県は7月2日、県議会の文化観光委員会で静岡空港が開港してから4年間での県内経済波及効果を859.7億円と発表した。
既にお知らせのとおり、当方はこの数字を検証すべく、積算根拠などを公文書開示請求したが非開示の決定が出され、現在異議申立中である。(ただし、今回の公表結果を見ると、積算根拠を精査するまでもない代物であることがわかり、ある意味徒労であったこととなる。)
しかしながら、積算根拠自体は依然不明ながら、今回の報道等の資料などからも十分その過大ぶりが明らかにできるため、以下にその代表事例を明らかにし、県民理解の向上に資すこととする。
1 需要の移転を新規需要に含める欺瞞
総務省統計局では経済波及効果について、「波及効果は、「新規需要」の発生に伴い、直接・間接的に効果を受けた額を示す。」と定義している。
これはどういう意味かというと、
例えばA町とB町の間の川に1本の橋が架かっていたとして、年間10万人が往復しており、その橋によるB町の経済効果が10億円であったとする。
ここに2本目の橋が新設され、年間5万人が旧橋から新橋を使うようになったとする(=旧橋から新橋に2分の1の移転需要が生じた)。
すると、トータルの人数が変わらないため2本の橋によるB町の経済波及効果は10億円のままであり、橋ごとに計算した経済波及効果は旧橋、新橋、それぞれ5億円ずつとなる。
総務省の定義によれば、B町には新規需要が発生していないため、新橋による経済波及効果はゼロとなるが、静岡空港の経済波及効果の計算上は5億円となるのである。
本来は静岡空港がなくても静岡に来たり去ったりしたであろう人数を全利用者数から除いて純粋な「新規需要」を特定してから計算すべきを、年間40億円にも上る空港予算の無駄を糊塗するため、「移転需要」を含めて経済波及効果を計算しているのである。
この事実は、経済波及効果計算に、4年間の全利用者数の202万人を使用したと公表していることから明らかである。
2 税金での維持管理費なども経済波及効果に計上
経済波及効果にはフローの観点から見れば経済波及効果が発生していても、ストックの観点からは投入資金の無駄と評価されるものがある。
例えば、10億円かけて巨大な穴を掘って埋め戻した場合、14億円の経済波及効果が発生してもストックの観点から見れば何も変わっていない。
また、建物を壊して同じものを新築した場合も同様である。
お金は動き、すなわちフローの観点からは、経済波及効果は発生するが、社会的な財の増加、すなわちストックの観点からの経済的利益の増加はない場合がそれである。
県は今回の経済波及効果859.7億円の中に、空港関係事業費によるものとして78.8億円を算入している。
つまり、空港の維持管理費などの税金で行った消費も経済波及効果に含めているということである。
もちろん税金によるものであっても経済波及効果は発生するが、今回の経済波及効果の発表が、「空港が県内経済や県民の生活を支える重要な社会インフラだと示すこと」(高橋孝雄県空港政策課長)にあるのであれば、このようなストックの観点から無駄なものは経済波及効果に算入すべきではない。
これがまかりとおれば、無駄の象徴となった私の仕事館のような無駄な箱ものにあっても経済波及効果が大きいとして「空港が県内経済や県民の生活を支える重要な社会インフラだと示すこと」(高橋孝雄県空港政策課長)になってしまうからである。
2 国内線利用者の一人一往復当たりの県内経済波及効果が73643円
県は過去4年間のアウトバウンド・インバウンド別経済波及効果として、国内線のアウトバウンドと日本人のインバウンドの利用者数とその県内経済波及効果を明らかにしている。
これによれば、アウトバウンド日本人送客(国内)の人数は80.3万人、その県内経済波及効果は176.0億円となっている。すなわち、静岡から静岡空港国内線で出て行く日本人は1人当たり21918円の県内経済波及効果をもたらすということとなる。
また、インバウンド日本人が静岡空港に降り立つ人数は42.9万人、その県内経済波及効果は221.9億円となっており、静岡空港に降り立つ日本人は1人当たり51725円の県内経済波及効果をもたらすということとなる。
よって、日本人が静岡空港を往復で使った場合は1人73643円の県内経済波及効果を県内にもたらすと県は言っているのである。
さきにお知らせのとおり、県はこの計算根拠を非公開にしたため飲食費、宿泊費、土産代などのどの部分が過大なのかなど全く不明であるが、昨年公表された萩・石見空港の経済波及効果でインバウンドの島根県内での1人当たりの消費額22761円、アウトバウンド同6000円と比較すると過大は明らかである。
