白菖蒲夜の帳をめくりけり 何かある菖蒲の闇の白さかな 猫奔る菖蒲の闇の静まれり 暴走一過環状8号菖蒲咲く 早咲きの菖蒲の園の昂ぶれり 人知れず菖蒲の闇の点灯す 白菖蒲この欄干は越えられぬ また生きて菖蒲の蒼き空となる 白菖蒲水面を統べる神のあり 花菖蒲王城楽土に耳澄ます またの世を生きて菖蒲の空はるか 茫として菖蒲の空の果てもなし 空なるもの水面を奔る菖蒲池 花菖蒲空という空波打てり 何もせずただ生きている菖蒲晴 花菖蒲泥から生まれしもの溢れ 菖蒲田の人のかたちの薄れけり 掌を合わせ開けば人や花菖蒲
讃歌あり菖蒲の園の輝けり 生きるべく菖蒲の浅き黄を愛す 菖蒲田の迷宮めきて空遠し やがて来る死は海中に花菖蒲 老犬の幽けき菖蒲見て過ぎぬ 突き抜けて菖蒲の無言押し通す 花菖蒲何故白ばかり咲き急ぐ 大孤独虚空に託し花菖蒲 長生の蒼き水面に菖蒲咲く 平成なる世を生き通し花菖蒲 一雨を待つこと久し菖蒲燦 また生きて菖蒲に水を張る夕べ 花菖蒲ヒップホップの女王とあり 再生す菖蒲咲く日の遠からず
揺れているクリストファー・コロンブス忌の生卵 五月十六日に死んではをらず透谷忌 肉片がかなたこなたに東条忌 あの世とはこの世のどこか時彦忌 とてつもなく悪い子だった義平忌 井泉水忌水とは無縁の村を出る 万太郎忌のお前はお前俺は俺 虚子の忌の堕胎は一度や二度ならず 何もない何かあるはず健吉忌 アドルフ・シュタイナー忌のやっと会えた父無し子 まだ地上にあり愛心覚羅溥儀の忌 角栄忌ブルドーザーは無心なり 草田男忌平成の世の暗がりに セクシュアルバイオレットはばからず桑名正博忌 はうはうの体でジミ・ヘンドリクス忌の青空
小満やこの世に一歩踏み出せり 四迷忌の四つの迷ひ暴発す 小満や末期の水のほの苦く 槍投げの見ぬちの果てや登四郎忌 余花とあり新宿歌舞伎町ボッタクリバー あたらしき世に汝が名無し登四郎忌 余花千本ただそれだけの船着場 余花見むと日記に余白見当たらず ほんたうは余花とは落花の別称なり 余花暗し死ぬために生きているのだろう 旧年札山と積まれし余花の寺 東京のとどのつまりに余花の空 余花の雨わたしも打たれ血の雨に 余花晴れてDAIGOと景子薄れけり 余花遥か桜はこの世のものならず ほんの一閃雷鳴響く余花の街 鉄片を身の内に持つ余花の雨(傷痍軍人記念館)
夏めくや私のネガが見当たらぬ 夏兆す酒めし処東片北(北品川) パーフェクトブルーは無かった夏兆す クリスビーのUFOめきて夏兆す ダックスフンドの股下5センチ夏兆す 首筋の何の刻印夏兆す ピーマンをまず縦に割る夏始 茫といふ字が好きになり夏兆す 二丁目に三鬼が溢れ夏兆す ベニスに死すあれは三鬼か夏兆す ニッポンは旗持たぬ国夏兆す シスターが俳句たしなむ夏始 必勝とは何もせぬこと夏兆す(競馬必勝法を完成) 夏めくや駅前にある骨董屋 夏めくや駅前通小走りに 品川にミニチュアの富士夏兆す 沖縄にまた神隠し夏兆す ラーメンに似ても似つかず夏めける