とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

20 樹

2015-04-12 07:13:57 | 日記


 朝方、私を呼ぶ声がして目覚めました。花りんはどこへ・・・。私は思いました。
 見ると、なんと、大樹が道を挟んだ向こう側に聳え立っていました。白い幹がバラ色の光に包まれています。


 「お父さん、ここで、私、ずっと見ててあげる」

 「ええっ、ほんとに花りんかい ?」

 「そうです。ここで生まれ変わりました。」  

 「妹の力だと思います」

 「イモウト・・・」

 「ええ、それからお母さんの力もあったかもしれません」

 「私のような電信柱には、眩しすぎる・・・」

 「もうどんなに怖いことが起こっても、お父さんが居なくなることはありません」

 「しかし、私はいずれ朽ち果てる」

 「お父さん、電線からなにか伝わってくるでしょう ?」


 そう言われて私は体の感覚を研ぎ澄ましました。なんだ、これは !! 暖かい熱線のような電流が感じられました。遠くから流れてきている感覚でした。


 「遠くのたくさんの電信柱が、お父さんを励まそうと・・・」

 「繋がっている。暖かい。・・・ありがとう、皆さん」


 私は、感謝の波長を送り続けました。


 「しかし、くどいようだけど、私には根っこがない。いずれ朽ち果てる」

 「はははっ、お父さん、そのために私は樹に変わったんです」

 「どういうことだ」

 「いずれ分かります」

 
 花りんの樹の下に、いつの間にかさやかが来ていました。


 「花りん、おめでとう。とうとうここに来てくれた・・・。ありがとう」

 さやかの霊はそう囁きかけると、樹の回りを飛び始めました。私は、呆然とその姿を見ていました。
 
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