https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181102-00009125-bunshun-life
がんリスクの代表「糖尿病」
特定の病気が、がんのリスクとなることもある。その代表が「糖尿病」だ。
糖尿病はとても身近な病気だ。平成26年度の厚労省の調査によると、全国の糖尿病患者は推計316万6000人で、有病率(糖尿病が強く疑われる人)は、成人男性が15.5%、成人女性が9.8%にも上る。70歳以上では男性の4人に一人(22.3%)、女性の6人に一人(17.0%)が糖尿病だという(平成26年度「患者調査」および「国民健康・栄養調査」より)。
糖尿病と言えば、眼(糖尿病網膜症)、腎臓(糖尿病腎症)、神経(糖尿病神経障害)の三大合併症がよく知られている。また、心筋梗塞、脳卒中、認知症のリスクも高くなる。まさに「万病のもと」と言える病気なのだが、実は近年、がんにもなりやすいことがわかってきた。
2013年に、日本糖尿病学会と日本癌学会でつくる「糖尿病と癌に関する合同委員会」が、国内の複数の研究データを分析して、報告書を公表した。それによると糖尿病は「全がん」「大腸がん」「肝がん」「膵がん」のリスク増加と関連していた。
具体的には、国内8つのコホート研究を統合して、男性約15万5000人、女性約18万人を10年間追跡したデータを解析した結果、糖尿病は「全がん」のリスクを1.2倍押し上げていた。がん種別には、「大腸がん(結腸がん)」が1.4倍、「肝がん」が1.97倍、「膵がん」が1.85倍という結果だった。また、統計学的に有意ではなかったが、「子宮内膜がん」(1.84倍)、「膀胱がん」(1.28倍)のリスク上昇とも関連する可能性が示された。
なぜ糖尿病になると、がんにかかりやすくなる?
なぜ糖尿病になると、がんにかかりやすくなるのだろうか。まず、血糖値をコントロールするホルモンのインスリンには、細胞を増殖させる作用がある。糖尿病患者は血中のインスリン濃度が高くなるため、それが細胞のがん化や増殖に関係するのではないかと考えられている。また、高血糖状態にともなう脂肪細胞の慢性炎症が、がんの促進に関係しているという説もある。
多目的コホート研究から最近報告された研究成果によると、糖尿病の指標となる血液検査値である「ヘモグロビンA1c」が高い人は、糖尿病でなくてもがんのリスクが高くなっていた。つまり、糖尿病と診断されていなくても、血糖値が高い状態が続くと、がんのリスクが上がる可能性があるのだ。それだけに、がんを予防するためにも糖尿病にならないようにし、糖尿病と診断された場合にも、血糖値を上げ過ぎないように心がけるべきだろう。
がんリスクを高める「脂肪肝」「慢性膵炎」
では、どうすれば糖尿病を予防できるだろうか。合同委員会の報告書で、糖尿病の危険因子として挙げられているのが、「加齢、男性、肥満、低身体活動量、不適切な食事(赤肉・加工肉の摂取過剰、野菜・果物・食物繊維の摂取不足など)、過剰飲酒や喫煙」だ。おわかりのとおり、これはがんの予防法と共通している。つまり、がん予防で推奨されている生活習慣を心がければ、糖尿病も予防できるのだ。
また、多目的コホート研究によると、女性では炭水化物の摂取量が少なく、たんぱく質および脂質の摂取量が多い人ほど、糖尿病発症のリスクが低いという結果が出ている。日本人は食後の血糖値が上がりやすい白米を食べる量が多く、それが糖尿病発症と関連すると指摘されている。極端な糖質制限食は心筋梗塞などのリスクを高めるという研究もあるのでおすすめしないが、白米を食べ過ぎている人は、糖尿病とがんの予防のためにも、控えめにするよう心がけたほうがいいだろう。
他にもがんのリスクを高める病気が
他にもがんのリスクを高める病気がある。たとえば「脂肪肝」だ。肝臓の病気と言えば肝炎以外に、アルコールの飲みすぎを真っ先に思い浮かべる人が多いのではないだろうか。たしかに、アルコールの多飲は脂肪肝の原因となり、肝硬変、肝がんを引き起こす。しかし近年、アルコールを原因としない「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」が増加しており、これも肝硬変、肝がんの原因になると指摘されている。健康診断などで「脂肪肝」と診断された人は、アルコールを飲んでいない人でも、食生活に注意をしたほうがいい。
消化器系の病気では、「慢性膵炎」が膵がんの原因となることも知られている。慢性膵炎の原因は、多くがアルコールの多飲だ。膵がんは早期発見が難しい病気で、症状が出たときには進行して、治療が難しいことが多い。膵がん予防のためにも、アルコールは控えめが大切なのだ。
さらに、安倍晋三首相の持病で知られる「潰瘍性大腸炎」も、大腸がんリスクを高めることが知られている。この病気は、罹患期間が長いほど大腸がんの発症率が高くなり、診療ガイドラインによると、診断から10年で2%、20年で8%、30年で18%に大腸がん合併が認められるという。幸いなことに、大腸の炎症を抑える効果の高い薬が開発されており、治療を受ければ大腸がんのリスクも下がるとされている。激しい下痢の症状が続く人は、ぜひ専門医を受診して治療を受けてほしい。
こうした病気以外にも、特定の物質ががんと関係する場合がある。たとえばよく知られているのが、かつて保温断熱の目的で使われていたアスベスト(石綿)だ。現在は使用が禁止されているが、大量に吸い込むと胸の膜のがんである「悪性中皮腫」のリスクが高まるので、建築業や解体業の人は特に注意が必要だ。また近年、印刷に従事している人で、胆管がんを発症する人が多いことがニュースとなった。これは、作業の洗浄剤として使われる有機溶剤「1、2-ジクロロプロパン」が発症につながった可能性が高いとされている。
糖尿病、脂肪肝、慢性膵炎は、生活改善によってそれ自体を予防することができる。また、高い発がんリスクがわかっている物質には、できるだけ曝露されないよう十分注意をしてほしい。