とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

4 罪 障

2015-01-07 23:53:10 | 日記


著作者:e for elizabeth

 利自即利他。自他は時に従うて無窮なり。などといわれていますが、この世の中で一番難しくて厄介なものは人と人との関係だと思います。電信柱の私がこう言うのもおかしいですが、私がこうしてここに立っている理由の一つはそういうことにあります。
 立っているだけであれば、風雪に晒されることはあっても、他に迷惑をかけることもありません。立っていることがむしろ人間世界に恩恵を、いや、こんな言葉はふさわしくありませんね、そうですね、ささやかな光をもたらすのです。人間だったとき、何か動き出すと他の人に迷惑をかけることが多かったという記憶があります。よかれかしと思ってしたことも相手の中にに不利益や不満のしこりを残したりします。言葉もそうですね。愛語は回天の力を起こすとか言われています。しかし、余計なお世話だよなんて思われたりしますね。
 私には確たる信念があります。それは、自分がいるから他人がいる、という考えで人と接することです。お前は自己中だな、などと思わないでください。どんなに素晴らしく有名な人物がすぐ前に居ても、それを認識する自分がいなくては存在しないからです。
 いや、いや、とんだところへ話が逸れてしまいました。・・・そうでした。あの女性、そうでした、あの女性は・・・。思い出しました。たしか、ずいぶん前のある春の日、菜の花畑で見かけたことがありました。一人だったのか、誰か家族と一緒だったのか分かりません。背の丈くらいの花の中に埋もれて何かを見ていました。ということは、まだ、子どものころだったのかも知れません。あっ、かわいい女の子だと遠くから見ていました。どこに住んでいるのか。どうしてあそこに佇んでいるのか。などと思っていました。
 ですから、窓から寂しそうにぼんやり外を見ている光景は、私にとってもとってもジンと心の中に響いてきました。・・・もしかして病気に・・・。そうかも知れません。
 私は、勝手にいろいろと不幸な物語を紡いで、できれば、何とかできないものかと思い始めました。

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3 窓辺の女性

2015-01-03 23:27:12 | 日記

著作者:Sigma.DP2.Kiss.X3

ある秋の日の昼過ぎ,私である電信柱は珍しい場面に出会いました。名も知らぬかわいい若い女性が私を、・・・いや、私の方を見つめていました。頭だけ窓から出して、こちらを見ているではないですか。私は電信柱ですから、素晴らしい男性でもないし、美しい風景でもありません。

 「いつものカラスが止まっているからかしら」

 私は探しましたが、その日は珍しく一羽も止まっていませんでした。私がもし電信柱でなかったら、笑顔で応えていたかも知れません。風がまた強く吹いてきました。電線がヒュー、ヒューと鳴り響きました。その女性はまだ外を見つめていました。

 「窓を閉めた方がいいよ。私は、ここで明日もあさっても立っているから」

 そう私が言うと、聞こえたのかどうか分かりませんが、その女性は急に窓を閉めました。私はそのとき母親らしい感じの女性が奥の方にいるのを見届けました。
 私はその家は毎日見ていたのですが、どんな人たちが住んでいるのか、どんな気持ちで住んでいるのか、全く分かりませんでしたし、興味もありませんでした。しかし、若い女性がいるということを知り、何だか胸がときめくのを感じました。・・・お前はどうして電信柱になったのか、ですって。そうですね、分かりました。いずれお話しする機会があると思います。 

 
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