専門家とはある意味損な役割だ。
このブログでは当初から弱毒型で早期発見早期治療でそれほど心配は要らないと書いているが(
http://navy.ap.teacup.com/hikaritoyami/381.html)ようやく弱毒型と認知されるようになってきたからだ。
恐らく事件が公になった当初から彼らも今回の新型インフルエンザが弱毒型であることは分かっていたはずなのだが、万が一を考えると「可能性もある」という言葉をつけて保険をかけなければ専門家生命につながりかねないのが災いして、その万が一の方がかえって大げさに報道されてしまったのが実相であろう。
今年2月に私が講師となって行った講演でも取り上げたが、そもそも、強毒型か弱毒型かはウイルス表面に突き出たヘマグルチニンの開裂部位の塩基配列に一義的に依拠するものであって、現在H5とH7でしか強毒型特有の塩基配列(アルギニンやリジンといったアミノ酸が6~8個並んだ特異な配列、通常は1個)となっていない。
その強毒型は、宿主すなわち人の全身の臓器に存在するタンパク質分解酵素で開裂しウイルスが細胞内に進入・増殖するが、開裂部位が特異でない塩基配列の場合は呼吸器など限定された臓器にしか存在しないタンパク質分解酵素で開裂しそこにおいてしか進入しないから(全身でウイルスが増殖しない)弱毒型というのである。
もちろん弱毒型が合わさっても絶対に特異な配列にならないとはいえないが、世界的な鳥インフル監視状況の中で何の兆候なしにH1が突然強毒型にとは考えられない。
さらに、公になった段階にあっても、強毒型特有の多臓器不全での死という惨状が報道されなかったことは1月以上のメキシコでのまん延状況から考えて、その死のほとんどは通常のインフルエンザ同様の肺炎合併症例との推測はつく。
若年層での死亡例にしても弱毒型のスパニッシュインフルエンザと同様、若い人ほど活動的で感染の危険があることに加え、適切な医療に早期に結びつかなかった、特に現在では、たかが風邪という過信が災いし手遅れになりやすい、と考えればそれほど不自然ではない。
とりあえずフェーズは4に上がり、新型インフルエンザと認定されたわけだが、本命のH5N1ではなかったのは幸いというべきだ。
今回の一連の事件は天が人類に与えた本番前の予行演習として貴重な体験となっていくであろう。