ただの備忘記録

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最適セールス・ミックスのリニア・プログラミング解法

2020年05月03日 | メモ

工業簿記・原価計算で、最適セールス・ミックスの線形計画法(リニア・プログラミング)を考えるときに正確なグラフを描くのが良いとされています。
しかし、最低でも3つの直線を描くのに正確なグラフを描くのは結構大変です。
でも、心配はありません。グラフの傾きは数式から分かるので、直線の順番と交点の位置が分かるだけで充分なのです。

2つの条件式の間に最適セールス・ミックスがあることを前提にして、グラフを描かなくても解けるようになる手順を解説します。
また、最適セールス・ミックスの条件が変化した場合の攻略法も合わせて紹介します。


★最適セールス・ミックスを求める

例題を使って最適セースル・ミックスとグラフを作ってみましょう。

【問題文①】

製品Xは貢献利益1200円で販売個数はxです。
製品Yは貢献利益1500円で販売個数をyとします。

製造工程の制約条件として以下の2つがあります。

条件①:材料の制限
 製品Xを1つ作るのに1.5kg、製品Yを1つ作るのに1.2kgの材料を使います。調達できる材料は7200kgが上限です。
 この条件において材料1kgあたりの貢献利益が高い製品は製品Yです。

条件②:作業時間の制限
 製品Xを1つ作るのに2時間、製品Yを1つ作るのに4時間かかります。共通の作業時間は12000時間が上限です。
 この条件において作業時間1時間あたりの貢献利益が高い製品は製品Xです。

【条件式】

問題文から、以下の2つの条件式①②と最適セールス・ミックスの最適解MaxZを求める式を示します。

①1.5x+1.2y≦7200
②2x+4y≦12000
ⓏMaxZ=Max(1200x+1500y)

xの範囲は4100≧x≧0、yの範囲は4000≧y≧0ですが、これらは後ほど考えます。(範囲式)

Ⓩを最適解、①②のように未知数が2つ以上あるものを条件式、x軸またはy軸に平行な直線を範囲式と呼び名を定義しておきます。

【グラフと解き方】

まずは基本のグラフを描きます。

このグラフは2つの条件式がどちらの直線なのか確認するためのものです。

2つの条件式をyで解くための形にして、条件式の傾斜を調べます。

①y≦-1.5/1.2x+6000 (1.5/1.2=1.25)
②y≦-2/4x+3000 (2/4=0.5)

傾きは一旦分数で記述しておきます。(注記:分数の表記ですが、2/4xは2/4が分数を表し、xは分母ではなく分数に掛かっています)
傾きを考える場合、()内の様にマイナスを省略すると、数字の大きさ=傾きの大きさと捉えやすくなります。

直線の傾きは0に近いほどx軸と並行に近付きます。マイナスなので直線は右下に向かいます。
そして、2つのグラフは必ず交差します。

傾きが大きいのは条件式①の方なので、x軸上で左にある直線だと判断できます。
また、y軸上の交点でも判断ができます。x=0のときを考えます。
条件式①ではx=0のときy=6000です。条件式②はx=0のときy=3000なので、条件式①はy軸上では上にあることが分かります。

このように傾きやx軸・y軸上の点からグラフ上の2つの直線の条件式を付き合わせます。
実際には傾きを調べた後で、グラフに①②と表記します。

次に最適セールス・ミックスであるMaxZの直線がどこに入るか考えます。
簿記検定の問題では①と②の間に来ますので、それを確認します。
もし、その間にない場合は、残っているxとyの範囲を示す直線(範囲式)の上に交点があります。

最適解MaxZの式もyで解いて傾きを出します。
Ⓩy=-1200/1500x+MaxZ (1200/1500=0.8)

3つの式から傾きを順に並べると①1.25>Ⓩ0.8>②0.5となります。
最適セールス・ミックスが①と②の交点にあることが確認できました。

後は①と②の連立方程式を解いて交点の販売個数xとyを求めます。
MaxZも同じ交点を通りますので、上記で求めたxとyを代入して最大の貢献利益を算出します。

①y≦-1.5/1.2x+6000
②y≦-2/4x+3000

x=4000, y=1000

MaxZ=1200円×4000個+1500円×1000個=630万円

簡単にまとめますと、条件式から3つの直線の傾きを比較し、MaxZの傾きが2つの間にあれば、連立方程式を解いて、最適セールス・ミックスの販売数、貢献利益を算出します。
手順を覚えたらグラフを描かなくても解くことができます。


★最適セールス・ミックスが変化する場合の解き方

下のグラフでは前項にあった範囲式の2つの直線を描き加えています。
ⓧx≦4100
ⓨy≦4000
この範囲式による緑の直線の位置が、最初の2つの条件式①②よりも上または右から始まる場合、その条件は無視してかまいません。線で囲まれた一番内側(原点に近い側)が最適セールス・ミックスの範囲ですので、その外にⓧやⓨがある場合は点aは直線②のy軸上、点cは直線①のx軸上になります。

上記グラフの点bが前項で解答した最適セールス・ミックスの交点です。

【問題文②】

問題分①にさらに条件が付け加えられます。
製品Yの値下げが必要になりました。いくらまで貢献利益が下がると最適セールス・ミックスが変化するでしょうか。

【条件式】

製品Yを値下げするということは、製品Yの販売個数を減らして製品Xを多く売るべきという判断になります。
その結果、最適セールス・ミックスが点bから点aまたは点cに移動します。

値下げの金額を求めないといけないので、値下げ後の金額をBとしてⓏの条件式を作り直します。

ⓏMaxZ=Max(1200x+By) (1200/B)

