2月15・16日、松山道後で日本母親大会中四国ブロックの学習交流会がありました。
主な議題は、第61回以降の日本母親大会の開催をどうするかというものでした。
15日には、 愛媛大学客員教授で、愛媛県自然エネルギー利用推進協議会会長、国民の食料と健康を守る愛媛県連絡会(愛媛食健連)会長もされている村田 武先生が「食とエネルギーの産直」時代の到来ー「F・E・C自給圏」づくりーと題した講演をしてくださいました。
まず、もうすぐ3年になろうとしている東日本大震災と、東京電力福島原発の事故について触れ、
愛媛県内の「伊方原発は再稼働させずに廃炉に」
「安倍自民公明党政権の“忘却の政治”と福島県民の“棄民”化を許してはならない」と強調された上で、
「自然エネルギーを活用した町づくり」として、行政が力を入れれば自然エネルギーへの転換は実現可能だという例を高知県梼原町(関西では高知県梼原町、関東では岩手県葛巻町(「東北一の酪農」と紹介されていました)が先進的だそうです)の取り組みを
再生可能エネルギーの買取価格や、“風ぐるま基金”設立で設置した風力発電設備での発電量・売電収入などデータを出して具体的に話されました。
梼原町は伊方原発から50km圏内。事故が起きた場合にかなりの影響を受けると町議会で「伊方原発の再稼働について反対する決議」をあげているそうです。高知県では、36市町村中25市町村がこのような決議をあげているそうです。
伊方原発立地の愛媛県内では、まだ2町(鬼北町と上島町)しか議会による決議が出されていないようで、出遅れている感があります(愛南町では伊方原発をとめる会の請願書が採択されています)。
次に、ドイツでの視察について。
ドイツでは、福島の原発事故を受けて保守党・メルケル首相政権下でも「原子力発電のリスクは大きすぎる、危険性のレベルが高すぎることがわかった。また、処理・処分が困難な放射性廃棄物問題をかかえる、一刻も早く原発を廃止し、よりリスクが少ないエネルギーによって代替すべきだ」と、2011年7月に原子力法を改正。
遅くとも2020年までの原発完全廃止を決定しており、2012年には稼働している原発は8基になっており、その停止計画も立っているようです。ただ、残る8基の原発を運転しているのは、大手電力会社4社であり、この4社で全ドイツの発電量の83%を発電しているのも事実だそうで、クリアしていくべき困難も多そうです。
日本の原発とドイツの原発の違いについて、ドイツ最大のグントレミンゲン原発の写真、グラーフェンラインフェルト原発の写真(どちらも村田先生撮影)を見せていただきました。
割と街に近いところに立地していて建屋が見えるところにあり、日本のように地域(地方?)にあって存在が隠されていることはないそうです。
なるほど、事故が起こったら他人事ではなくなります(役所広司さん主演の映画「東京原発」2004年公開 ではこうした提起がされてましたね)。
また、ドイツの気候に合わせた設計であること(日本の原発は、地震の少ないアメリカ型をそのまま輸入設置)、
温排水は河川に戻さないよう環境配慮が為されていること(伊方では7tの温排水をそのまま海に排出し生態系への影響が懸念されている)が、相違点として挙げられていました。
電力を供給するライファイゼン型協同組合についての紹介では、ドイツの市民運動の幅広さが伺えました。
地域で出資を募り、立ち上げた、電力協同組合による電力供給。
現段階ではよそから(例に挙がったグロスバルドルフ協同組合ではノルウェーの風力発電会社から)電力を買い取ることをしているそうですが、“地域でつくった再生可能エネルギーを、地域の電力会社(協同組合)が供給し、地域住民が消費する”という構想は、なんとも民主的で魅力的です。
