とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

ある買い物

2010-08-20 22:04:14 | 日記
ある買い物



 骨董市やリサイクル・ショップに並んでいる品物は長い時間と元の所有者の様々な運命を含み持っている。だからそういう品物との出会いはかなりスリリングで、魔力と言ってもいいような吸引力を私は感じる。
 先日、ある骨董市に行った。値の張る高級品は最初から横目で見てやり過ごし、古い額縁に入れた安価な書画が何重にも立てかけて並べてあるコーナーへ行った。そして一枚ずつ引き寄せて見ていた。すると一番奥から大型の額に入れた洋画が出てきた。
画面が横に二分割されていた。上が海水面の上、下が海の中。上には遠景に夕陽をいただいた山並みとその麓(ふもと)の海沿いの町が描いてあり、水面の上に鯨やイルカが水しぶきを上げて跳ね上がっている。水面下では、たくさんの鯨やイルカが悠々と泳いでいる。その他鮮やかな色彩を誇るように様々な魚が遊んでいる。さながら海の楽園である。見方によっては魚類図鑑のような感じもする。これだ! と私は感じた。
 ところが、「この絵を買うの? ごちゃごちゃしすぎだし、この画家にしては暗い色使いだわ」と妻が傍から茶々を入れた。私は一瞬ひるんだ。こんな地味な骨董市でこんな絵を見たのは初めてだったので、すっかり興奮していたのである。私が動こうとしないので、「じゃあ、買ったら」と妻の許可がおりた。私はほっとしたが、心の中ではしっくりしないものを感じていた。
 その気持ちのまま家に帰ると、二歳半の孫(女の子)が「あっ、イルカだ! カサゴもいる。サンゴもある」と言って喜んだ。私は予想外の大きな味方を得た。もう、くよくよすることはない。孫に元気を貰った私は胸を張って居間の壁にその絵を飾った。
 クリスチャン・ラッセン。『ラハイナ・ビジョンズ』。その絵の作者と絵のタイトルである。(2006年投稿)

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