ただの備忘記録

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漫画の原稿と原価計算

2019年11月05日 | 日記

先月で、漫画のスタジオを退職し、日々簿記の試験に向けて勉強中です。

改めて原価計算の複雑さを実感しているのですが、以前から漫画の原稿はどうやって利益を計算すると良いのか考えていました。

基本的には、直接原価計算の考え方で、貢献利益を算出します。これは各原稿ごとの利益ともいえます。
最終的に費用の見積額から逆算して、利益を出すための印税額と発行部数を計算してみます。

利益を計算する場合、まず収益と費用を集計して、その差額を利益(損失)として算出します。

①収益になるもの(売上)

収益は原稿料だけなので、一見単純そうに見えます。
よく言われるように、原稿料の赤字を単行本の印税で賄うという状態の場合、印税収入も勘案する必要があるのですが、何話分が本になって、幾らで、何冊発行されるのか、予測するしかありません。

例:原稿料 10,000円×24ページ

  印税:単行本800円、1万部、8話掲載(192ページ) 印税率10%

  1話あたりの収益は、原稿料24ページ分と単行本1話あたりの印税で計算します。

  原稿料 240,000円+印税100,000円=340,000円

こうして計算例を見ると予測の部分である印税の占める割合が大きいことが分かります。また、発行部数に比例して金額が変わるので、いかに正確に予測をするかが重要なポイントになります。(金額に幅を持たせる必要があるかも)

②費用になるもの(売上原価、売上変動費)

費用というのは、材料費、労務費、経費を計上するのですが、原則的に直接的な費用だけを考えます。
というのも、スタジオの家賃や光熱費、諸々の税金など原稿の執筆に直接影響しない費用もあるからです。これらは間接費と言って、会社の様々な活動に大して割り当てるべき経費となります。貢献利益の計算では考えません。

漫画の原稿製作では、材料費はかなり少ないので計算から除外した方がいいでしょう。
アナログ作画の場合、鉛筆、インク、紙を消費しますが、鉛筆の芯やインクをどれだけ消費したか測るのは現実難しいのです。消費量が多くて確実に計算できるなら入れるべきですが、原稿1話分では大きな費用にはなりません。
デジタル作画の場合、パソコンやソフトウェアを使っていますが、これも原稿1話分という区切りはできません。将来に渡って長く使用するからです。例えば、確実に10年で買い換えるものなら、1年分はすぐに計算できます。さらに、1年の間に完成する原稿が何話分あるかによって、1話分に相当する原価が変わります。これも間接的費用なので、計算には入れません。

そうなると何が費用になるのか。その大部分は労務費です。いわゆる人件費となります。
原稿の完成までの時間と人数と時給が分かれば、それらを掛け合わせることで計算することができます。
ただし、これも難しいところがあります。
スタッフの多くは時給で仕事をしているので、時給×作業時間をスタッフの人数分計算できます。

  スタッフの1話分の労務費は、時給×作業時間×人数(時給や作業時間が異なる場合は、一人ずつ個別に計算する)

問題は漫画家自身の時給と作業時間です。
漫画の原稿を描く時間は把握しやすいのですが、アイデアを構想する時間があります。いわゆるネームが完成するまでの作業は、スタッフにはできない作業なので漫画家が一人で、場合によってはどこかに籠もって黙々と作業します。それらの作業時間を確認する必要があります。
次に漫画家自身の時給ですが、事業主である漫画家は時給で働いていません。そこで一月、または一年分の給与額から、同じ期間で完成する原稿の話数の時給を算定します。

  漫画家の1話分の労務費は、月給÷一月の完成原稿話数

例:漫画家の月給与が50万円で、月に原稿2話を完成させる場合、25万円を1話分の直接費用とします。

  スタッフは3人で、全員時給は1,000円、32時間作業したとすると、96,000円となります。

  原稿1話分の原価 漫画家 250,000円+スタッフ 96,000円=346,000円

③利益の計算(貢献利益)

収益と費用の差額を計算します。

例:①340,000円-②346,000円=▲6,000円(▲はマイナスの表記)

今回の例では、6,000円の赤字となります。

もし、印税収入がなかったらどうなるでしょうか。

例:①240,000円-②346,000円=▲106,000円

大幅な赤字となってしまいます。

では、スタッフを無くしてみるとどうなるでしょうか。

例:①240,000円-②250,000円=▲10,000円

原稿料は出版社によって異なりますし、掲載の媒体によって作画するページ数も変わってきます。
貢献利益は、それらを直接的に比較して、どの仕事が利益を出せるか比較するのに向いていると思います。
間接的費用は、どの仕事をする場合でも、月々かかる経費なのでそもそも比較計算に入れる必要がありません。

④貢献利益と損益分岐点

計算例では収支が黒字にはなりませんでしたが、例示でしかないので細工はしていません。実際にはもっと経費がかかることかと思います。
実際には、差額が黒字になるように考えて仕事を増やしたり人件費を減らしたりすることになります。

貢献利益が黒字になったとしても、安心はできません。そこから間接的費用が出ていくからです。
①のように収益に印税まで含めるということは、ほとんどの収益が入っているということです。
②の費用には直接的費用だけを計上しているので、その他の間接的費用を貢献利益で賄わないといけません。

貢献利益額と間接的費用が同じ金額になる場合、それを損益分岐点といいます。
貢献利益が間接的費用より大きくなると総利益は黒字となり、下回ると赤字となるので収支の分岐点となります。

例:月間の間接的費用が30万円の場合、月に原稿2話分が完成する予定なので、1話あたり15万円を間接的費用と考えます。
  そうすると貢献利益も15万円必要になります。

  ②の直接的費用は変わらない場合、必要な収入は346,000円+150,000円=496,000円です。

  ①において原稿収入が変わらないとすると、印税で256,000円必要となります。

  1冊あたりの印税は 800円×10%=80円、1話分だと10円です。

  発行部数を逆算すると25600部となります。単行本がそれ以上発刊されれば黒字になるという計算です。

例示では1話分で計算しましたが、これを月単位、年間単位でやるのが通常の経理で行う作業になります。
ただし、試算表では入金や出金のタイムラグがあるので、原稿1話分を軸に経費を算出する方が分かりやすいと思います。

 


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