早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十年三月 第十九巻三号 近詠 俳句

2021-09-09 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十年三月 第十九巻三号 近詠 俳句

  近詠
春風の雲のそらこそ光りけり

夜霞や町筋遠く神拝む

道ゆけば小山も超すや春の宵

壺にさし咲くはも彼岸ざくらかな

はこべらの花雨みづに浮きにけり

桃つぼみ渡月の中に抱へけり

みな啼いて梢に出たり春の鳥

畑境芹をつたふて家路かな

初蝶に逢ふてたのしもひとりゆく

朝の日の框に梅を貰ひある

早春の夜をしろくする空の雲

春寒くチロリの酒の匂ひなり

雛店に働く人に春日影

墓の井を椿がくれに汲める哉

浅さ浅さとしてや春の夜水のいろ

川の欄三とせを馴れて春夜半

何も食べずに河鹿が鳴くや春日南

からたちはなほ春浅し濠の波

鶺鴒の春知って飛ぶや水のうへ

知らぬ間の雨に土ぬれ春の晝

春の野に夜は人の住む障子哉

春の雲まことにひとつ浮きにけり

星鰈軒に吊られて春のもの

水煙草この頃吸わず春陰す

  天王寺正善院初庚申に参る
春泥を寒く詣でぬ初庚申

  不言不聞不見の三猿をおくは庚申堂の例なり
三猿に初庚申の悟り顔

   庚申に詣でて北面して蒟蒻を食ふは禁厭なり、境内蒟蒻店に殊に女子の百二百北向にむらがりて食べるの風習奇観なり
風花や庚申こんにやく人の渦

いみじさの庚申蒟蒻北斗星

庚申こんにやく串を落とすも春の闇

北向きこんにやく皆食って去るショール哉

庚申こんにやく肩笑ひ合ふ女の子

   また庚申昆布、北向昆布とて賣る出店境内に軒を並ぶ、購ひ歸りて六十に切り六十日間ニノ庚申まで日々食へば悪事災難を除くと
夜ろこんぶ火桶まどひの爪割きに

ふところに一巻帰る庚申昆布

   庚申昆布はその夜誰れ彼れに頒ち與へて福ありと即ち夜こんぶをよろこぶに通わせての故なり
夜ろこんぶ火桶まどひの爪割きに

ふところに一巻歸る庚申昆布



    冬来る
冬来る水の面のさりげなく

冬来る燈のまさしくも山寺哉

魚の中生きたる蝦や冬来る

    早春社二月本句會
温泉のみちや有るに馴れ行く芹の水

芹つむや山を此方へひな曇り

芹つんで冬の残れる田の面哉

水車春の道邉の暮れながら

春のみち寺門に入って鳩すゞめ

野は闇の春の小みちの一筋に

  早春社初例會
初筏汀の雪を突いて出づ

初筏國名川名と降りゆく

朝霧を木の葉浴びたり初筏

女等のさまざま焙る焚火かな

焚火より小手をかざして故山かな

  早春社無月例會
古艸にちつて厨のうろこ哉

燈籠の油も舐むや雪の鳥  

  早春社洲本鐘紡例會
すはや火事鋤鍬とつて霜を飛ぶ

  早春社わだつみ例會
極月の樹間のともし潜り入る

極月の水の昏さを覗きけり