ちなみに、萩・石見空港の経済波及効果では、2012年度の利用者数71千人に対して、その経済波及効果は島根県で5億4200万円、山口県で2億7600万円、合わせても8億1800万円であり、一人一往復当たり23042円に過ぎないのである。
<総評>
県は空港建設時の費用便益分析において、便益が費用を上回る分岐点が開港初年度の利用者数86万人(次年度以降は右肩上がりが前提)であることを明らかにした。
つまり、この空港は既に費用便益分析、いわゆる費用対効果において費用を効果が下回る「失敗の事業」の産物であることは明らかな事実となっているのである。
しかし、県はこの事実を費用便益費ではなく、どれほど無駄遣いをしても遣っただけ大きくなる性質を持つ経済波及効果で失敗をごまかそうと企んだのである。
費用対効果でいう「効果」と経済波及効果の「効果」が全く別物であることを知っている人には全く通用しないのだが、県は大多数の県民は違いなど分からないと軽視しているのだ。
これは、経済波及効果の公表があった同じ7月2日の県議会厚生委員会のやり取りを見ればよくわかる。
県が5年後の合計特殊出生率の目標値を2(全国で最高値)としたことに対して、直近の率が1.53で前年からの上昇率が0.01の増に過ぎないことから、県議から「あまりに高すぎる」と指摘されたのに対して、堀内智子健康福祉部理事は「県民に分かりやすい数字として示した指標」と説明したという。
県民には少数以下を示し、理論的な数字を説明しても理解できないだろうということなのだろう。
あまりに、非科学的で、県民をばかにした話だ。
民間企業などが過大広告を行えば行政による取締の対象となるが、行政自体の過大広告・過大宣伝を取り締まる部署はない。
最近の政府の独断・暴走と同様、行政の側からすれば行政は民間企業が私益のために宣伝するのと違って公益のために活動しているのだから過大な広報や広告も許されるという意識があるのだろうが、どのような人でも組織でも過つものである。ゆえに、その不遜・傲慢は改められるべきである。
<参考類似記事>
「静岡県発表の新東名高速道路の開通効果の欺瞞」
既にお知らせのとおり、当方はこの数字を検証すべく、積算根拠などを公文書開示請求したが非開示の決定が出され、現在異議申立中である。(ただし、今回の公表結果を見ると、積算根拠を精査するまでもない代物であることがわかり、ある意味徒労であったこととなる。)
しかしながら、積算根拠自体は依然不明ながら、今回の報道等の資料などからも十分その過大ぶりが明らかにできるため、以下にその代表事例を明らかにし、県民理解の向上に資すこととする。
1 需要の移転を新規需要に含める欺瞞
総務省統計局では経済波及効果について、「波及効果は、「新規需要」の発生に伴い、直接・間接的に効果を受けた額を示す。」と定義している。
これはどういう意味かというと、
例えばA町とB町の間の川に1本の橋が架かっていたとして、年間10万人が往復しており、その橋によるB町の経済効果が10億円であったとする。
ここに2本目の橋が新設され、年間5万人が旧橋から新橋を使うようになったとする(=旧橋から新橋に2分の1の移転需要が生じた)。
すると、トータルの人数が変わらないため2本の橋によるB町の経済波及効果は10億円のままであり、橋ごとに計算した経済波及効果は旧橋、新橋、それぞれ5億円ずつとなる。
総務省の定義によれば、B町には新規需要が発生していないため、新橋による経済波及効果はゼロとなるが、静岡空港の経済波及効果の計算上は5億円となるのである。
本来は静岡空港がなくても静岡に来たり去ったりしたであろう人数を全利用者数から除いて純粋な「新規需要」を特定してから計算すべきを、年間40億円にも上る空港予算の無駄を糊塗するため、「移転需要」を含めて経済波及効果を計算しているのである。
この事実は、経済波及効果計算に、4年間の全利用者数の202万人を使用したと公表していることから明らかである。
2 税金での維持管理費なども経済波及効果に計上
経済波及効果にはフローの観点から見れば経済波及効果が発生していても、ストックの観点からは投入資金の無駄と評価されるものがある。
例えば、10億円かけて巨大な穴を掘って埋め戻した場合、14億円の経済波及効果が発生してもストックの観点から見れば何も変わっていない。
