思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

鯨統一郎『邪馬台国はどこですか?』歴史ミステリ

2019-10-07 11:35:30 | 日記
<歴史ミステリ>というジャンルについて、
宮部みゆきが創元推理文庫の選評を通じて

取材が難しい、専門的知識の蓄積も必要、
さらに読書に向けて易しく書き下ろす技術も不可欠で
あまりにもハードルが高い


という内容のことを語ったそうです。

歴史ミステリと聞いてまず思い浮かべるであろう
<蓮丈那智フィールドワーク>でおなじみの
北森鴻もネタ集め、資料集め、下調べやプロットに
苦労したと言う話しをどこかで読みました。
(どこだっけ…)

要するに、作家にとっても出版社にとっても
コスパの悪いジャンルなんだな…と思った次第。

そんな歴史ミステリに果敢に挑んだ新人・鯨統一郎の
デビュー作が『邪馬台国はどこですか?』です。
表題作が創元推理短編賞の最終選考に残り、
他5篇を加えて文庫化したとのこと。

フォーマットは、
カウンターだけのバー「スリー・バレー」が舞台で、
3人の客が歴史談義を繰り広げるという設定です。

(舞台で密室劇とか一場物(いちばもの)というヤツですね。
『十二人の怒れる男』が有名ですが、
舞台がほとんど変わらない会話中心の劇のことです)

会話の流れは、歴史の異説をドストレートに語っていく感じ。
主人公の宮田氏の説に添って、
論敵役である才媛・静香助教授がツッコミを入れる…
はずなんだけど…、
ちょっと、静香ちゃんの基礎知識がヤバい。
ディスカッションの運び方も幼く拙い。
宮田くんの論証も、だいぶ怪しい。
(証明はほとんどしない。解釈というスタンス)
結論をお迎えに行ってるようなセリフが多いので、
予定調和というか、まあ、ふーん、という感じですかね。
聴衆(読者)としては、完全論破!QED!とは思えないけど
バーテンくんが感心しているので、まあいいんじゃかなろうか。

でもまあ、こういう解釈もあるんだなあ、と読む分には
なんの捻りもない話し運びは、
読み手の意識を脇道に逸れさせなくて良いと思います。

とはいえロジカルゲーム系でいくなら
『麦酒の家の冒険』とか『黒後家蜘蛛の会』みたいな
テンポ良く小粋な会話を期待したい。

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【読書メモ】2011年6月  ①

2019-10-03 16:46:36 | 【読書メモ】2011年
<読書メモ 2011年6月 ①>
カッコ内は、2019年現在の補足コメントです。

『すゞしろ日記』山口晃
「大根」を「すゞしろ」と言うとカッコいいように、
何もない日常をちょっとかっこよく描いてみようかと、
という前段がステキ。

(日本画の手法をつかう現代画家・山口晃のエッセイ漫画です。
 ものすごい画力を持った作家さんの、ゆる~いイラストと語り。
 逆にすごいな!と圧倒されます)


『Xの悲劇』エラリー・クイーン
うーん、『Yの悲劇』の方が良かった…。
「Y」は、被害者の一族がおもしろかったからだろうか。
「X」は誰が何人死のうがはらはらしないというか、
犯人誰でもいいやって感じがするというか…。

(ドルリー・レーンが主役の<悲劇4部作>の第一作です。
 『Yの悲劇』の評判が良いからねえ…。しょうがない)


『ミレニアム2 火と戯れる女』スティーグ・ラーソン
スウェーデンは未だにこんな男尊女卑思想のおっさんが
多い国なのかしらと思ってしまう。大丈夫か…?

(スウェーデンにドン引きしすぎて本筋が記憶に残ってないな。
 第二作は、第一作に比べるとミステリ要素が減って、
 代わりに壮大な陰謀やらアクションやら気合い(穴に埋められても
 這い出すよ!)やらが増えました。
 一気に映画的になったというか…。
 リスベットが、無敵キャラゲシュタルト崩壊(『グラーグ57』のレオだな)
 起こしてないか…という感想)


『スイス時計の謎』有栖川有栖
短編集。電車で読むのにちょうどいいお手頃さ。

(<作家アリスシリーズ>の中の、
 <国名シリーズ>の7作目です。
 表題作は「この5人の容疑者の証言を聞いて、
 犯人を当てるぞ!」という直球ロジカル推理モノ。
 お約束の「動機がそれか…っ!?」感もありますが、
 まあ、そこはそれ。ってことで楽しめれば楽しいです)