最後に、「(就業機会を保証しないまま交付金で立地を決め、地域発展には貢献できなかったという点で)原発依存の地域づくりは地域破壊にしかつながらなかった」と、内橋克人さんの提言した「F(フード)・E(エネルギー)・C(ケア)自給圏」を紹介していただき、「市民出資型再生可能エネルギー事業や農協・森林組合・生協などの共同出資電力事業協同組合の設立など、もっとエネルギー節約型・エネルギー自給型生活の探求と普及を我々の世代(“母親”の世代)が提唱していきましょう」と締めくくられました。
村田先生が会長されている愛媛県自然エネルギー利用推進協議会が関わる愛媛県内での地域型再生可能エネルギー事業は、野村町から始まっています。
2013年9月12日号の新婦人しんぶん一面で取り上げられました。
http://blog.goo.ne.jp/shinfujinehime/d/20130911
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村田武先生が、伊方原発運転差止訴訟 第2回口頭弁論(2012年9月25日)で語られた意見陳述です。
「原発事故と食・農漁業をめぐって」
陳述人:愛媛大学社会連携推進機構教授 村田武
1.胸つぶれる数字
復興庁が2012年8月22日までに公表した東日本大震災関連死の原因調査で、東京電力福島第1原発事故のストレスによる肉体・精神的負担による死者が34人に上ることがわかりました。「関連死」の定義は災害弔慰金の支給対象となった人とされます。実際には、さらに多くの人が亡くなっていると考えられます。同原発での原発作業員の死亡も、事故後、5人になっています。政府主催の原発意見聴取会で、「原発事故の放射能で死んだ人はいない」と言い放った電力会社幹部に、この胸つぶれる数字をどうみるのだと聞きたいものです。
2.放射能汚染と食品
私たちは、3・11福島原発事故までの食品の安全基準となる食品衛生法に放射能汚染に対する基準がないことを知りませんでした。そして、政府が事故直後の3月17日、急きょICRP(国際放射線防護委員会)の防護基準を参考にして発表した「暫定規制値」は、国民からまったく信頼されず、食品の流通に関わる団体では、それぞれに「自主基準値」を設定する動きが加速しました。
そこで、3月31日には、「国民の皆様へ~農作物等の安全性について」と題するメッセージを農林水産大臣があわてて発表しました。それは、「今般の事故を踏まえ、国及び地方自治体は、全力をあげて農作物等の安全確認の調査を行っています。その結果、規制値を超えた一部の農作物等については、出荷規制が行われ、当該農作物等については、現在、市場には流通しておりません。一方で、これまでの調査結果から、出荷制限の対象となっていない農作物等については、引き続き市場において受け入れられております。農林水産省としても、引き続き、政府一体となった科学的・客観的根拠に基づく正確な情報の提供に努めてまいりますので、消費者ならびに小売業者の皆様におかれましては、普段通りに買い物や販売をしていただくことを切にお願いいたします。」との悲鳴に近い訴えでした。
そのようななかで、「安全性に明確な閾値のない放射能」であるということもあって、流通での規制値の設定に慎重な団体も少なくなかったのです。そして、生産者の排除と消費者との分断に陥らない運動が広がりました。第1に、放射能物質による汚染状況をできるだけ正確に把握することでした。そのために、ゲルマニウム半導体検出器、NaⅠガンマ線スペクトロメータなどによおる測定体制の構築が進められました。第2に、生協などの消費者団体の生産者との対話です。暫定基準値発表直後から基準を超える農作物の出荷自粛が報じられ、一気に買い控え現象になったからです。生協などは産直契約量の下方修正を生産者・生産者団体に要請せざるをえなかったのです。だい3に、測定結果の公開です。測定結果を公表するなかで、判断材料を得た消費者は、「福島と北関東の農家がんばろう!」と銘打った野菜セットなどに応えました。。第4に、生産現場での放射能対策への支援です。ガンマ線スペクトロメータなどの計測器の生産者団体への貸与が消費者団体によって取り組まれました。
