眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

ビールと伯爵

2011-08-14 | 
調子はずれの声で
 猫が唄を歌った
  ほろ酔いの朝
   僕等は太陽の光で精神を消毒していた
    僕は緑の瓶ビールを美味そうに飲み干す猫に声をかけてみた

    ねえ、ハルシオン。
     僕らは全体この縁側でいつまで酔っ払っているんだい?
      どうして?おいら達がビールを飲もうが飲むまいが
       地表は回転し万物は流転するんだ
        少しくらい酔っ払ったって誰にも迷惑かけてやしないさ。
         君、それ誰に言い訳してるの?
          自分自身に?

          猫は嫌な表情をして歯でビールの蓋を開けた
           じゃあさ、その残ったビールはおいらが飲むよ。
         
          僕はあわててビールの瓶を隠した
         世界が流転している
        雲が流れる様は美しい
       戦闘機の爆音の下でビールをごくりと飲む
      僕らが生まれた時から
     戦闘機の爆音が絶えたことは無い
    はっか煙草に火をつけた

   ハルシオンが大きなラジカセでジャンゴ・ラインハルトを流している
  ジャンゴのギターとステファン・グラッペリのヴァイオリンが
 まるで哀しい陽気さで音楽を空間に紡いだ
一度だけパリで彼等の演奏を聴いたんだ。
それからのファンなんだ。
 ハルシオンは懐かしそうにそう云った
  ねえ、君は150年前には何処で何をしていたの?
   猫はくん、と鼻を鳴らした
    何処かの国の何処かのカフェでビールを飲んでいたよ。
     またビールかい?
      だってさ、今も昔も暑いんだもの。
       でもさ、150年前よりははるかに暑くなったよね。
        ふーん。
         僕は僕が生まれる前の時代に
          猫が一緒にビールのジョッキを傾けた相手を想像してみた。
           相当な物好きだった筈だ
            変わった人だったんだろうね。
             思わず呟いた言葉に猫が微笑んだ
              だれの話だい?あんたのこと?
               僕は紫色の煙を空に吹きかけた

    伯爵はさ、
     煙草とビールを愛していたんだよ。
      
      誰、それ?

       昔馴染みの友人の話さ。

        伯爵は誰も信用しなかった
         まあ、みんなも伯爵のことを信用していなかったけどね。
          多少は変わった方だったけどおいらには優しかった。
           伯爵は自前の気球を持っていてさ、
            緑の草原からおいら達は飛び立っていったんだ。
             地表がどんどん遠くになってね、
             気球に揺られながらおいら達はビールを飲んだんだ。

             その間にも地表は回転し万物は流転していた

            どう想う?そういうのって。

           どうって・・・。

          誰も信用せずにさ、猫のおいらなんかとお酒を飲む人。

         猫は縁側から青い空を眩しそうに眺めた
        まるで伯爵と交信しているように。

       どうだっていいんだよ。
      地表は回転し万物は流転する。

     猫はラジカセのカセットテープを取り替えた

    マイク・オールドフィールドのチュブラーベルズが流れた

   哀しみが飽和する太陽の下

  こんな感じの人だったよ、伯爵は。

 僕らはほろ酔いで音楽を聴いていた

  緑色のビール瓶を太陽にかざす

   伯爵は今でも何処かの時間の何処かの国で
    
    永遠にビールを飲んでいるのだろうか?

     誰も信用せず

      

      夏が来る












 

コメント (4)
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