宋斤の俳句「早春」昭和九年十二月 第十八巻六号 近詠 俳句
近詠
古甌にけふのおもひや冬立つ日
麓川町のかゝりの小春かな
笹鳴や墨の巾なるほそ硯
松楓初冬の荘の門邊して
棧庭や冬の匂ひが潮のほか
泉湧く波のこまかやか冬の凪
冬の菊を活けて乳をやる子の母の
冬の蝿眼をあたゝむる湯気に来し
學校になつて城址の八つ手花
冬の夜や潮ひき時を船下る
鳥府も机邉の一ツ句屑拾つ
冬の川まつくらがりに筏かな
牧場の娘はらから野は霜に
駅一つ茶店も一軒冬ざれて
冬の海にちらばる島が夕日かな
冬日南瓦礫を踏んで入る戸かな
門といへどもすたれたり冬の蝶
泊舟の焚く火に明けて冬の星
埋み火にしてなほ立ちあえぬ机哉
靴下を満洲へ編む日向かな
錢蹴って拾ふてさりし冬の街
往き帰りに逢ふ公園の冬の人
炭舟の砂舟の冬ぐもり哉
家はざまが日南伸しぬ石蕗の花
某朝のこと鶺鴒我家の障子ぬちにあり (15句)
鶺鴒をひと夜泊めたる障子かな
我欄下道頓堀といえど盛場を去って筏の川港なり
鶺鴒が鳴いてむかしの梅津川
鶺鴒の座敷空とび冬日晴れ
家のうちを鶺鴒たゞに白く飛ぶ
鶺鴒はその尾を打つに書棚かな
考ふる顔に鶺鴒糞落す
鶺鴒のおびえてゐるがしなやかに
鶺鴒に乙女ごゝろを見たりけり
窮鳥を眼に弄び火桶かな
鶺鴒逃げよ障子開けやる川日南
鶺鴒よたのしむ我に遁げよ居よ
鶺鴒のいま飛ぶ欄に尾を打って
鶺鴒のつんつん飛んで町しゞま
鶺鴒に徒然麻の久しかり
草の香
草の香に沈みて家のともりけり
花野
毎日の雲の夕ぐれ花野かな
行李飯花野の石に拂ひけり
地蟲鳴く
すさまじき芭蕉の林地蟲なく
押賣の去なぬかど口地虫鳴く
地むしなくや大寒むかろと筵やる
宋斤先生歓迎俳句會 淡路洲本公会堂 十月二十五日
紅葉来て夕べ潜るに瀦
いちまいの眞紅きさめるもみぢ哉
秋の聲一壺の水にうつるもの
浜濱より秋月居まで
舟ついて舊知にまみゆ秋日はれ
濱砂の歩に吹き立つや秋の風
潮騒を踏まじと踏みぬ秋の濱
久に来し此の島なれや秋とこそ
旅なれや魚臭なつかし秋深み
家間ひのとあるをぬけぬ秋日影
此のあたり會遊の道や柿も賣る
町いつと山の登りや草紅葉
訪ふて先づは二階に秋の海
秋の海遠ち方島のまぎれけり
石蕗咲いて庭は山なる日南哉
茸生へて庭なれはなり石蕗の花
この窓も又山かげや秋深し
ひとゝころ高水落ちて秋の庭
山庭の噴水秋と上りけり
句など晝など書いてふりむく秋の山
島に居ることを忘れて秋の蝶
船心地今にしあるや秋館
秋の山照りくもりして潮もかな
口連吟
よべ逢ふてまた朝菊に語る哉
句にあけて今日は拾ひし秋日和
秋の朝山に雲湧く東か
秋はれを槇は常芽に光けり
松無惨の颱風いまに秋の晴れ
山鴉とんぼうもまた秋のはれ
雲秋の山上なにゝ住ひける
この棟の雀を聞いて秋に居る
朝を来る雀に秋の晴れたかし
いにしへをながれて秋の物部川
ゆきたしと見て秋はれの山上寺
三熊山吟行
三熊山を越えて天主閣に展望し、海邉の四州園まで
四州園口吟
秋山に入る道べなり石蕗の花
山道や秋行遅速おのづから
残る蟲岩割り櫻と教へられ
露の秋拾ふ芝ヱの木の葉錢
秋の山此の所より城址なり
つま先に木の實はぬれてゐたりけり
天守閣に登らずあれど秋の晴
冷かに日天月天井戸の水
山中に一水湛へさす紅葉行
蟷螂の老いたる掌に山路ゆく
蟷螂の枯れたる色も土の秋
山上に語り笑ふて雲は秋
木の實拾ふて疊の上に友待てり
木の實ふむ音に秋興そゝる哉
先生の碑と汝が彳つ露の秋
山歸來足にかゝるも秋なれや
山歸來露の乾きに蟲喰める
柴の女がゆきずり見する菌哉
秋の花みな菊をして露しとゞ
埠頭より天女丸より
秋の海浪あれけれど去りおしみ
早春社十一月本句會
明治節町野の空と歩きけり
明治天皇とはに在すや菊の空
早春社十月例會
逃げ水の草原しむが秋のかど
寺町やこゝに石屋の秋のかど
かど秋や夕はきたる塔のかげ
初歩俳句會
湖透いて舟往く見ゆる紅葉かな
霧なほもぬらす朝日の紅葉かな
早春社日刊工業新聞例會
朝寒の木の實机上にひろひ來し
朝寒や石の上なる栗の桝
コスモスに沈みてなしや山の霧
故田中瓦生追悼句會 伊丹 墨染寺
追悼
朝にたつ野分のあとの泉哉
