
娘の樹と私の間の地面から光が漏れ出してきました。そして、その光の環の中からランタンを持った女性が姿を現しました。徐々に私の方へ近づいてきました。それにつれて私の全身に痺れるような痛みが走りました。
「花りん、この女は誰だ !!」
「分からない」
「痛い、痛い。体が痺れる」
「ええっ。」
「どうにかならないか」
「お父さん、ほんとに知らない人 ? しっかり思い出して」
「全然分からない」
「例えば、昔付き合ってた人とか」
「おいおい、私は、そんなに・・・」
「・・・もてたわけではない」
「そうだ。だから、怖い」
「透視します。お父さんも一緒に」
私たちは、その女の霊を見極めようと努力しました。しかし、私の力ではどうにもなりません。そのうちに息が苦しくなるほど痛みが増してきました。
「花りん、もうだめだ」
「お父さん、しっかりして !!」
「・・・」
「いろいろな霊が見える。ああ、あのランタンの灯を消せば・・・」
「ど、どうして消すんだ」
そう言った瞬間、花りんの樹の枝が鞭のように伸びてきました。そして、そのランタンを激しく叩きました。灯が消えました。女は少しも表情を変えません。
「ありがと。少し痛みが和らいだ」
「お父さん、最後の手段・・・」
「最後 ?」
「そう、最後の手段・・・。少しの間辛抱してね」
次の瞬間、私の足元、地中の中で何かが蠢いているような感覚がありました。
「私の根っこがお父さんの足を取り巻くからしばらくじっとしてて」
今度は足が締め付けられるような感覚が体中を巡りました。その感覚は時間が経つにつれて快感に変わっていきました。
「お父さん、足を強く踏ん張ってご覧」
私は、言われるまま、足に力をいれました。すると、何だか、自分に根が生えたような気持ちになりました。
「お父さん、オトウサン、貴方は樹に生まれ変わるはず」
「なにっ、電信柱が樹に !!」
「そう、その通り」
すると、その女の体が透明になりました。「ワタシハ、キノレイデス。カリンノレイガ、ワタシヲヨンダノデス。・・・ホホッ、ワタシハ、アナタノアラユルヨクボウノケシンデモアリマス」そう言うと、その女に翼が生え、私の周りを飛び回りました。近づいてくると、その女から甘美な芳香が漂ってきました。
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