神足勝記を追って

「御料地の地籍を確定した神足勝記」を起点として「戦前の天皇・皇室・宮内省の財政について」のあれこれをとりあげる

No.134 思い出すこと 10

2024-04-09 00:35:51 | 追憶
   
  〽あっかいはなつ~んで~ あ~のひとにあげよ

(1)私は、理由はいろいろあるのですが、財政学の講義をまともに受けたことがありませんでした。最初は、ゼミの宇佐美誠次郎先生を日本経済論や経済原論が専門と思っていました。しばらくたってから、財政学総論を担当されていること、大内兵衛先生のお弟子さんであること、昭和財政史、とくに「臨時軍事費特別会計」や「金融」などなどを執筆されていたと知って、モグリで聴講に行こうかと思ったこともないではなかったですが、なかなかその機会がありませんでした。
 法政大学の大学院に入った1979年と思いますが、先生があと2年で停年となるために財政学総論の講義もなくなることを知りました。そこで、記録に取る許可をいただいて、大教室のまん前に陣取って、テープに取りながら聴講しました。毎回、やや大きめのラジカセをかついでいって無事取り終えました。一度の休講もなく15回採録できました。

(2)細かいことは端折りますが、テープは自分が3分の1を、残りの3分の2は学部のゼミ生が起こし、しばらくして先生が心筋梗塞で倒れてしまわれたので、OBの諸先生が集まって文章を整え、1982年にこれが法政大学通信教育部のテキストになりました。
 
  

 留学から帰って、また前と同じように先生宅へお伺いしたとき、上の写真のものができてきていて、先生から直接にいただきました。そして、これに私が見入っていると、先生が遠慮がちに
「献辞を書こうか」
といわれ、つぎのように書いてくださいました。

  

 この時から、もう40年以上がたちました。
 『財政学』と題する本や教科書はたいへん多いですし、いまでもしばしば出版されるのを見ます。しかし、その中でもこの本はたいへんわかりやすい。とくに、財政学がどういう学問か、どういう発展をしてきた学問なのかを学ぶには、いまでもこれに代わるものはないといってよいでしょう。
 前にも書きましたが、財政学は用語が面倒なのと金額が大きいのでとっつきにくい学問ですが、この本は、先生の生の講義の声が聞こえてくるような本で、わかりやすいです。この本と講義のテープは私の財産です。

(3)その後、先生は病気から回復されて、この本に手を入れて、1986年に青木書店より出版されました。

  

 この本には、「人名索引」と「事項索引」がつけられ、講義調ではなく、読み物としてスッキリとしたよい本になりました。しかし、この本も今では絶版になってしまいました。運が良ければ古書店で手に入ることがあるかもしれません。あったら「買い」です。
 とはいえ、先生には申し訳ない言い方ですが、私は法政大学通信教育部のテキストの方が好きです。理由は、先生の生の声が聞こえてくるように思うからです。寡黙な先生が、マイクを使っていたとはいえ、朗々と講義をされる姿が今でも思い出されるからです。

   

(4)上に書きましたが、私の恩師は宇佐美先生、その恩師は大内先生・・・、ですから、ちょっと言葉にしにくいですが、つまり、私は大内先生の孫弟子です。まあ「不肖の」です。大内先生も迷惑と思われていることでしょう。
 ということは別にして、『大内兵衛著作集』(全15巻、岩波書店、1975年頃刊)があります。このごろは読む人がどれほどいるのかわかりませんが、古書目録によく出ます。しかも、どういうわけか、注意して見てると、1冊ずつだと3000~5000円するものが、15冊全巻まとめて買うと1500円くらいで買えます。経済学をやるなら「買い」です。まずこれからといってもよいでしょう。
 この中には面白いものがたくさんありますが、第8巻に「経済学」が入っていま。これが実にわかりやすく、中身が濃い。
 また、見ると「序」に、「もと、法政大学の通信教育の経済学のテキストとして書かれた」こと、また「これを使って、私は、東京大学の教養学部で経済学の講義をやって見た」と書かれています。

 確かめたわけではありませんが、宇佐美先生が私に書いてくださったの献辞の意味には、この大内先生のテキストに対する感慨も含まれていたのかもしれません。いまではそう思っています。

   
    山椿



 


コメント
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