年移る私の影を消してゆく 年の瀬の身は繕はず抗はず 年送る餅は餅屋にゆだねられ カウントダウンツリーもタワーも揺れ続く 年越蕎麦越せぬ月日の茫とあり 物言わぬ鳥完璧に年越せり 小晦日猫たるものの飢ゑはじむ 数え日や人類滅亡教いまも 年詰まる超常現象頻発す 煤払い尽し誰もが黙しけり
クリスマスパイプ一本転がれり 二〇世紀少年全十三巻クリスマス アルミホイールにくるまれてゐるクリスマス 紀元後のバブルの続くクリスマス 青春の過剰といふことクリスマス わが町の富士見通りの冬霞 走り出て醤油臭きや寒夕焼 屋上より身を投じたる冬の虹 山眠るグラウンド一周また一周 枯野道ホースで水をぶち撒ける ズームレンズ絞りに絞る大枯野 涸れ滝をカラス無心でよぎりけり 涸川に杭を何本打つのやら
クリスマスケーキ無きまま帰宅せり 贈られて贈るあてなしクリスマス 孤独とは一行加え聖夜劇 孤独死と孤高の違ひクリスマス 松島に聖樹をもとめ芭蕉めく クリスマスツリー極大ってどのくらい クリスマス何を畏れて一人なる 特上寿司にケーキを添えて降誕祭 フルコースむかし食べしよ降誕祭 ベツレヘム死屍累々と聖夜待つ
煤払い一日持たず燻み出す 煤逃やスピード違反激増す 孤独死はまだまだ先と煤払い あをあをと己れを磨く煤湯かな 煤竹のしなる青さに見取れをり リサイクルごみばかりなり煤払い シェアハウス終の棲家の煤払い ワンルーム仏壇の煤払ひけり 煤逃げのゲーセンここも煤だらけ どうにもならぬことから先に煤払い
ふるさとは心の中に大根洗ふ 掛大根掛けし父母もうおらず 懸大根一本まるごと食べてみる 冬耕の空とはかくも遠きもの 干大根干されて日本の空うごく 頭のどこか溶けてしまいぬ冬の雨 虎落笛ジタバタしてもはじまらぬ 寒晴や日焼けサロンの黒き空 柚子湯出て天皇誕生前夜祭 冬服に人生の機微滲み出す 自己破産通知冬服の積まれをり(長兄がバブル倒産) 夢に母現れて丹前手を入れず