兼題蓮
蓮池は遠き光に秋ざれぬ
近詠
古甌にけふのおもひや冬立つ日
麓川町のかゝりの小春かな
笹鳴や墨の巾なるほそ硯
松楓初冬の荘の門邊して
棧庭や冬の匂ひが潮のほか
泉湧く波のこまかやか冬の凪
冬の菊を活けて乳をやる子の母の
冬の蝿眼をあたゝむる湯気に来し
學校になつて城址の八つ手花
冬の夜や潮ひき時を船下る
鳥府も机邉の一ツ句屑拾つ
冬の川まつくらがりに筏かな
牧場の娘はらから野は霜に
駅一つ茶店も一軒冬ざれて
冬の海にちらばる島が夕日かな
冬日南瓦礫を踏んで入る戸かな
門といへどもすたれたり冬の蝶
泊舟の焚く火に明けて冬の星
埋み火にしてなほ立ちあえぬ机哉
靴下を満洲へ編む日向かな
錢蹴って拾ふてさりし冬の街
往き帰りに逢ふ公園の冬の人
炭舟の砂舟の冬ぐもり哉
家はざまが日南伸しぬ石蕗の花
某朝のこと鶺鴒我家の障子ぬちにあり (15句)
鶺鴒をひと夜泊めたる障子かな
我欄下道頓堀といえど盛場を去って筏の川港なり
鶺鴒が鳴いてむかしの梅津川
鶺鴒の座敷空とび冬日晴れ
家のうちを鶺鴒たゞに白く飛ぶ
鶺鴒はその尾を打つに書棚かな
考ふる顔に鶺鴒糞落す
鶺鴒のおびえてゐるがしなやかに
鶺鴒に乙女ごゝろを見たりけり
窮鳥を眼に弄び火桶かな
鶺鴒逃げよ障子開けやる川日南
鶺鴒よたのしむ我に遁げよ居よ
鶺鴒のいま飛ぶ欄に尾を打って
鶺鴒のつんつん飛んで町しゞま
鶺鴒に徒然麻の久しかり
草の香
草の香に沈みて家のともりけり
花野
毎日の雲の夕ぐれ花野かな
行李飯花野の石に拂ひけり
地蟲鳴く
すさまじき芭蕉の林地蟲なく
押賣の去なぬかど口地虫鳴く
地むしなくや大寒むかろと筵やる
宋斤先生歓迎俳句會 淡路洲本公会堂 十月二十五日
紅葉来て夕べ潜るに瀦
いちまいの眞紅きさめるもみぢ哉
秋の聲一壺の水にうつるもの
浜濱より秋月居まで
舟ついて舊知にまみゆ秋日はれ
濱砂の歩に吹き立つや秋の風
潮騒を踏まじと踏みぬ秋の濱
久に来し此の島なれや秋とこそ
旅なれや魚臭なつかし秋深み
家間ひのとあるをぬけぬ秋日影
此のあたり會遊の道や柿も賣る
町いつと山の登りや草紅葉
訪ふて先づは二階に秋の海
秋の海遠ち方島のまぎれけり
石蕗咲いて庭は山なる日南哉
茸生へて庭なれはなり石蕗の花
この窓も又山かげや秋深し
ひとゝころ高水落ちて秋の庭
山庭の噴水秋と上りけり
句など晝など書いてふりむく秋の山
島に居ることを忘れて秋の蝶
船心地今にしあるや秋館
秋の山照りくもりして潮もかな
口連吟
よべ逢ふてまた朝菊に語る哉
句にあけて今日は拾ひし秋日和
秋の朝山に雲湧く東か
秋はれを槇は常芽に光けり
松無惨の颱風いまに秋の晴れ
山鴉とんぼうもまた秋のはれ
雲秋の山上なにゝ住ひける
この棟の雀を聞いて秋に居る
朝を来る雀に秋の晴れたかし
いにしへをながれて秋の物部川
ゆきたしと見て秋はれの山上寺
三熊山吟行
三熊山を越えて天主閣に展望し、海邉の四州園まで
四州園口吟
秋山に入る道べなり石蕗の花
山道や秋行遅速おのづから
残る蟲岩割り櫻と教へられ
露の秋拾ふ芝ヱの木の葉錢
秋の山此の所より城址なり
つま先に木の實はぬれてゐたりけり
天守閣に登らずあれど秋の晴
冷かに日天月天井戸の水
山中に一水湛へさす紅葉行
蟷螂の老いたる掌に山路ゆく
蟷螂の枯れたる色も土の秋
山上に語り笑ふて雲は秋
木の實拾ふて疊の上に友待てり
木の實ふむ音に秋興そゝる哉
先生の碑と汝が彳つ露の秋
山歸來足にかゝるも秋なれや
山歸來露の乾きに蟲喰める
柴の女がゆきずり見する菌哉
秋の花みな菊をして露しとゞ
埠頭より天女丸より
秋の海浪あれけれど去りおしみ
早春社十一月本句會
明治節町野の空と歩きけり
明治天皇とはに在すや菊の空
早春社十月例會
逃げ水の草原しむが秋のかど
寺町やこゝに石屋の秋のかど
かど秋や夕はきたる塔のかげ
初歩俳句會
湖透いて舟往く見ゆる紅葉かな
霧なほもぬらす朝日の紅葉かな
早春社日刊工業新聞例會
朝寒の木の實机上にひろひ來し
朝寒や石の上なる栗の桝
コスモスに沈みてなしや山の霧
故田中瓦生追悼句會 伊丹 墨染寺
追悼
朝にたつ野分のあとの泉哉
兼題蓮
蓮池は遠き光に秋ざれぬ