雪掻きのもはや落下の自由とも 日記果つ生前退位といふ自由 鉄片を乱打す竹岡一郎か 空白の七十一年小火続く 粛々と戦後の自由暖房車 古日記暗澹の恋はばからず 寒雷や飛鳥は執行猶予中 何もかも翳りゆく日々雪をんな 戦争を知らぬ狐火太りだす 靖国に無言の領域霜柱
スノボーの父と子冬至の空の下 ソムリエの背の反り返る冬至の街 冬至祭ケルトの恋の物語 極月の老いたる者のベレー帽 人去りて人戻り来る大師走 ジュール・ヴェルヌの失われた世界師走空 放哉の句は二万とも冬に入る 真冬の恋またもや不発歯科医院 冬の日や指原梨乃とは誰なのか 短日の灯を点すまでもなき孤独 サイレント・プアは私と知らず日短か 小さき人の小さな希望暮早し 歩行喫煙まだまだ続く霜夜かな 老年の昼夜逆転雪しまく
枯蓮や水面に光明ありや無し 枯蓮の枯れおごそかに曲奏で 蓮枯れていちかばちかの逃避行 枯蓮やローマ帝国興亡史 枯蓮やポケモンGOの後日談 巨大クレーンぴたりと止まる鴨の陣 夜を待たず枯蓮の空むつみ合ふ 鴨群れて半径5メートル空の濃し 鴨の陣見下ろす一羽薄れけり 餌を投げてひときわ蒼し鴨の声
兜子忌の一九八一年再生す 兜子忌の虚空鞭打たれバースデー バースデー三島忌もはや宙にあり バースデー寒空ひとつただ一つ(12月12日は私の誕生日) 不死を生きて吉本隆明忌を修す 放哉忌バースデーなんて無かったよ 出口無しこのまま虚空にバースデー キリストの日を待望すバースデー 糸満・辺野古・高江の自由バースデー 透谷祭片隅に我れバースデー ディランまた生きて日本にバースデー あるがままの自由はありやバースデー マツコ・デラックス私が革命冬うらら
冬浅し井戸に身を投ぐこともせる マツコ・デラックスの存在理由冬あたたか 冬ぬくし山出しといふスグレモノ モンゴルは我らが故郷冬ぬくし 路傍の石俳句に見立て冬ぬくし 戦後の平和またもや不発冬ぬくし 天変地異明日も来るよ冬ぬくし 老人ホームは俳句の坩堝冬めける 芭蕉・蕪村・一茶って何のっぺ汁 俳諧無限なほ青さ持つ根深汁 闇汁や重信・兜子行方知れず 俳句とは第二文学闇汁会 粕汁や二十九歳で死んだやつ(阿部薫)