早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十年一月 第十九巻一号 近詠 俳句

2021-09-03 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
「早春」昭和十年一月 第十九巻一号 近詠 俳句



   近詠
  歳旦頌
大胆や幹坤凍てゝ鶴一歩

元日の池邊に見る鶴正し

初日の出ひたしづもりに湖の水

照る水は歳明けたりぬ鳰

門さきの年となりたる柳かな

初空のすなはちあまつ日の光り

山の木の今朝はかはらず初風す

丹頂や嘴のよごれも㬢

恵方ゆく途の渡舟に晴たのし

初詣で樹の中肩に降る葉かな

向原や凧の下なる聲きこゆ

初雀舳にあるく二つかな

水澄みて深し初凪船の腹

御降りや家居めぐってこまやかに

初富士を仰ぐあぎとや松籟す

福壽草をさなさみちて咲けるかも

羽子の音の朗らか山は朝はろか

崕の霧しらみして井華水

射初めす人山茶花の散るに出づ

正月や白文鳥のこの朝な

柚子の玉初春夜は月明かり

春永の居るなる我と桔槹

箸紙や友の来る名を誰れ彼れと

蓬莱とならべて芭蕉座像かな

初綱や妻も子も曳く潮の花


井華水梅山花のかたはらに

  早春社友「いかにも正月らしいと思ふ俳句」照會から
思ひなく火桶に居たり三ヶ日

初日いま洽く山も海も哉

大君の地に花咲きて福壽草

正月の霞しとうて野に出づる

元朝や天のいろどり地のしらべ

明けてくる元旦濱のまさごかな

   尾花
とぼそより野のしろき見る尾花かな

ふかく来て尾花にあるは獵家かな

ところなれば川さかな焼く尾花かな

   秋風
秋の風湖に面し朝を行く

馬の蝿飛んでは遠し秋の風

秋風や山の上なる村の端

  栗
栗山やこゝに社の南透く

栗計る音やからりと峽の晴れ

大栗のこの實れる山を訪ねけり

  雪しまき
雪しまき竹にみどりを見する哉

  冬櫻
燈をあけて散るはなかりし冬櫻

  ふいご祭
野を前に一軒ふいご祭り哉

  早春社十二月本句會
涸れ涸れて横井戸風を吹きにけり

水涸れの兎の糞を掃きにけり

温泉ながれも沁み失せて涸磧かな

野は霞乙子朔日東山 

  早春社十一月例會
落葉掃いて神留守顔の仕丁哉

ふかふかと竹の小春が神の留守

梟の晝を見付けて神の留守

  早春社洲本
水鳥に語りてぞ行く傘の内

水鳥の一點はれし入江哉

庭宮に鈴をならすも冬ごもり



   早春社無月例會
厳神の留守なる木の葉ちりしきて

   早春社浪速例會
かど砧打ちかけありて月下哉

あち打てばこちは小刻む砧かな

   早春社日刊工業例會
行く秋の庭募るゝまで小鳥哉

行く秋を塔の手摺りにながめけり

   奉燈俳句會 金沢
穴のよな一間ありけり夜學寺

夜學みち往ける刈田となりけり

菊の中一鉢ばらのこぼれたる

  神戸又神俳句會
住みそめて立つ背戸口の野菊哉