3.続く出荷制限
日本食品は安全だという評価が一挙に崩れました。中国が福島県を筆頭に10都県のすべての食品の輸入停止を今でも継続しているのをご存じでしょうか。韓国やアメリカも関東・東北諸県の米や牛肉、シイタケ、茶など多くの食品を輸入停止しています。
農林水産省のホームページに掲載されている「出荷制限要請等の状況」(2012年8月30日更新)によれば、東北・北関東諸県で、「制限品目」と「自粛品目」のオンパレードです。青果物の「出荷制限」、つまり出荷がストップされているのは福島県では、青果物では、多数の野菜、原木しいたけ、ぜんまい、わらぶ、たけのこ、うめ、ゆず、くり、キウイフルーツなど、畜産物では、全域で牛、福島第1原発に近い市町村では原乳が出荷できません。
福島県ではゲルマニウム半導体検出器を10台も設置して、放射性物質検査を徹底しております。出荷できるものについては、消費者にはぜひとも安心して食べてほしいというのが、食料の生産に携わる福島県民の願いです。
地域農業と農科の暮らしを支えてきた農産物の多くが、出荷制限に置かれたままの現状、生産農家の苦しみを思いやるとき、農業経済学者の私には言葉もありません。
4.水産物の出荷停止・漁業の操業自粛
水産物の放射能汚染が終わっていません。これまでの放射性物質検査で、福島県、宮城県、岩手県、茨城県沿岸の表層性魚種(コウナゴ、シラス)、低層性魚種(アイナメ、イシガレイ、メバル、ヒラメ、カレイなど)、無脊椎動物(ムラサキガイ、ホッキガイ、ウニ、モズクガニ)、海藻類(ワカメ、ヒジキ、アラメ)、淡水魚(アユ、ヤマメ、ウグイ、ワカサギ、イワナ、ホンモロコ(養殖))等から、基準値を超える放射性物質が検出されています。その結果、岩手県のマダラ、宮城県のスズキ、マダラ、ヒラメなど、茨城県のシロメバル、スズキ、ヒラメ、イシガレイなどが出荷制限となっています。
福島県では、沖合でのまき網漁業、さんま棒受け網漁業を除くすべての沿岸漁業及び底引き網漁業が、事故直後の3月15日以来、全漁協および水産庁・東京電力の合意のもとで、操業自粛に追い込まれ、今もそれが続いています。県の水産試験場を中心に1年以上にわたって行ってきた放射性物質モニタリング検査から、ようやく最近では、推進100mより浅い場所に住む底魚(アイナメなど)で、規制値(一般食品100ベクレル/kg)超えの魚種が出ているものの、表層に住むイワシ・サバ類、カツオ、サンマは検出値が低く、イカ・タコ、エビ・カニ、海藻類などは放射性物質の影響を受けにくく、不検出となっている魚種も確認されるにいたりました。
そこで、本年6月14日から、相馬沖50㎞以遠の推進150m以深の海域で相馬双葉漁協は水産庁と協議のうえ、ミズダコ、ウヤナギダコ、ツブ貝の試験操業を開始しました。9月からはキチジ(キンキ)、カニ類のケガニ、イカ類のスルメイカとヤリイカ、ツブ貝のチジミエゾボラやエゾボラモドキ、ナガバイの7魚種が試験操業のたいしょうに追加されています。試験操業で水揚げされた魚は加工されて販売されていましたが、この9月11日からは相馬市のスーパーマーケットなどで、初めて生鮮品のまま販売されるようになりました。
この陳述を準備するために、福島県漁業協同組合連合会(福島県漁協)をいわき市に訪ねました。
福島県漁協は、まき網、船びき網、沖合底引き網、さんま棒受け網漁業を中心に1999年から08年までの10年間平均で、年間5万8000トン、131億円の漁獲高をあげてきました。
東日本大震災による津波で、相馬・双葉地区では漁村集落が消滅し、100名を超える漁民が命を落としました。残った1300名を超える漁業者はそのほとんどが沿岸漁業の零細漁業者です。大半が仮設住宅に入居しています。福島第1原発近くの漁家は分散して仮設住宅に入居せざるをえませんでした。
