「動物由来感染症」は、動物から人に感染する病気の総称。病原体により、人も動物も重症になるものと、人間だけが重症になるものがあります。その種類は世界保健機関(WHO)が確認しているだけでも世界中で200種類以上。そのうち日本には、寄生虫による病気を含めて数十種類あるといわれています。
主な病気の感染源や感染経路は?
気をつけるべき感染症とその原因、人間に起こる症状や予防法などをチェックしましょう。
〈イヌ・ネコからうつるもの〉
【エキノコックス症】
■原因:イヌやキツネのふん中に排出されるエキノコックス(サナダムシの一種)の虫卵(ちゅうらん)が感染源。手指や食物、水を介して虫卵が口から入ることで、人にも感染する。日本での主な感染源は、北海道のキタキツネ。
■症状:初期は上腹部の不快感や膨満感。エキノコックスは肝臓に寄生するため、進行すると肝機能障害を発症。感染して数年から十数年後に自覚症状が現れることが多い。
■予防・治療:感染源がいる地域の川や沢の水を飲むときは煮沸する、野山に出かけた後はしっかり手を洗うなどして、虫卵が口に入らないようにする。ふんが混ざっていることがあるので、素手で土をさわるのも控える。人に感染した場合は、手術で感染した肝臓を摘出する。
【パスツレラ症】
■原因:イヌやネコの唾液に含まれるパスツレラ菌が原因。かまれたり、引っかかれたりすることで感染する。エサを口移しで食べさせたり、顔をなめさせたりすることで感染する場合もある。
■症状:傷口が腫れる、化膿するなど。顔をなめられ、蓄膿症になることも。重症化で死亡例もある。高齢者や糖尿病患者、免疫不全患者等の基礎疾患がある人は重症化しやすい。
■予防・治療:エサの口移しなどの過剰接近を避け、引っかかれるなどしたらすぐせっけんと流水で洗い、消毒を。傷が赤くなったり、腫れたりしたときは医療機関で受診すること。感染したときは、抗菌薬で治療する。
【狂犬病】
■原因:かまれた傷から感染。イヌ以外でも狂犬病ウイルスを保有したネコやキツネ、アライグマなどから感染。
■症状:1〜3か月の潜伏期間を経て発症。最初は風邪のような症状で、かまれた箇所に知覚異常が現れる。進行すると不安感、飲水を怖がる恐水症、錯乱等の神経症状が起きる。発症後は致死率が100%。
■予防・治療:日本では50年以上、イヌの狂犬病の発生はないが、海外では死亡する例が多数発生している。海外で動物にかまれたらすぐ傷口をせっけんと流水で洗い、現地の医療機関を受診すること。 また、飼いイヌには、狂犬病ワクチンを接種させる。
〈鳥からうつるもの〉
【鳥インフルエンザ】
■原因:感染した鳥やそのふん尿、死体、臓器等との接触。
■症状:発熱や呼吸器症状(肺炎)が主な症状だが、多臓器不全で死亡する場合もある。
■予防・治療:通常のインフルエンザのように、手洗いやうがいなどで予防。また感染者が出た地域では、病気の鳥や死んだ鳥、野鳥にはむやみに近づかないこと。
【オウム病】
■原因:インコやオウム、ハトなどのふんに含まれる菌を吸い込んだり、かまれたりすることで感染。
■症状:38度以上の急な発熱、たんを伴うせき、全身倦怠(けんたい)感、食欲不振、筋肉痛、頭痛など。重傷化すると、呼吸困難や意識障害を起こし、手当てが遅れるとまれに死亡する場合もある。
■予防・治療:鳥かごはいつも清潔にする。鳥にさわったら手洗いやうがいをし、エサの口移しなど過度な接触は避ける。治療は抗菌薬を投与する。
〈は虫類からうつるもの〉
【サルモネラ症】
■原因:食中毒の一種だが、菌を保有した動物との接触で感染することもある。カメなどのは虫類は、50〜90%が菌を保有。ほかに家畜、イヌ、ネコなども保有していることがある。
■症状:多くの場合、食中毒と同じ胃腸炎症状が起きるものの、無症状の場合もある。敗血症、髄膜炎といった重い症状を伴う場合は、まれに死亡することも。動物は感染しても大抵は症状が出ない。
■予防・治療:動物、とくには虫類にさわったり、飼育スペースを洗ったりした後は、せっけんと流水で手洗いをする。治療は抗菌薬を用いる。
ペットと快適に暮らすために
動物由来感染症は、大切なペットが原因になることも少なくありません。すでにペットと暮らしている人も、これから暮らす人も、病気の感染を防ぐために必要なことを知っておきましょう。
安心してペットを飼うために知っておきたいこと
●どんな動物を飼う?
感染症対策の面からみると、どんな菌を保有しているか不明なので野生動物は飼わないこと。拾った動物を飼う場合は、まず獣医師に診てもらいます。
●ペットのトイレや居住スペースは?
台所、食堂、寝室にトイレや飼育ゲージなどを置くのはNG。乾いたふんが空気中に舞うのを避けるため、エアコンや窓からの風の流れも考えましょう。ペットのトイレや居住スペースを清潔に保つことも重要です。掃除の際に、体調が悪くて抵抗力が落ちているときは、マスクやゴム手袋を使うと安心です。
●予防注射・定期診断を
予防接種は飼い主の基本マナー。また獣医師と相談し、定期診断やノミ・ダニの駆除などもきちんと行いましょう。
●節度あるふれ合いが大事
家族と同じ存在でも、エサを口移しで食べさせる、顔をなめさせる、寝室に入れるなどの過剰な接触は控えること。さわった後は、せっけんによる手洗いとうがいを忘れずに。
妊娠中や乳幼児、高齢者はとくに注意を!
●妊娠中
妊娠中はとくに、寄生虫が原因の「トキソプラズマ症」に用心を。感染したネコ(とくに子ネコ)のふんが口に入る、熱処理していない食肉(とくに豚肉)を食べるなどで罹患(りかん)します。妊娠中に初めて感染した場合は、抗体ができるまでに時間がかかり、胎児の視力や脳に障害を与える心配があります。
●乳幼児と高齢者
乳幼児や高齢者は抵抗力が低いことが多いので、感染症を引き起こしやすいもの。高い確率でサルモネラ菌を保有しているは虫類は飼わないほうがよいでしょう。また、ペットの爪・毛の手入れや飼育スペースの清掃を徹底するなど、普段から清潔を心がけてペットと暮らすことが重要です。
乳幼児とペット
ペットを飼う際、感染症以外にも気をつけたいことがあります。ペットの毛やノミ、ダニは、くしゃみや鼻水などのアレルギー症状や小児ぜんそくを引き起こすことがあるのです。アレルギーの有無がはっきりするまでは、動物との接触は控えたほうがよいでしょう。