眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

王国

2022-09-08 | 
僕らは夢を見ていた
 誰も知らない王国で  
  君はレスポールを抱きしめてジャックダニエルを飲んでいた
   薄暗がりのバーの深夜三時
    僕はどうでもいいスケールを繰り返し弾きながら
     テレヴィの遠い国の戦争を想った
      僕らの王国
       酒と音楽に酔い
        自堕落に世界を俯瞰したあの日
         祈るべき神を持たなかった
          ただ音楽だけを信じた
 
           たこ焼きをほお張る少女を見つけたのは
            潰れかけたビルの屋上だった
             僕の姿を無視し
              少女は黙々と口にたこ焼きを放り込んだ
               僕は煙草をポケットから引っ張り出し
                一服して彼女の食事の終わりを待った

                 あなたまだ禁煙してないの?

                  呆れた表情で一瞥して
                   少女は緑色のセーターの袖で口元を拭った

                    止めれなくてね、これだけは。

                     僕は試しにピースの両切りを彼女に勧めた
                      少女は一瞬戸惑い
                       それから銀色のシガレットケースから一本抜き取った
                        僕はくすくす微笑んでライターで丁寧に灯を点けた
                         深々と煙を吸い込み
                          少女は僕に告げた

                           一年ぶりに煙草を吸ったわ
                            お陰でくらくらするわよ。

                             僕らはビルの屋上で黙りこくって喫煙した
                              まるで校舎の裏の時代遅れの不良の様に

                               それで、
                                それで何の用なの?
                                 
                                 別に。
                                  ただ久しぶりに君に会いたかっただけさ。

                                  少女は胡散臭げに僕を眺めた
                                   それからもみ消した煙草の吸殻を僕にプレゼントした
                                    携帯用の灰皿に吸殻を片付け 
                                     僕は灰色の空を眺めた

                                      嘘よ。
                                そんな理由でわざわざこんな処まで探しに来るあなたじゃないわ。
                              
                               僕は皮肉な少女に微笑んだ

                              相変わらずだね。
                             それに
                            それに僕の事をよく知っている。

                           当り前よ。
                          あなたの分析をさせたら私の右に出る人なんていないわ。
                         それで、
                        それで何が願いなの?

                       夢。

                      夢?

                     怪訝そうな少女は不思議そうに僕の瞳を覗き込んだ

                    ね、
                   君、まだ楽器は触っているのかい?

                  楽器?
                 たぶん部屋の押し入れの中よ。

                僕はくすくす笑った

               それは嘘だよ。

              どうして嘘だと決めつけるのよ。

             少女の機嫌は最高潮に悪かった

            君が大切な楽器を押し入れに片付けるはずないもの。
           神様に誓ってもいいね。

          どうせ神様なんか信じていないくせに。

         少女は呆れたように口をすぼめた

        ね、
       音楽好きかい?

      あたりまえじゃない。

     それで十分。

    少女は僕の顔を何度も覗き込んだ

   何なの、いったい?

 楽団を組まないかい?

楽団?

 そう。
  また音楽がしたいんだ。

   音楽?
    あなたこのご時世にまだ夢を見ているの?

     そう。
      君のようにね。

       少女は少し赤くなって僕に煙草を請求した

        で、どんな音楽をするの?

         でたらめな音楽さ。
          まるでサーカス団の音楽隊みたいなさ、荒唐無稽な音とリズムの羅列。
           悪くないと思うんだけど。
            君がノイジーなギターを弾いて滅茶苦茶な詩で歌うのさ。

             私がギター弾くの?
              で、あなたは。

               ベースかな。

                どうしてあなたがベースなの?

                 いろいろと訳ありでね。

                  僕は昔、先輩にもらった古びたジャズベースを想った

                   ふ~ん。

                    ひとしきり考えて少女は呟いた

                     ドラムはどうするの?
                      あなたのややこしいリズムを叩けるドラマーは相当変わり者よ。

                       一緒に探すさ。
                        君とね。

                         それに
                          変わり者は幾らでもいると想うんだ。

                           変わり者じゃなくて壊れ物でしょう。

                            少女は可笑しそうに笑った

                             私のギャラは高いわよ。

                              知ってる。

                               払えるの?

                                う~ん。
                                 自信ないけど。
                                  支払いは来世でいいかい?

                                   呆れた顔をして少女は立ち上がり
                                    ジーンズの誇りを払った

                                     行くわよ。

                                      何処に?

                                       ドラムと夢を探しによ。
                                        その為に私を必要としたんでしょう?

                                         僕も立ち上がりたこ焼きのごみ屑を拾った

                                          今日のお酒をあなたのおごりよ。

                                           そうなの?

                                            当り前じゃない。
                                             再会を祝さなくっちゃあ。
                                              それから旅に出ないとね。

                                               屋上に風が吹いた

                                                夢を探しに

                                                 ね、


                                                  聴いているかい


                                                   大切な友達




                                                    聴いているかい



                                                     僕はまだ


                                                   呆れるくらい

                                                  
                                                 音楽を愛している
                                                  
                                                君のいない王国で

                                               君の旋律をなぞって

                                             メロディーを奏でたいんだ


                                            早く行くわよ。


                                          少女が僕に声をかけた


                                         失われた旅が始まる






















                                           

                               
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