『妄想炸裂』三浦しをん
作者20歳から22歳にかけてのエッセイ集。
まだ文章が雑なとこもあるけど、いや、自分の20代に比べたら
全然語彙数とか違うけど、若かったなという印象。
『風が強く吹いている』の構想がBLものとしてメモされてた。
意外とそのまんま書いたんだな、という印象…。

(2001年初版。作者にとっては第2エッセイ。
 『格闘する者に○』(2000)のデビューと同時に
 第1エッセイ『極め道』が出版されています。
 早いな!)
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井伏鱒二『荻窪風土記』なつかしさがすごい

2019-10-01 16:43:33 | 日記
むかしむかし、私がまだうら若き18歳のころ。
大学に通うために草深い埼玉から上京し、
貧乏下宿生活を営んだのが、荻窪でした。

住所だと上荻ですね。

タウンセブンのファミレスでバイトしたものの続かなかったり、
四面道交差点のラーメン花月でにんにくましまししたり、
善福寺川のほとりをほとほと歩いて(電車賃がもったいなかった)
西荻窪に住む東京女子大の友人宅まで行ったり、
逆方向に歩いてオーケーで見切り品の野菜を買ったり。

森見氏よりはちょっとだけ広い5畳半の下宿で
課題したり、二日酔いになったり、友人と鍋したり、ケンカしたり、
悶々としたり将来に不安になったり人生に逆切れしたり。
青臭くて痛々しくて酸っぱすぎる思い出ばかりがですね、
4年分、みっちりと詰まっている土地なのです。

胸が痛い痛いいたいいたたたたた!!!

というわけで、荻窪と言われると
しょーもない自意識にグリグリされる私だったわけですが、
さすがにこの年齢になるとね。
もういいかな、って思うよね。

課題の〆切直前にヘロヘロ状態でスリーエフ行こうとして
草履で犬のうんち踏んだのも、いい思い出になるよね。
ならないか。
今でも、踏んだ瞬間に香りがぶわぁっと立ち上ってきたの、覚えてるわ。
めちゃくちゃ凹んで、私は建築向いてないなってシミジミ思いました。
今、まったく関係ない仕事してるのは
深夜の荻窪で犬のうんち踏んだからだと思う。

いや、なんだっけ。なんの話しだっけ。

井伏鱒二の『荻窪風土記』ですよ。
自宅の本棚に以前から持っていたんですが、
こういうメンドクサイ心情がありまして、
読んでなかったんですよ。
で。
そうは言ってももういい歳だし、大丈夫だろ。
と思って読んだわけですよ。

まあ、悶絶はしなかったけど、
そこそこ、懐かしさが暴力的でしたよね。
って、いやもう、我がことながらどうでもいいけどね!
めんどくせえな!!

で『荻窪風土記』ですよ。

「教会通り」「天沼」「四面道」とか今でもなじみ深い地名たちは、
井伏鱒二の時代から変わらないんですね。
へえ~。

当時から作家や画家、詩人が多く住んでいたというのも、
なんか変わらないんだなあ、と思っておもしろかった。
私が住んでいた当時も、吉祥寺の路上で朗読する詩人とかいまして。
田舎から出てきた身では路上ライブくらいは知っていたけど
詩の朗読とか斬新すぎて、東京のサブカルすごいなあって思いました。

天沼キリスト教会についての文章で、
洗礼を受ける者は、善福寺川の薪屋の堰というドンドンで水を浴びるので、
ここの土地っ子は善福寺川をヨルダン川と言っていたという。

と書かれていますが、これはどこらへんなのかな。
心当たりはないけど、探すと今でもわかるんですかね。

井伏鱒二の周辺の、同時代作家たちのお話しもおもしろかった。
上京したての太宰治が「会ってくれなきゃ死んじゃう」って
手紙をよこして強引に面会し、近所に住みつき、
弟子にまでなるってのはなかなかです。
というか安定の太宰ですね。
他にも、外村繁や中村地平、小山清などは、私はあまり知らなくて、
人間臭くも温かい井伏節で語られると
彼らの作品にも興味が湧いてきます。
小山清はだいぶエッジの立ったダメ男だけど。

林芙美子への辛口コメントも良かった。
「サヨナラダケガ人生ダ」は、芙美子インスパイアなんですね。
井伏氏は林芙美子に対してバッサリな感じでしたが、
彼女は滞欧中に井伏に絵葉書を送ったりしているらしい。
それなりにお付き合いはあったんですかね。社交辞令かな。

『文人御馳走帖』でも思いましたが、
1900年初頭生まれの文士はおもしろい人が多いですよね。
なんでかなあ。
もうちょっと近代の勉強しないとな。
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