Bが小さくなるということは分母が小さくなるため、Ⓩの傾きは大きくなって、直線①に傾きが近付きます。
また、yの販売個数が減るということからも点bより下にある点cに最適セールス・ミックスが移動することが分かります。

【解法①:点bと点cの最適セールス・ミックスを求める】

点bから点cに最適セールス・ミックスが変化することが分かったので、点bと点cの販売個数を計算します。
点bでは①と②の連立方程式、点cでは①とⓧの連立方程式を解きます。

点b
①y≦-1.5/1.2x+6000
②y≦-2/4x+3000
x=4000, y=1000
答えは前項で出ています。

点c
①y≦-1.5/1.2x+6000
ⓧx≦4100
x=4100, y=875

次にⓏの式を使って点bと点cの貢献利益を求めます。

点bの貢献利益=1000B+480万円
点cの貢献利益=875B+492万円

点bの貢献利益<点cの貢献利益となるので

1000B+480万円<875B+492万円

B<960

となり、製品Yの貢献利益が960円未満になると最適セールス・ミックスが点cに変化することになります。
※製品Yの価格が960円のときは点bと点cではⓏの貢献利益が同じなので、解答時には注意してください。

【解法②:傾きから算出】

製品Yの貢献利益が下がると、Ⓩの傾きは徐々に大きくなって直線①に近付きます。最適解が同額になったところで一瞬2つの直線が重なるはずです。

ⓏMaxZ=Max(1200x+By) (1200/B)
①y≦-1.5/1.2x+6000 (1.5/1.2)

この一瞬同じになる傾きを求めると良いので、Ⓩと①の傾きだけを取り出して式を作ります。

1200/B>1.5/1.2

それぞれの傾きを分数のまま持ってきても構いません。
Ⓩの傾きが①の傾きより大きくなるときのBを求めます。

分母を掛け合わせます。不等式の左右を入れ替えているので、符号は逆になります。

1.5B<1200×1.2

B<960

となります。


手順をまとめてみます。

★最適セールス・ミックスを求める

条件式①と②、最適セールス・ミックスⓏの3つの式を用意します。
3つの式の傾きを計算します。
条件式①と②の間にⓏの傾きがあることを確認して、連立方程式を解きます。
条件式①と②の交点であるxとyが最適セールス・ミックスの個数です。

★最適セールス・ミックスが変化する場合の解き方①

Ⓩの傾きの変化から、最適セールス・ミックスが移動する交点を考える。
移動前と移動後の2つの交点のxとyを算出する。
2つの交点における貢献利益(MaxZ)を算出する。
2つの式から貢献利益が変化する金額を算出する。

★最適セールス・ミックスが変化する場合の解き方②

Ⓩの傾きが変化すると、他の条件式と同じ傾きになる。
2つの条件式の傾きが同じときの条件を算出する。

手順を理解するとグラフは必要ありませんが、確認のためにグラフ描いておくと安心できます。
そのため正確なグラフは必要ありません。
これでかなりのスピードアップが図れるかと思います。



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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
雲伯油屋ストライベック (元鉄鋼商社関係)
2024-12-18 03:47:14
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、トレードオフ関係の全体最適化に関わる様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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神の数式 (ストライベック)
2024-12-23 12:14:24
「材料物理数学再武装」か。関数接合論ですね。
1/h^n=1/f^n+1/g^n、
第一式おもしろい着想ですね。マクロ経済学のホットな話題として財政均衡主義と現代貨幣理論(MMT)の競合モデルの方程式やインフレ率の関数なんてものはできないのでしょうかね。
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「材料物理数学再武装」 (ストライベック)
2024-12-29 04:39:20
「材料物理数学再武装」といえばプロテリアル(旧日立金属)製高性能特殊鋼SLD-MAGICの発明者の方で久保田邦親博士(工学)という方のの大学の講義資料の名称ですね。Facebook番外編の経済学の国富論における、価格決定メカニズム(市場原理)の話面白かった。学校卒業して以来ようやく微積分のありがたさに気づくことができたのはこのあたりの情報収集によるものだ。ようはトレードオフ関係にある比例と反比例の曲線を関数接合論で繋げて、微分してゼロなところが最高峰なので全体最適だとする話だった。同氏はマテリアルズ・インフォマティクスにも造詣が深く、AIテクノロジーに対する数学的な基礎を学ぶ上で貴重な情報だと思います。それと摩擦プラズマにより発生するエキソエレクトロンが促進するトライボ化学反応において社会実装上極めて有効と思われるCCSCモデルというものも根源的エンジンフリクション理論として自動車業界等で脚光を浴びつつありますね。
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アダマンタン (トライボケミイカル)
2025-01-17 18:19:50
日経クロステックの記事に去年ののノーベル賞は「「AIの父」ヒントン氏にノーベル賞、深層学習(ディープラーニング)の基礎を築いた業績をまとめ読み」と題して紹介されていましたが、物理学賞、化学賞ともにAIがらみあったんですね。しかしながらブラックボックス問題の解明には至っていないようです。AI半導体大手のNVIDIAのCEOも「AIと日本の優れた製造業、ロボット技術を合わせれば、日本は新しい産業革命を起こせる」と述べ、日本が持つ可能性に対して強い期待感を表明している。このようなAI技術は地球環境問題だけでなく人口減少に伴う労働力不足の解決策ともなろう。今後ロボットは高度な多軸、多関節化がおこることが予想されるため日本人の経営者も指導力を発揮すべきでは。
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サムライソウル (すごい未来)
2025-02-22 21:17:15
そうですね。ビジョン共感型のリーダーシップって背中を見せるというだけでなく経営とトップの発信力が重要ですね。
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