早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

早春社 令和二年二月創刊95周年記念 「早春作家選集 第十集」刊行

2020-07-18 | 早春社のあゆみ
早春社から 令和二年二月創刊95周年記念して 「早春作家選集 第十集」が刊行されました。


 早春は、大正十五年二月永尾宋斤祖師に因って創刊されました。
これまで歴代主宰神田南畝・藤本阿南・岡本香石・岡野洞之・渡辺乾魚各先生方が継承されて来られました。
祖師の掲げた三是「自然讃仰」「郷土敬愛」「人生未到」の精神を守り、今日まで早春作家の誇りを持ち伝統を引き継いで参りました。
 平成二十四年、早春一千号を記念に「第九集」を刊行いたしました。
その後社会情勢も推移し、早春作家の高齢化も進み、そこで百周年を待たず、五年前倒しという結論となりました。
然り、令和元年八月、プロジェクト立ち上げ工程を進めて来ました。
 以て、令和二年七月、九十五周年を記念に早春作家選集「第十集」を上梓する運びとなりました。
同じく七月には、通号一千百号ともなり、この上ない二重の喜びでございます。
これは偏に先輩の先生方、会員一同の熱意の結集であります。
ご家族の賛同も賜り心より感謝申し上げます。
今後百周年に向かって舵を確と取ってまいる所存でございますので、ご理解とご協力を切にお願い致します。
最後になりましたが、企画並びに編纂にあたられた特別委員・編集委員・青木印刷各位に深く御礼申し上げます。

  令和二年七月吉日
                                南 杏子


祖師 永尾宋斤 大正15年2月〜昭和19年5月永眠

天朝や天のいろどり地のしらべ
早春や枯れたるものに光あり
雲の峰きそふと芭蕉を巨木とし
新涼や氏家芭蕉を巨木とし
古日記閉じたり生きる日を餘し

二代主宰 神田南畝 昭和21年8月〜昭和58年2月

歳旦やうべ天地に盈つ大日
牡丹の奕奕蝶をつつみける
山脈は萬緑こぞり潔し
かなかなや山は安堵に暮れ初むる
寒濤の迅忌き一つを見放さず

三代主宰 藤本阿南 昭和58年3月〜昭和63年5月

はるかなるもののよろしき初景色
ふるさとの霞に仏ごころかな
行水のわが胸板へ星飛べり
能衣裳大きく展ず菊の燈に
星霜のままの冬枯れ大和寺

四代主宰 岡本香石 昭和63年6月〜平成4年8月

山稜は染をひろげて初日の出
硯海に余寒の水をつぎたせり
夏蝶が孤独まぎらす石佛
秋鯖や漁夫ははがねの皺きざむ
枯れを行く山頭火にはなりきれず

五代主宰 岡野洞之 平成4年9月〜平成20年12月

元朝や国道まっすぐにして広し
棟梁の弾く墨糸春の昼
ぼうたんの散るも運命の遅速かな
石榴爆ぜ笑ひ佛が口開く
燈台に風来て縋る冬北斗

六代主宰  渡辺乾魚 平成21年1月〜平成29年2月 

神苑を蔽ふすなはちはち初明かり
早春や目を閉じあたり美しき
蝸牛いづくへ行くも夕澄める
十三夜にはかに動く雲のあり
巨大なる雪嶺ただ燦遠伊吹

元顧問 直原玉青 平成17年9月 永眠   『早春』の表紙を飾っている南画の第一人者。 禅僧。

句画禅の寺とす願ひ初読経
一亭に春の眺望禅寺背に
水牛を遊ばし童子昼寝せる
秋山に画館禅堂句碑の道
画僧もて継ぐべき牡丹寒肥す

師の一語  南 杏子  主宰 平成三十年七月〜

初比叡山襞しるき縹色
千体を飾る雛に哀史あり
咲き満ちて花は命を輝かす
新茶濃く淹れ正心を貫けり
縞馬の縞に涼しさもらひけり
美ら海へいろとりどりの夏帽子
箱庭に故山の見ゆる水車小屋
敗戦忌母のゐそうな美容院
残暑なほ反りをゆるめぬ太鼓橋
だまし船持つ指燈下親しめり
大空の端ふくらまし鶴来たる
今日と言ふ一ㇳ日に感謝茸飯
願掛けの草鞋に籾のひとつあり
山村に生まれて老いて菜種蒔く
極月や忘れてならぬ師の一語

薪能  石田輝海 代行 平成二十九年二月〜平成三十年七月

注連縄で結ぶ絆の夫婦岩
仮設地に言訳ほどの注連飾
垂直に飛び立つ春のオスプレイ
付いて来し子猫に餌を与へけり
碁敵に新茶の封を切りにけり
春眠の五線はみだす高鼾
薪能ゆるりと動くシテの影
羅に包む女将の胸の内
サングラス外して父に戻りけり
睡蓮や泥に咲けども仏花
炎天に令和の影の蹲る
満月や男小泉新次郎
爽やかやオバマの折し鶴一羽
犬猿の仲を取り持つ温め酒
短日の昼を灯して骨董屋