思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『0番目の患者 逆説の医学史』 病人がいなきゃ医学はない

2024-11-15 15:38:08 | 日記
『0番目の患者 逆説の医学史』
リュック・ペリノ
広野和美:訳 金丸啓子:訳

感染症学では、集団内で初めて特定の感染症に罹ったと
見なされる患者のことを
「インデックス・ケース」または
「ゼロ号患者(ペイシエント・ゼロ)」
と呼ぶそうです。

作者は、疫学で学位をとった医者であり作家。
「ゼロ号患者」という存在をすべての医学分野において
意図的に拡大解釈して、様々な症例を取り上げた一冊。

学術に於いては医者が全面に立っているけれど、
「病気を感じる人がいるから医学があるわけで」
というジョルジュ・カンギレム(フランスの哲学者・医者)
の言葉を引っ張ってきつつ、
医学史を見る逆説的な視点を提示してくれる一冊。

あら、これ面白いわ。

狂犬病ワクチン(パスツール)やジェンナーの種痘などは
有名どころだし、知識として知ってますけど、
というネタもあるのですが。
いや、そもそも、その接種者の話しは初耳だわ。
ましてや彼らの事情やその後なんか想像したこともなかったわ。
ごめん!
と言いながら興味深く読んでしまった。

目鱗で言ったら「腸チフスのメアリー」も
めちゃくちゃ有名じゃないですか。
でもやっぱりそのディテールは知らなかったな。
住み込み家政婦の「料理人」として渡り歩いたからこそ
感染拡大を助長していたとかね。
死後も内臓で発見された腸チフス菌が数日生き続けたそうで
よっぼど強靭な菌培養をしていたのだろうな、と。

他にも全身麻酔を発見したのは、
笑気ガスを使った見世物興行に行った抜歯師だったとか
おもしろいですね。

ジェンダー問題やアルツハイマー、海馬の研究など
笑えない話しも多々あるけれど、
それはそれでとても勉強になる。

それぞれのテーマがコンパクトにまとめられているので
ちょこちょこっと読みやすい構成。
良い本!
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『海の帝国: アジアをどう考えるか』

2024-11-14 20:39:20 | 日記
『海の帝国: アジアをどう考えるか』白石隆

植民地時代から現代にかけての
東南アジア事情を書いた一冊。

ラッフルズという人物から始まるのがいいですね。
父親がイギリス系の商人(?)で、
ジャマイカ沖の船上で産まれたと言われる人物。
なので、イギリスの東インド会社社員として
植民地執政官を務めていた人物ですが、
イギリスで暮らしたことはあるのかな?というくらい
東南アジアの人でもある。
シンガポールを「建設」したと言われており、
有名なラッフルズホテルの縁の人。

のっけから面白い人を出すなあ、と。

当時の植民地運営に関しては、
たくましい中国系商人の協力が必要だったそうで。
いわゆる華僑ですね。
他にも苦力(クーリー)として出稼ぎに来たまま定着し、
多言語を操るため重宝される人々も多かった模様。

東南アジアの島々は、
イギリス、オランダ、フランスなどが
奪い合ったり利権をせめぎ合ったりして
植民地化が進む一方、
東アジア、中国と日本のことですが、
どちらも閉じる政策によって
植民地化を奇しくも避けていたとのこと。

とはいえアヘン戦争や黒船襲来で扉がこじ開けられたあとの
挙動や行く末は周知の通りだけれど、かなり異なる方向。

東南アジアから世界を見る視点は新鮮で、
なるほどなあ、と思う一冊。
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『名画の中で働く人々』

2024-11-13 12:57:39 | 日記
『名画の中で働く人々』中野京子

副題は、「仕事」で学ぶ西洋史。
西洋絵画の中の働きっぷりを見ながら
中野さんが当時の社会や歴史背景を説明してくれる
とっても読みやすい一冊です。

闘牛士、侍女、香具師、宮廷音楽家、羊飼い…
いろんな職業・お仕事があるなあ〜、と。

ちなみに羊は犬に次ぐ人類最古の家畜。
古代メソポタミアでも飼われているし、ギリシャ神話でもおなじみ。
意外だったのは、日本だと歴史的に馴染みがなく、
飼育に成功するのは明治期以降だということ。
よく十二支に入れたな。

印象的なのは、女性科学者。いわゆるリケジョ。
具体例がローマ帝国時代のアレクサンドリアに生きた
女性数学者・天文学者のヒュパティア。
ちょうどキリスト教が国教になって調子に乗った時代で
ローマ古来の多神教を禁じた時代。
改修しなかったヒュパティアは415年にキリスト教過激派に
殺されてしまいます。
ほんとキリスト教過激派エピソードは気分悪いのが多いな。
永遠に普遍史年表の計算して
「あれ?終末ってもう過ぎてる〜」とか
「中国史がノアより古くて矛盾!つらい!」とか言ってれば良いのに。

