2009年5月9日(土) 今日の目的地は、大崎上島。 瀬戸内らしい眺めが楽しめるフェリーで島へ。

シーカヤックを積んでは来たが、今回の目的は『櫂伝馬プロジェクト』の打ち合わせと、櫂伝馬の体験である。
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今回声を掛けて下さったのは、大崎上島出身の熱烈な櫂伝馬フリークであるKさん。 若いが、人望もあり、熱い人だ!
昨年祝島の神舞で櫂伝馬を漕いだブログを見て連絡をいただき、それ以来やりとりをさせていただいていた。 また、島外からは、私以外にもう一人、櫂伝馬に関心をお持ちだというプロの船乗りであるAさんも招かれていた。

島の居酒屋に有志が集まって酒を酌み交わし、櫂伝馬の話で盛り上がる。 今回のプロジェクトはまだまだ柔らかい構想段階だが、今は競漕にのみ使われている櫂伝馬で、2日か3日の旅をしてみようというのが最終目標である。
そう、本プロジェクトのテーマは『旅する櫂伝馬』 リーダーはもちろん、言い出しっぺのKさん。
と言う訳で、途中からはテーブルの上に海図を広げ、酒を飲みながら、島の人たちはこれまで櫂伝馬を漕いだ経験から、そしてAさんはプロの船乗りの視点から、はたまた私は尺取り虫方式での瀬戸内横断旅や、瀬戸内カヤック横断隊での経験などを踏まえて、 『あそこに行ってみるのはどうだろう?』 『こっちのルートは?』 『ここは潮流が厳しいですよ』 『巡航速度はどれくらい?』 『泊まりはどうします?』 『こういう目的で旅をするのはどうでしょう』 『あそこにも声を掛けてみたら』 などなど、夢が広がる楽しい一時。
まずはあせらず、数年掛かってもよいから徐々に距離を伸ばして、櫂伝馬の航海性能を確かめてみようと言う事に。
そして最終目的地は○○(上記のディスカッションを経て、当初の目的地から変更しました)。 旅する櫂伝馬プロジェクト。 楽しみだなあ、今からワクワクするよ!
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翌朝。 櫂伝馬を漕がせていただけると言う事で、艇庫のある場所に移動。
そこには、すでに地元の方々が数名待っていただいていた。 島外から来た私たち二人のために、わざわざ櫂伝馬を出して下さり、漕ぎ手としても加勢してやろうとのうれしい心遣い。 感謝感謝!

ここの艇庫がなんともいい感じ。 下が水路となっており、満潮時にはチェーンブロックを使ってそのまま櫂伝馬が海に浮かべられるようになっている。 なんだか、サンダーバードの秘密基地のようである。
また、ここの櫂伝馬は幅が狭く、ハルはV字。 さすが競漕用のフネ、なんとも早そうだ。
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キャッチの良さそうなワイドブレードの櫂。 そしてなんともいえない威圧感の感じられる『大櫂』
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大櫂を櫂伝馬に留めるための部品は、地元のおじいさんの手作り。 『これは作られたんですか』 『そうよ。 針金を芯にしてロープを編み込んでつくるんよ。 ここは色を変えてあるけえ見た目がええじゃろう!』 『ほんまですね。 かっこええです』 『ここの所は、赤と白に塗ってもかっこええでえ。 わしがつくったんじゃけえ、塗ってもええ言うて言いよるんじゃがのお』 『そりゃあ、紅白じゃったら映えるでしょうねえ』
昔はバリバリ漕いでおられたという、いかにも櫂伝馬が好きだというオーラがでている大先輩である。 ええなあ。
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準備をして海へ出る。

今日はまだ本格的な練習が始まる前の時期に、Kさんの計らいで特別に櫂伝馬を出していただいたと言う事で、大櫂と太鼓、そして漕ぎ手は6人程度で3番櫂まで。 それでも、私たちのために貴重な時間を割いていただいているのである。
本当にありがたいことだ。

太鼓に合わせて声を出し、漕いでみる。 うん、祝島の時の感覚を体が徐々に思い出してくる。 Aさんも、カッターや櫓櫂船を漕いで居られるという事で、うまく漕いでおられる様子。
休憩のとき、私たちに対して、『おお、最初にしちゃあなかなかええじゃない。 初めての人じゃったら、櫂がぶれたり、なかなか合わせられんもんじゃが』
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『どうや。 大櫂もやってみるか?』 『はい、ええんですか?』 『せっかくじゃけえ』 ということで、大事な役目である大櫂も初めて体験させていただくことに。
『曲げる時は少し深めに沈めて。 回り終わったら浅めに。 肩幅で足を開いて。 そう、こんな感じ』

太鼓に合わせて6人が漕ぎ、私が大櫂で舵を取る。 漕いでいる間、徐々に舳先が曲がろうとする。
そこを、舳先と行きたい方向を見て、まっすぐ進むように大櫂を微妙にあやつる。 ラダーを上げたシーカヤックで、バウが左右に振れながら、微妙にパドリングで調節し、真っ直ぐ進むようにする感じである。
『お、なかなか上手いじゃない。 真っ直ぐ進ませるんが難しいんで。 ええ感じじゃあ』 『ありがとうございます。 少し左右に捻るだけで充分コントロールできますねえ。 舳先の振れ方、修正の仕方なんか、シーカヤックと似た感じです』
『ほうか、シーカヤックやっとるんか。 それで感じが分かるんじゃな』
再び漕ぎ手に戻り、穏やかな瀬戸内の海を 漕ぐ、漕ぐ、漕ぐ。
最後は、櫂伝馬競漕の雰囲気を味わおうという事で、数分間の全力漕ぎ。 顔からは汗が噴き出し、息が上がる。
フーッ、こりゃあキツいが楽しいのう!
『ありがとうございました。 これはええですねえ。 楽しかったです』
櫂伝馬を片付け、Kさん、Aさんにシーカヤックを体験していただいた後は、島の方々も交えてしばし歓談。 それにしても皆さん、本当に櫂伝馬が好きなんだなあ。 ええ島や!
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Kさんに声を掛けていただいてスタートした櫂伝馬プロジェクト。
まだまだ始まったばかりで、これからいろいろなハードルが待ち受けているだろうが、それらを一つ一つ乗り越えていくのも楽しみだ。 櫂伝馬の航海性能についても興味津々。
『瀬戸内海洋文化の復興、創造、そして継承』 瀬戸内の海を、シーカヤックが、そして櫂伝馬が、ごくごく普通に旅する姿が見られるようになるといいなあ。