また、建物を壊して同じものを新築した場合も同様である。
お金は動き、すなわちフローの観点からは、経済波及効果は発生するが、社会的な財の増加、すなわちストックの観点からの経済的利益の増加はない場合がそれである。
県は今回の経済波及効果859.7億円の中に、空港関係事業費によるものとして78.8億円を算入している。
つまり、空港の維持管理費などの税金で行った消費も経済波及効果に含めているということである。
もちろん税金によるものであっても経済波及効果は発生するが、今回の経済波及効果の発表が、「空港が県内経済や県民の生活を支える重要な社会インフラだと示すこと」(高橋孝雄県空港政策課長)にあるのであれば、このようなストックの観点から無駄なものは経済波及効果に算入すべきではない。
これがまかりとおれば、無駄の象徴となった私の仕事館のような無駄な箱ものにあっても経済波及効果が大きいとして「空港が県内経済や県民の生活を支える重要な社会インフラだと示すこと」(高橋孝雄県空港政策課長)になってしまうからである。
2 国内線利用者の一人一往復当たりの県内経済波及効果が73643円
県は過去4年間のアウトバウンド・インバウンド別経済波及効果として、国内線のアウトバウンドと日本人のインバウンドの利用者数とその県内経済波及効果を明らかにしている。
これによれば、アウトバウンド日本人送客(国内)の人数は80.3万人、その県内経済波及効果は176.0億円となっている。すなわち、静岡から静岡空港国内線で出て行く日本人は1人当たり21918円の県内経済波及効果をもたらすということとなる。
また、インバウンド日本人が静岡空港に降り立つ人数は42.9万人、その県内経済波及効果は221.9億円となっており、静岡空港に降り立つ日本人は1人当たり51725円の県内経済波及効果をもたらすということとなる。
よって、日本人が静岡空港を往復で使った場合は1人73643円の県内経済波及効果を県内にもたらすと県は言っているのである。
さきにお知らせのとおり、県はこの計算根拠を非公開にしたため飲食費、宿泊費、土産代などのどの部分が過大なのかなど全く不明であるが、昨年公表された萩・石見空港の経済波及効果でインバウンドの島根県内での1人当たりの消費額22761円、アウトバウンド同6000円と比較すると過大は明らかである。
ちなみに、萩・石見空港の経済波及効果では、2012年度の利用者数71千人に対して、その経済波及効果は島根県で5億4200万円、山口県で2億7600万円、合わせても8億1800万円であり、一人一往復当たり23042円に過ぎないのである。
<総評>
県は空港建設時の費用便益分析において、便益が費用を上回る分岐点が開港初年度の利用者数86万人(次年度以降は右肩上がりが前提)であることを明らかにした。
つまり、この空港は既に費用便益分析、いわゆる費用対効果において費用を効果が下回る「失敗の事業」の産物であることは明らかな事実となっているのである。
しかし、県はこの事実を費用便益費ではなく、どれほど無駄遣いをしても遣っただけ大きくなる性質を持つ経済波及効果で失敗をごまかそうと企んだのである。
費用対効果でいう「効果」と経済波及効果の「効果」が全く別物であることを知っている人には全く通用しないのだが、県は大多数の県民は違いなど分からないと軽視しているのだ。
これは、経済波及効果の公表があった同じ7月2日の県議会厚生委員会のやり取りを見ればよくわかる。
県が5年後の合計特殊出生率の目標値を2(全国で最高値)としたことに対して、直近の率が1.53で前年からの上昇率が0.01の増に過ぎないことから、県議から「あまりに高すぎる」と指摘されたのに対して、堀内智子健康福祉部理事は「県民に分かりやすい数字として示した指標」と説明したという。
県民には少数以下を示し、理論的な数字を説明しても理解できないだろうということなのだろう。
あまりに、非科学的で、県民をばかにした話だ。
民間企業などが過大広告を行えば行政による取締の対象となるが、行政自体の過大広告・過大宣伝を取り締まる部署はない。
最近の政府の独断・暴走と同様、行政の側からすれば行政は民間企業が私益のために宣伝するのと違って公益のために活動しているのだから過大な広報や広告も許されるという意識があるのだろうが、どのような人でも組織でも過つものである。ゆえに、その不遜・傲慢は改められるべきである。
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