輪曲
2023-09-05 | 詩
たぶん君への打電で通じるはずだ
深夜の物悲しい物語
何時かの少年の時間は
決してついえること無かった記憶の暗号
飛べない鳥が呼吸をする午前零時
記憶の井戸の底に君たちは眠っている
大学のキャンパスの広場のベンチで
君は煙草を咥え
大事そうにギターを抱えている
適当なアルペジオで和音を奏で
つまらなさそうに空を眺めた
僕は君の側に座り
紙コップの珈琲を飲んだ
幾人かの学生達が僕らの前を通り過ぎてゆく
その影は
まるで黒白フィルムの在り様だった
物言わぬ惰性で
スピーカーから狂乱が訪れる
アジテートする彼等の騒音に
不規則に空気が振動した七時頃
遊覧飛行する僕らの意識は
常に飛べない籠の鳥だった
終焉を待つテレパシー
空虚な想いは
常に優劣をつけない
打電した暗号
其れだけが真実だ
珈琲を飲み終えると
僕は眠そうな君の身体を抱えて
いつものバーに運んだ
紫の煙に巻かれた店で
オイルサーディンとクラッカーをつまみに
バーボンを胃袋に流し込んだ
静かなカウンターで
君は楽器を抱えて幸せそうに眠った
レコードから
優しくボブ・ディランが歌った
全体君の事を僕はどれだけ憶えているのだろう
記憶の螺旋を辿るには
バームクーヘンの層は
奇妙に分断され細く繋がっている
君の前髪を想い
ただ煙草に灯を点けた
様相は乖離された意識の分別
頼りない小鳥を抱く
不手際な優しさで
君は歌を歌い
僕は僕自身を消失した
君は歌うとき意外言葉を発しなかった
言葉は君には辛すぎて
僕には言葉は余りにも饒舌すぎた
それで君が言葉のトレーニングをしている病院の外来で
僕はヘッドフォンで音楽を聴き
紙コップの珈琲を飲んだ
昼の三時を回る頃
君はにこにこしながら診察室の扉を開けた
僕は受付で会計を行い
自動販売機の珈琲を買い
君と大学病院の中庭で静かに飲んだ
湿度が高く
空はどんよりと重く垂れ込めていた
打電される暗号だけが真実だ
飛べない鳥は
地上を這う幻影なのだから
或る日の出来事だった
教授先生が家族会に向けてメセージを届けた
「変化する為の努力
変化しないものを受け入れる勇気」
僕はその言葉をノートにしたためて
大切に保管した
それから三日後
君は君の国に帰った
取り残された僕は
大学病院の中庭で
紙コップの珈琲を飲みながら
煙草を咥え
ノートのメセージを読み返した
僕の前を
何人かの学生が通り過ぎてゆく
僕は
出す宛ての無い手紙を書いた
たとえば
たとえば君の最後の言葉は何だったのだろう
言葉を飲み込んだ沈黙で
誰にも聴こえない歌を
君は確かに歌った
遠い夜明けにふと想い出す
聴こえるはず無い君の歌声
深夜零時に僕は僕を失った
薄明かりの白い三日月
微量な電磁波の陽光で
安易に希望を持たなかった僕ら
誰それの界隈の雑音を遮断し
ただ優しい歌を口ずさんだ
15年ぶりに訪れた大学の中庭は
白々しい空虚さで僕を向かえ
君の記憶は薄明の中
幾人かの学生の影が通り過ぎる
夕刻
僕は泣けない者の為に泣いた
白夜の輪曲
蝉の声が止まない
深夜の物悲しい物語
何時かの少年の時間は
決してついえること無かった記憶の暗号
飛べない鳥が呼吸をする午前零時
記憶の井戸の底に君たちは眠っている
大学のキャンパスの広場のベンチで
君は煙草を咥え
大事そうにギターを抱えている
適当なアルペジオで和音を奏で
つまらなさそうに空を眺めた
僕は君の側に座り
紙コップの珈琲を飲んだ
幾人かの学生達が僕らの前を通り過ぎてゆく
その影は
まるで黒白フィルムの在り様だった
物言わぬ惰性で
スピーカーから狂乱が訪れる
アジテートする彼等の騒音に
不規則に空気が振動した七時頃
遊覧飛行する僕らの意識は
常に飛べない籠の鳥だった
終焉を待つテレパシー
空虚な想いは
常に優劣をつけない
打電した暗号
其れだけが真実だ
珈琲を飲み終えると
僕は眠そうな君の身体を抱えて
いつものバーに運んだ
紫の煙に巻かれた店で
オイルサーディンとクラッカーをつまみに
バーボンを胃袋に流し込んだ
静かなカウンターで
君は楽器を抱えて幸せそうに眠った
レコードから
優しくボブ・ディランが歌った
全体君の事を僕はどれだけ憶えているのだろう
記憶の螺旋を辿るには
バームクーヘンの層は
奇妙に分断され細く繋がっている
君の前髪を想い
ただ煙草に灯を点けた
様相は乖離された意識の分別
頼りない小鳥を抱く
不手際な優しさで
君は歌を歌い
僕は僕自身を消失した
君は歌うとき意外言葉を発しなかった
言葉は君には辛すぎて
僕には言葉は余りにも饒舌すぎた
それで君が言葉のトレーニングをしている病院の外来で
僕はヘッドフォンで音楽を聴き
紙コップの珈琲を飲んだ
昼の三時を回る頃
君はにこにこしながら診察室の扉を開けた
僕は受付で会計を行い
自動販売機の珈琲を買い
君と大学病院の中庭で静かに飲んだ
湿度が高く
空はどんよりと重く垂れ込めていた
打電される暗号だけが真実だ
飛べない鳥は
地上を這う幻影なのだから
或る日の出来事だった
教授先生が家族会に向けてメセージを届けた
「変化する為の努力
変化しないものを受け入れる勇気」
僕はその言葉をノートにしたためて
大切に保管した
それから三日後
君は君の国に帰った
取り残された僕は
大学病院の中庭で
紙コップの珈琲を飲みながら
煙草を咥え
ノートのメセージを読み返した
僕の前を
何人かの学生が通り過ぎてゆく
僕は
出す宛ての無い手紙を書いた
たとえば
たとえば君の最後の言葉は何だったのだろう
言葉を飲み込んだ沈黙で
誰にも聴こえない歌を
君は確かに歌った
遠い夜明けにふと想い出す
聴こえるはず無い君の歌声
深夜零時に僕は僕を失った
薄明かりの白い三日月
微量な電磁波の陽光で
安易に希望を持たなかった僕ら
誰それの界隈の雑音を遮断し
ただ優しい歌を口ずさんだ
15年ぶりに訪れた大学の中庭は
白々しい空虚さで僕を向かえ
君の記憶は薄明の中
幾人かの学生の影が通り過ぎる
夕刻
僕は泣けない者の為に泣いた
白夜の輪曲
蝉の声が止まない