あと興味深かったのは「傭兵」のエピソード。
世界最古の職業が、男なら傭兵、女なら娼婦、と言われる。
ヨーロッパでは農業も産業も未発達で貧しいスイスからの
出稼ぎ傭兵が多かったそうで。
15世紀以降では「金のないところスイス兵なし」と。
で、様々な国から様々な貨幣を持ち帰ることで
スイスでは両替業・銀行業が発達したとのこと。
おお、そうなんだ!勉強になる!
そして今では永世中立国である。

歴史っておもしろいな。
中野先生の語りがおもしろいのかもしれないが。
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『世界史とヨーロッパ』 普遍史が成立しなすぎておもしろい

2024-11-12 19:35:08 | 日記
『世界史とヨーロッパ』
ヘロドトスからウォーラーステインまで
岡崎勝世

ヨーロッパ人の視点での、「世界史」の変遷。

古代のギリシャ中心主義(ローマ然り「俺か、俺以外か」)から、
キリスト教にとっての普遍史(6000年で終末が来ちゃう)から、
大航海時代を経て「世界って広い!」と気づき
近代の国民国家時代まで。

最初は本書の主旨がうまく掴めなくて戸惑ったのですが、
なんとなくわかってくると、結構、おもしろかった。

ヘロドトスに代表される古代ギリシャでは
世界がオーケアノスという海に囲まれていて、
アジア・ヨーロッパ・リビアの3エリアしか存在しない。

狭いな!

アジアも精々ペルシア帝国あたりまでだし、
当然ギリシャ(もしくはローマ)至上主義なので
劣った人種だと認識している。
ペルシアの彼方にあるインドにはスキアポデス(一足人)や
キュノケパロイ(犬頭人)が住んでいるそうです。
おい。

そんなローマ帝国時代も後期になるとキリスト教ですよ。

古代キリスト教は、世界の始まりから6000年で
「終末」がくるという考えだったそうで。
教義や解釈によって年数カウントはブレますが、
イエス生誕のあたりで5000年強。
3世紀〜10世紀あたりの神学者的には
「もうすぐ終末じゃん!」
(カウント次第ではとっくに終末が来ている)
という状態だそうです。
そりゃ大変だな。

そして17世紀ごろ、「中国」の存在を知ってしまう。
キリスト教的にはノアの大洪水で生き残った8人から
文明が始まるはずなのに、
中国はノアの大洪水を遡ること600年の歴史を持つらしい。
中国4000年の歴史を食らえ!である笑

神学者って大変だな笑

笑い事じゃないと思うけど、結構、おもしろく読んでしまった。

そして17世紀にはケプラー、ガリレオ、ニュートンが登場。
科学の時代が始まる。
18世紀になると啓蒙主義があらわれ、
19世紀にはロマン主義。
いずれにせよ、ヨーロッパは植民地時代に入り
「文明化の使命」を勝手に抱く時代へ。
余計なお世話である。

本質的にはアジア・リビアを軽んじている古代ギリシャから
変わってないな、ってのも味わい深い。

19世紀は同時に古典考古学の時代でもある。
トロイの発掘に始まり、神話上の物語だと思われていた
ミケーネ文明、エーゲ文明が遺跡発掘により「発見」された時代。
これは浪漫がありますね。

最後の近代はちょっとお説教くさい香りもしましたが、
総じて新鮮な視点と情報で楽しい一冊でした。
満足!
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『高野聖・眉かくしの霊』泉鏡花

2024-11-08 15:36:55 | 日記
泉鏡花の怪しく美しい中編2篇。
『高野聖』はいわずもがなな鏡花の代表作。
学生時代に読んだのだったかな?
ものすごく久しぶりの再会でしたが
相変わらず音読したくなる素敵な文章。

あと、読めねえ〜、とか、強引〜、とか思う
熟語や当て字たち。
いいね!!

富山の薬売りは相変わらず嫌味であった。
でも売られてお夕飯の鯉になっちゃうのは怖いよね。
相変わらず怖い。
(数十年ぶりに読んだ小説の感想が「変わらず」というのも
 私が成長してないっぽくて悩ましいが)

『眉かくしの霊』は初めて読みました。
入れ子構造がちょっと複雑で、
筋が読みにくかったなあ。
湖畔の美人のアヤカシは、どう関係するんだっけ?
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