。
「地蔵さん、神さま、どうか、どうか・・・」
娘は、やっと私の足に掴まることができました。おおっ、よかった。早く這い上がれ !!
私は叫び続けました。・・・ところが、私の体に火がつき燻り出しました。私は熱さをこらえながら娘が登るのを見守りました。そのうちに私の体も火を吹き始めました。
「花りん、・・・お父さんを許してくれ。お前を守れない」
「お父さん、ありがとう。こうしてつかまっていると、熱くなんかない」
「ごめん、ごめん、今までたくさん苦労をかけてきた」
「ここで、一緒に燃えてしまお」
「なんとかして、お前だけは助けたい」
「いいの、ここで一緒にいるだけで」
「花りん、ごめん、ごめん」
そのときでした。雷鳴がとどろき、雨が降り出しました。
「花りん、雨だ、雨だ !!」
「火が、火が消えていく !!」
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