毎月、漁協組合長が参集して、水産庁と東電との立合いのもとに、試験操業を除く福島県沖での操業自粛を決めています。操業自粛で漁業収入を絶たれた漁民には、過去の水揚量を基礎に損害額が算定されて、賠償金が支払われています。ところが過去の水揚量といっても、相馬・双葉地区では漁協のたてものが津波で流されたので、各漁家の出荷額の記録は失われました。そこで、過去の漁獲共済の実績が唯一の証拠書類になったといいます。そして、水産庁・東電とも協議のうえの操業自粛ですから、損害賠償は水揚額から経費を控除した金額が支払われています。ところが、宮城県や岩手県では、放射性セシウムの数値の高い特定魚種の出荷停止ですから、損害賠償は出荷規制魚種の漁獲量×短歌が賠償額にとどまり、風評被害による魚価低落が補償されるわけではありません。また、賠償額の算定そのものがきわめて煩雑です。
さて、福島漁民の当面の暮らしを支えているのは、損害賠償金と、①毎週ほぼ120検体が採取される放射性物質(セシウム134・セシウム137)モニタリング調査に参加すること、および、②水産庁の漁場生産力回復支援事業の海底がれき撤去作業に参加することで得られる賃金です。これら調査や作業には1000名もの漁民が参加し、漁村を離れてバラバラに居住してい集まれる場所のない漁民にとっては、顔を合わせる貴重な機会だというのは何とも皮肉なことです。
問題は、いつまでも操業自粛をつづけなければならないのか、それがわからないことにあります。試験操業といっても、網を引ける場所は限定されており、網にかかった対象魚以外の魚は廃棄する以外にないという無駄も避けられません。そして、漁民には仮設住宅での当面の暮らしは何とかなっても、自分自身が、また後継者に漁業を続けさせるには新しい漁船を手に入れなければなりません。それを決断しようにも、漁業再開のめどが立たないかぎりどうしようもないのです。そのような事態におかれた漁民の苦しみを思う時、われわれは放射性物質をばら撒いた原発事故の過酷さ、罪深さに恐れ戦かざるをえません。
5.伊方原発の廃炉を
福島原発事故が東北・北関東の太平洋海域の漁業に与えている壊滅的打撃は、水産業を基幹産業のひとつとする愛媛県と県民にとっては、よそ事ではありません。全国の原発で唯一内海に面し、ひとたび過酷事故を起こせば、瀬戸内海、豊後水道・宇和海、日向灘、さらに玄界灘をも含む海域に放射性物質がまき散ります。このような広い海域での漁業の壊滅・出荷制限、操業停止を想像するだけでも鳥肌がたちます。愛媛県には、漁港が北海道に次いで第2位の195もあり、海面漁業就業者は22万2000人、漁獲高は17万2000トン、生産額は1025億円にのぼります。これに加えて、中小企業に担われる水産加工業が地域経済の基幹産業です。このような愛媛県漁業が伊方原発の過酷事故・放射性物質放出によって壊滅させられる事態を想定外とするわけにはいきません。四国電力は、伊方原発の過酷事故が周辺海域の漁業・水産加工業を崩壊させ、就業者からふるさとと生業を奪い、再興には気の遠くなるような時間を要することを予測しているでしょうか。倫理的に許されると思っているのでしょうか。さらにまたその損害賠償額はとてつもなく巨大となって、株式会社四国電力も破綻に追い込まれることを覚悟しているのでしょうか。
愛媛県の漁業・水産加工関係者にとっては、安全神話の崩れた原発の存在そのものが、すでに暮らしを土台から脅かすものとなっています。愛媛県南予地域の活性化をめざす愛媛大学うわじまサテライトのサテライト長の職にある私には、そのことがよくわかります。
地震学や変動地形学の専門家が浜岡原発に次いで危険とする伊方原発をこのまま稼働させるわけにはまいりません。一刻も早い廃炉を切に望みます。
以上で、私の陳述を終わります。