横須賀市保健所によると、この学生は7月19日の夕方に熱っぽさを自覚し、20日の朝に発熱。昼頃に紫斑(皮下出血)などが出現し、市内の医療機関を受診、髄膜炎菌感染症と診断され治療が開始されたが、25日に死亡した。
学校関係者のうち、濃厚接触者(この学生と行動をともにしたり、接触したりした人)は学生と学校職員を含む42人で、そのうち10人が髄膜炎菌を保菌していることがわかった。現在、感染拡大の可能性は低いという。
国立感染症研究所の説明によれば、髄膜炎菌感染は学校や寮などの集団生活がリスクになる。BuzzFeed Newsは国立国際医療研究センターの感染症医・忽那賢志(くつな さとし)氏を取材した。
忽那医師によれば、髄膜炎菌は健康な人でも鼻やのどの粘膜に存在する菌。咳やくしゃみによって人から人へうつり、鼻・のど・気管など上気道の粘膜などに感染する。そのため、学校や寮、大規模イベントなど、多くの人が集まり、共同生活をするような場所で、感染が発生しやすい。
「だから、このような機会の多い10代で、感染リスクが高いとされます。免疫力が低下している場合、また、生まれつき免疫系で重要な働きをする脾臓がなかったり、摘出したりしている場合などでは重症化しやすいとされています」
「髄膜炎菌」とはいっても、すべての場合に髄膜炎の症状が出るわけではない。約3割は上気道から血液に菌が入ることによる高熱や皮膚、粘膜における出血斑、関節炎などの菌血症の症状にとどまる。
そして、残り約7割で髄液まで菌が入ることにより、頭痛や吐き気、精神症状、発疹、項部硬直(*)などの髄膜炎の症状が出る。髄膜炎まで発展した場合、適切な治療がなされないと、その死亡率はほぼ100%に及ぶという。
*髄膜炎などの病気の特徴で、医療者により診察される。
また、一部では劇症化することも知られ、突然の発症や、急激な症状の悪化、電撃性紫斑病といった命に関わる合併症を起こして死に至る。2011年5月に宮崎県小林市の高校寮内で発生した集団感染では、15歳の男性が劇症化した髄膜炎菌の感染症により死亡している。
忽那医師はこの感染症の特徴を「診断がつきにくいこと」と指摘する。初期症状は風邪に似ている上、国内での発症例は決して多くない。
髄膜炎菌感染の初期症状は風邪と似ており、日本での保菌率は0.4%と諸外国の5〜20%程度と比較して著しく低い。年間でも国内の発症例は約10例ほどだ。そのため、忽那医師は「初期から髄膜炎菌を疑うのは、よほど経験のある医師でなければ難しいのではないか」と懸念する。
「髄膜炎菌は感染力が高いというわけではありません。しかし、一度感染してしまうと他の細菌と比べて重症化しやすいという特徴があります」
病気が進行してしまった場合は、壊死した末端を切除せざるを得ないことや、難聴や言語障害などの後遺症が残ることもある。一方で、忽那医師は「できるだけ早く診断と治療を開始する必要がある」が「早期に適切な治療ができれば治癒が可能な病気」とする。
「過剰にこの病気を怖がる必要はない」と忽那医師。ワクチンによる予防や濃厚接触者には抗菌薬の予防投与などの方法もある。
髄膜炎菌による感染症には、有効なワクチンもある。忽那医師も「アメリカなど保菌率の高い地域に長期滞在し、学生寮などで集団生活をするときは、ワクチンの投与が推奨されます」と話す。
ただし、ワクチンについては「受けるに越したことはない」と前置きをした上で、「保菌率が0.4%の国でワクチン接種を絶対にするべきかは、医師の間でも判断が分かれるだろう」とした。
また、今回の横須賀市の例のように、感染者と濃厚接触をしたことがわかっていれば、抗菌薬を予防投与することもできる。横須賀市保健所が「現在、感染拡大の可能性は低い」としたのも、このような対応がすでになされたためだ。
「決して頻度の高い病気ではなく、過剰に怖がる必要はありません。まずは、学校や寮などの集団生活がリスクになる病気であることを知っていただくことが重要です」
「一人目の発症者を出さないためにも、免疫力が低下しないように、健康的な生活習慣を心がけること。そして、免疫力が低下するような要因があり、集団生活や海外渡航などのリスクがある場合は、医師に相談をしてください」